卓球Tリーグの「琉球アスティーダ」は16日、元オリンピック代表の福原愛さんが社外取締役の候補になったことを公表した。理由について同社は「アジアで知名度が高く、経験豊富な福原さんの知見がチームにとって大いにプラスになる」と説明している。
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取引・資本関係のない社外から迎えられ、社内の利害やしがらみに囚われない視点から経営を監視、企業の透明性を高める役割が期待されている社外取締役。今年3月に施行された改正会社法では上場企業や大企業などに設置が義務付けられており、東京証券取引所では来年4月から上場基準として社外取締役を「2人以上」から「3分の1以上」とすることを求めるなど、社会からの期待がますます高まっている存在だ。
■「株主からの非難の対象にもなる重い仕事だが、そうでなければ存在価値はない」
4社で社外取締役を務めているKADOKAWA社長で慶應義塾大学の夏野剛・特別招聘教授は、次のように話す。
「取締役会というのは、企業における最高意思決定機関だ。様々な会議を通って上がってきた案件がここで差し戻されるとメチャメチャ大変だ。そこで大企業の場合、事前に社外取締役に情報をリークしてしまうパターンもあるが、それでは取締役会を“シャンシャン”と終わらせるための“ロビイング”になってしまうし、社外取締役の意見が事前に伝われば、対策されてしまうことにもなる。
やはり専門的な知識が必要な案件は別として、なるべく事前に説明せず、取締役会で議論した方がいいと考えている会社も多いし、僕もその方が好きだ。実際、取締役会の場で“いや、ここはこうじゃないですか”と僕が口火を切ると、他の社外取締役が“それはやっぱりおかしいね”と言い始め、本当に案件が差し戻しになることもある。出席状況も開示されるので、回数が少なければ株主からの非難の対象にもなる。重い仕事だが、そうでなければ社外取締役としての僕の存在価値がなくなる。
また、大企業の経営者経験がある人が選任されることが多いが、経営者の経験といっても、どういうバックグラウンドで、どういう企業の経験があるのかということを人材紹介会社が紹介してくるので、面接した上で、“この人だったらお願いできるかもしれない”と、本当に採用のプロセスを経ている。選任されれば報酬の3割くらい稼げるから、それでメチャクチャ儲けているヘッドハンティング会社もある。
そしてうちの会社の場合は、社外取締役が3分の1以上いるので、社長という立場からすると大変だ(笑)。それでも10年以上やっていて意見も言ってくれる社外取締役の方や、新しい目で見てくれる1、2年目の社外取締役の方など、多様性がある方が緊張するし、鍛えられる。大企業の場合は2、3年ごとに交代してしまうことも多いが、僕は任期も一律でない方がいいと思っている。
もっと言えば、僕は社外取締役が過半数くらいいてもいいくらいだと思っている。そうでなければ、社内の重要事項なのに“あの人が言っているんだから仕方ないよな”という社内の人間関係とかで通ってしまうことになる。上場企業としては、それではダメだ。取締役会というのは、“社長には逆らえないから”とか“次の人事”にとか、そういう遠慮があってはいけない場所だ。その意味では、“出世コース”の最後にあるのが取締役ではない。それなのに、日本の会社はそういう意識が強い。だから社外取締役を過半数にすれば、“目指す場所”ではなく、“会社のために最も良いことを提案する場所”になると思う」。
夏野氏の話を受け、女性の社外取締役紹介の事業も展開している株式会社コラボラボの横田響子代表取締役は「日本経済は“失われた30年”などと言われているし、今の主力事業が5年後も通用するかどうか分からないと考えている企業も7割ほどに達している状況だ。変わっていかなければという時には、やはり第三者の目や異なる知見、多様性が絶対に必要になってくる。リスクを回避したり、チャレンジを後押したりする役割として社外取締役が求められているのだと思う。
ただ、どういう方が適任なのかが分かりにくいということもあり、企業としてはまず著名な方や弁護士資格や会計士資格を持った方など、分かりやすいところから手を出していく傾向にはあると思う。そういう中で、女性の社外取締役のニーズが非常に高まっている。うちの会社も2017年から経営経験のある女性の社外取締役候補の紹介事業をしているが、ここ1、2年、問い合わせがメチャクチャ増えている」と話した。
■「気軽に受けられるような仕事ではないと思うし、“広告塔”というだけでは長続きはしない」
東京商工リサーチの調査によれば、日本の上場企業の女性役員の比率は7.4%にとどまり、しかも女性の社外取締役が押し上げているのが実態のようだ。また、女性の社外取締役といえば今年3月、俳優の酒井美紀が製菓大手「不二家」の社外取締役に就任するなど、元アナウンサーやキャスターなどメディアで活躍してきた著名人が選任されるケースも増えている。
夏野氏は「自分に自信のない業界であれば引き受けないだろうし、実際に取締役会で貢献ができなければ本人だって辛い。企業の側も、単に女性だからとか、芸能活動していたからというだけではさすがに選ばない。番組が用意したリストを見ても、日産の社外取締役の井原慶子さんの場合、タレントというよりも日本で初めての本格的な女性のレーサーとしての知見を持っていると思う。菊間千乃さんも元アナウンサーだが、今は歴とした弁護士だ。酒井美紀さんや竹内香苗さんについても、スペシャリティがあることを企業の側が認めていると思う。その意味では、福原さんも全く問題ない。だって卓球の会社なんだから」とコメント。
横田氏は福原愛さんが候補者となったことについて「著名であることだけでも、役割を果たしているという部分もある。福原愛さんの場合も、そのことによってチームや卓球界を盛り上げられるだろうし、最近まで現役として活躍され、海外経験も豊富なので、様々な知見も共有できる。なおかつ女性というだけでなく、年齢も33歳なので、若さという点からも貢献ができると思う」との見方を示した上で、次のように語った。
「女性の役員比率を高めた結果、ノルウェーでは時価総額が12.4%下がった企業が現れたなどと、悪い数字が出るとそれが一人歩きしがちなのが残念だが、アメリカのスタートアップの中には、女性の役員がいるほど利益が出ているという数字もある。他国では女性役員が40%程度を占めているのに、なぜ日本は8%以下なのか。海外に比べ、日本の女性や若手はレベルが低いのかと問いたい。金融業界のある企業の方が、社外取締役に女性が増えただけで、かなり社内で発言がしやすくなったとおっしゃっていた。その意味では、女性の比率を上げていくということは価値のあることだと思う。
一方、社外取締役についていえば、出席して何を言ってくれるかだ。決まったことを“シャンシャン”と言って1時間くらいで終わらせてしまう取締役会もあれば、分科会を作り、調査をしながら裏側でしっかり回した上で“シャンシャン”と終わらせている取締役会もある。企業によって運用の仕方は様々だが、結局は株主総会などの場ではそうした活動内容や本当に機能しているかが確認されることになるし、不祥事などが起きた場合には訴訟リスクも出てくる。だから気軽に受けられるような仕事ではないと思うし、“広告塔”というだけでは長続きはしないと思う。それは弁護士や会計士であっても同じで、自分の専門分野を語るだけ語って、企業がどうあるべきかを話してくれないと事務局が困ってしまうような社外取締役の場合、次はちゃんと機能する方を選ぶよう変わってきている。その意味でも今は過渡期だ」。(『ABEMA Prime』より)
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