元モー娘。尾形春水も走った過激ダイエット 男性や子どもの患者も増加する「摂食障害」
摂食障害を当事者たちに学ぶ
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 起床し、着替えてコーヒーを淹れ、出かける準備をする女性のYouTube動画。ごく普通の“モーニング・ルーティン”のようにも見えるが、一つだけ違うところがあった。投稿者のろぺさんは、30代にして“入れ歯”を利用しているのだ。

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 きっかけは、18歳の頃に行っていた過激なダイエットだ。とにかく“食べない”状態を維持したところ、体重が激減すると同時に、“食べたくないけど、体は欲している”感覚から、食べ物を口に入れては嘔吐することを繰り返してしまうようになる。結果、口内は胃酸と虫歯でボロボロに。「摂食障害」だった。

■時に生命にもかかわる精神疾患

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 日本摂食障害協会の理事長も務める鈴木眞理医師によれば、摂食障害とは、「心理的な要因から食べ方がおかしくなってくる病気」だといい、ろぺさんのような「神経性やせ症」のほか、「神経性過食症」「過食性障害」の3つが認定されているという。時に生命にもかかわる精神疾患だ。

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 「国立成育医療研究センターのデータによれば、昨年は外来患者さんが2倍になっている。私の外来も、世界的にもそういう傾向がある。やはりコロナ禍によって楽しみにしていた行事や競技会、コンクールがなくなったとか、オンライン教育への切り替えなどによって、子どもたちの中でストレスが増えているということだと思う。

 病名が付くのは症状が週に1回以上だが、1カ月に1回程度、という方もたくさんいらっしゃると思う。拒食症の死亡率は高く、6年追いかけてみると6~11%にもなる。イギリスでは20年間で見て20%いう報告もある」。

■元モー娘。尾形も一時は危険な状態に…

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 元モーニング娘。のメンバーで、現在はYouplusで活動する尾形春水さんも、確定診断は受けていないものの、摂食障害に近い状況に陥り、苦しんだ経験を告白している。高校生だった当時、歌とダンスに苦手意識があり、「痩せてかわいくなって目立とう」と考えてダイエットを始めた。「目に見えて体重が落ちていくのが分かるので、ゲームをクリアする感覚、“認められた”という感覚を持ってしまい、どんどん過度にダイエットをしてしまった」。

 そのうちに「食べたくない」という意識が芽生え、1日に1食、紙コップの分だけのご飯を食べるというダイエットを続けた。結果、158cmの身長に対し、体重は35kg程度にまで減少。「体力と集中力が低下して、感情の起伏がなくなってしまった」。

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 それでも“どんどんかわいくなっている”“まだ痩せたい”という出口の見えない感覚から、病院にかかることはなかったという。ところが周囲から心配され、24時間営業のスーパーの近くに引っ越したことで生活が一転、食事を摂るようになり、最終的には25kgのリバウンドをした。「今まで我慢していた分、とってもご飯がおいしくて。涙を流しながらプリンを食べたこともあった」。

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 前出の鈴木医師は「標準体重の80%を切ると“ひどい痩せ”ということになるので、尾形さんは危険なところまで痩せていた状態だったと思う。“これはまずいぞ。もう戻さなきゃ”という理性が働いていれば過激なダイエットの延長だと思うが、それでも自分の体を見て“まだ太い”“まだ痩せたい”と思っていたとすれば、やはり病気だったのだろう」との見方を示した。

■「男のくせに」と言われてしまった

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 ろぺさんや尾形さんのように、若い女性に多いイメージもある摂食障害。それだけに、理解されず苦しんでいる当事者の男性もいる。

 「幼い頃に太っていて、そのコンプレックスがあった。加えて感情を表に出すのが苦手で周りに溶け込めず、いじめを受けた。しかし、そのことで一気に痩せ、コンプレックスが解消された喜びを覚えてしまった。体型が変わったことで、人付き合いで積極的にもなれたので、そこから食に対する不安感や嫌悪感が出始めて、拒食と過食を繰り返すようになった」。

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 吉沢さん(28歳)の場合、こうした症状が一時は収まっていたものの、コロナ禍での仕事の減少やストレス、さらには将来の不安から摂食障害が再発。現在も症状が続いている。

 拒食の状態と過食の状態が繰り返し訪れる日々。職場である建設現場で動けなくなったり、立ちくらみに悩まされたりしている。しかも診断書を会社に提出すると、「男のくせに」などと言われ、世間的には認められにくい病気であることを痛感したのだという。「“メンタルが弱いからだろう”という言葉にすごくショックを受けた。摂食障害であるということを打ち明けることに抵抗がある」。

■隠れてしまっている患者さんがいる

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 鈴木医師は「これまでは90~95%が女性と言われてきたが、それは神経性やせ症、拒食症と過食症に関してだ。過食性障害といって、無茶食いだけして痩せる行為をしないという方は肥満になってしまうが、それは半数が男性だ。一方で、男性は受診しにくいというレポートもある。やはり吉沢さんのように、“男が”などと言われてしまうため、隠れてしまっている患者さんがいるということだ」と話す。

 「うつ症状があれば抗うつ薬、不安症状があれば抗不安薬を出すことができるが、摂食障害に関しては、保険収載薬といって保険でお金を取れる薬がない。製薬会社もバックアップしてくれないので研究費もないし、啓発活動も非常に乏しい。それが私たちにとっても大変なところだ。ただ、尾形さんのように、やはり大人になるにつれて“私は私でいいんだ”と思えたとか、そのタイミングで環境が変わるというのは、症状にとってとても良いことだと思う。実際、高校生の時に罹られた患者さんが、大学生になって人間関係が上手く行きだした結果、自然と良くなったというケースもある。

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 ある精神科の先生は、摂食障害と言うのは、その方にとっては体が冒されることではあるが、それによって心が守られているということを言っていた。吉沢さんの場合、とても穏やかで知的で、平和を好まれる性格だと思う。だからこそ現実のストレスに傷付くのだろうし、食べないことで感性を鈍麻させているという見方もできる。確かに“食べ吐き”と聞くと一見悪いことのように思われるが、お酒に置き換えて考えれば、新橋あたりで飲んでバッタリ倒れているおじさんも、一過性のストレスをちょっと遠ざけて、その間だけ少し楽になれているということだ。

 体重が少ない場合には命を救うよう治療をし、カウンセリングによって“社会人は頑張って働かなくてはいけない”“テストは100点取るべきだ”といった思考や、“やるなら完璧でなければならない”みたいな部分を良い方向に修正したり、上手な断り方を身に着けたりすることで、世渡り上手になったり、ストレス対処能力を磨いていくという治療を行うことが必要だと思う。悩んでいる方がいらしたら “何か心配事でもあるの?大丈夫?”と明るく声をかけていただき、関係を作っていただきたい」。(『ABEMA Prime』より)
 

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