民主主義よりも権威主義、資本主義よりも社会主義の時代がやって来る? アメリカ人とマルクス経済学者が議論してみた
民主主義の限界? 日本はどう進むべき?
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 アメリカのバイデン大統領が主催し、日本やヨーロッパ諸国、台湾など約110の国や地域が招待された「民主主義サミット」。中国やロシアなど、権威主義的とされる国家から民主主義を守ることを念頭にオンラインで議論が行われた。

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 これに対し、中国の外務省は「イデオロギーで線引きし、民主主義を名目に反民主主義的なことをした」と、むしろこのサミットが世界の分断を煽っていると主張。さらに習近平国家主席はロシアのプーチン大統領とのオンライン首脳会談を行い、北京オリンピックに向けて連携していくことで一致している。

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 アメリカを中心とした自由主義経済体制が揺らぎ、コロナ禍によって民主主義よりも権威主義、資本主義よりも社会主義との空気も生まれる中、日本はどうあるべきなのか。15日の『ABEMA Prime』では、アメリカ出身でタレントのパックンとシンガー・ソングライターで文化通訳家のネルソン・バビンコイ、 さらにマルクス研究の権威である的場昭弘・神奈川大学副学長(経済学)を招いて議論した。

■「民主主義サミット」に意味はあったのか?

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宇垣美里(フリーアナウンサー、MC):民主主義が最も素晴らしいシステムなのかはさておき、最もベターな選択肢で、それ以外にあるのか、という感覚がある。

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的場:アメリカは“民主主義”という言葉で括ってこれだけの国や地域に参加を呼びかけたわけだが、そもそも民主主義の概念自体が様々で、国や地域によってもその在り方は違う。言い方を変えれば、世界中の国が民主主義的ではないとも言えないわけで、ある意味ではかつての社会主義対資本主義と同じような構図を作ろうとしていると感じるし、モスクワオリンピックのボイコット(1980年)の時と似た状況だとも感じる。

不参加の国や地域を見てみると、旧社会主義国、またはそれに関連する“非同盟諸国”と呼ばれる国々だ。そこに対してこのような態度をとっている背景には、これらの国々に西欧諸国が経済的に追い詰められ、焦りを感じているということがあるのではないか。むしろ“民主主義”と言うのなら、参加したい国や地域に自由に来てもらうという方が良かった。

さらに言えば、アメリカが世界の覇権を取れなかったとしても、世界はそれほど変わるわけではないし、アジアの国々が勃興することも、それほど悪いことではないと思う。アメリカは事を荒立てることなく、それらの国々としっかり付き合っていく。それが民主主義、大国としての威信ではないか。

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パックン:大変鋭いご指摘だと思うが、“来たい人はどうぞ”と言った結果、権威主義、専制主義の国家がやってきて堂々と“わが国は民主主義を守っていますよ”と主張してしまえば、全く意味のない会議になってしまったのではないか。国連でも人権侵害を行っていることが明らかな国々が人権委員会のメンバーになっているし、バイデンさんの肩を持つつもりはないが、そこに対する代替案としての、今回のメンバーシップだ。

もちろん、どこが民主主義国家なのか、線を引くのは難しい。僕自身はシンガポール、タイ、ハンガリーなどは招待しても良かったと思うし、逆にパキスタンを誘ったのはどうだったのかなとも思う。ただ、この15年で世界の民主主義は本当に後退している。だからこそギリギリ残っている国も誘って、明らかに権威主義、専制主義の国々を除いた状態で“価値観を共有しよう、そして一歩進めよう、がんばろうぜ”という話をした意義は大きい。

バビンコイ:短期的な目で見てしまえば意味がないように見えてしまうかもしれないが、民主主義国家と権威主義国家の長い戦いはここから始まるわけで、いきなり結果が出るわけではない。今回の目的も、民主主義がなくなるかもしれないという危機感を世界に共有することであって、何かを決めようというわけではない。

■民主主義を本当に追求できているのか?

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的場:皆さんは、民主主義を単純に自由主義という形で考えておられる。しかし、例えばフランス革命で出された人権宣言の大切な要素は自由、平等、博愛・友愛だ。このうち、平等という概念が本当に実現しているかどうか。これが自分たちは民主主義だと言っている国々で大きな問題になっている。格差社会や高い失業率に多くの人が不満を持つ中、選挙で通る人たちは一部の金持ち達で、金融資本と関係している人もいる。あくまで形式的に選挙権があるだけで、これでは民主主義と言えるのだろうか。一方、平等を追求しているという意味では、アメリカや西欧よりもアジア諸国の方が貧富の格差が小さい。もちろん貧困は進んでいるが、貧困の間でもある程度は平等なのであれば、民主主義を実現していると言えないこともない。

バビンコイ:的場先生がおっしゃっている現代の民主主義のデメリットは、資本主義と共存できなくなってしまっているということだと思う。民主主義の中で最も大事なのは一票だが、資本主義によって、どうしても金持ちが勝ってしまう理不尽な状態が生じている。民主主義を守りたいなら、資本主義をどうにかしないといけないということだと思う。

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的場:そもそも一緒ではなかった資本主義と民主主義がとりあえず仲良くなり始めたのは、対抗する勢力がなくなったからだ。私が学生時代だった40、50年前、アメリカは資本主義だとは言っていたが、民主主義だとは言っていなかった。だから私たち世代からすると、アメリカが民主主義になったというのは、ある意味で不思議なことだ。アメリカにも労働組合など、平等を要求する運動、本当の民主主義を実現しようという運動があった。それがマッカーシズムなどによって大学教員になれないといった形で、批判する人たちがいなくなってしまった。

パックン: アメリカの経済格差は本当にひどい。日本の皆さんが思っているよりも10倍、100倍ひどい状態だと思うし、僕は先頭に立って、喜んでアメリカを批判する(笑)。それが民主主義のいいところだからだ。声をあげても文句を言われない。それが非民主的国家でできるのだろうか。中国が“我々の民主主義を見てください。すごくない?”と言っているのは、民主主義に憧れているからではないか。そんな民主主義の求心力、魅力を再確認して、“アメリカの問題を直そうぜ、みんなの問題を直そうぜ”というのが、今回の民主主義サミットだったと思う。

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バビンコイ:民主主義が輝くために必要なのは透明性だ。上の人たちの都合のいいプロパガンダによって、曖昧なまま投票させられてしまうのは、民主主義とは言えないと思う。今の資本主義のままでは、それは無理だと思っている。そこでブロックチェーン技術を使えば、新しい社会構造を作れる。その一つが、DAO(自律分散型組織)だ。企業に置き換えると、ハンコを押す作業が全てブロックチェーン上で行われ、確認作業も一瞬で終わる。だからスピード感が増すし、何より透明性がある。アメリカは分断してしまって、もはや合衆国ではなくなっているので難しいかもしれないが、例えばカリフォルニアという自治体が価値観を保つために、住民たちが社会の中にDAOを当てはめられるのではないか。

的場:社会主義には、元々そういう考えもあった。ソビエトや中国という形で具体的に現れてくると、社会主義はそのまま権威主義になり、権力を持った国家が上から抑えるイメージになってしまったが、本来は民衆が自分たちの置かれた状況に対して意識を持ち、企業でも働くだけではなく経営に参加してその自治を守る、自主管理というところがポイントだった。アメリカの問題で言えば、下からの運動だ。

だから今からするとびっくりするかもしれないが、私たちは学生時代、社会主義こそ民主主義だと思ってきたし、今も基本的にはそうだと思っている。企業でも、オーナーの命令を聞くのではなく、自らがオーナーとして経営に参加し、労働もする。暗号資産が出てきたことは、その点において重要だ。40年ほど前にソビエトの人が書いた『コンピュータと社会主義』という本が出たが、それはコンピュータによって横の関係が作れるので、ソビエトだけでなく、アメリカでも権威主義的なものを乗り越える組織ができないかという問題提起だった。まさにそれが技術的には可能になりつつあるということだろう。

■“第3の道”もあるのではないか?

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パックン:バーニー・サンダースなど、アメリカで人気の左派の方々は、自分たちのことを社会民主主義だと言う。つまり民主主義国家の中で不平等、格差を是正するというスタンスだ。的場先生の考え方も同じだろうか。それとも一昔前の社会主義国家の中での民主主義ということだろうか。

的場:社会主義には歴史がある。マルクス主義、またはマルクス主義政党の一部の人たちがレーニン主義のような形になっていったわけだが、社会主義には本来、もっと広く、色々なものがあった。そこを解きほぐしていくと、やはり水平的社会主義、つまり自主管理だと思う。私は社会主義時代のユーゴスラビアに住んでいた頃、自主管理を見ている。もちろん良いところも悪いところもあるのだが、ソビエト型でもない、西欧の資本主義型でもない第3の道もあったのかと思った。そうしたこともきちんと学んでおいた方がいいと思う。

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宇垣:お話を聞いていると、民主主義に問題があるのではなく、その前に資本主義の中に格差があるのが問題であって、民主主義そのものは守るべきものだと思ったし、権威主義国家になりたいかと言われれば、やはりそうではない。

的場:ただ、権威主義だと言われている国々は、資本主義的に考えれば後進国だということだ。先進国を追いかける時、先進国のようなやり方ではできないし、様々な意味で先進国の資本が入ってくるのを防ごうと、国家権力が出てくる。そういう国々が多いと思う。私どもは先進資本主義国家に住み、自分たちで少しずつ進めていくこともできるが、そうではない国はかつて植民地であったり、独裁者が支配したりしていた。それらを乗り越えるための抵抗としてできている国々もあることは忘れてはいけない。

その上で、日本における一番の問題が格差だ。資本主義の発展の中で、かつてはとにかく物を作れば売れて豊かになり、国内に工場があってもうまくいっていて、先進国には大きな中産階級があった。これが崩壊し、没落していった最大の理由が、資本、工場が海外に行くことによって国内が空洞化したことだ。それによって人々の不満が爆発しているが、資本主義の発展は誰が作っているかと言えば先進国の資本だ。それらが労働者の賃金の安い国に移り、人々の仕事を奪っている。その意味では、敵は国外にいるのではなくて、国内にいる。無くなった今、よく、中国やバングラデシュが労働力を奪っているという言い方をするが、持っていっているのはアメリカや日本の企業だということだ。では、どうやってそれを元に戻すのか。これは難しい問題だ。

こうしたグローバリズム自体は資本主義の宿命で、行く所まで、とことん行く。安かった賃金が上がっていくと、より安い所を探す。しかし、もうない。そうなると市場が閉塞し、限界が来る。環境問題も出てくるし、やはりこれまでのような資本主義は、そろそろ“お役御免”というところではないか。そこへの焦りが、アメリカではトランプ現象、フランスではマクロン政権批判や、右派の台頭だ。行き場のなかった怒りをぶつけ、表面的には救ってくれそうなのが右派だという、ポピュリズムに流れていく。

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パックン:怒りや不満はもっともだし、先進国の資本主義の病は治療しなければならない。でもそれができるのは権威主義ではなく、みんなの声が聞ける、自由に報道もできる、人権も参政権も保護される、民主主義ではないのか。

宇垣:どうしても権威主義的なものにおもねることはできない。私が思う民主主義の根底にあるのは、誰もが意見を言えて、自由に、安全に生きられること、それは守らなければならないと改めて思う。

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的場:一般的にはそうだ。ただ、ここまで突っ込んでいいか心配だが、実はマスコミの多くは一部の資本家が支配しているし、そういう中でどこまで自由に物が言えるかという問題もある。大学もそうで、私のような立場は極めて不自由だ。マルクス経済学と言うと、“今どきそんなの?”と言われて、どこにも出番がない(笑)。今日は不思議なことに呼んでいただいたのではっきり言うが、こういう立場を本当に大切にしているかと言えばそうでもないと思う。 資本主義体制の中にあって、それを支持している立場の人にとっては極めて自由だが、そうではない人はどうか。

そして、今の日本は微妙な立ち位置にいる。中国に対する投資もたくさんしているし、アメリカとの関係もある。そしてアジアの国だ。冷静に今後のことを考えれば、アジアの発展は間違いなくもっと進む。やはり日本はアジアの人たちとうまく付き合っていく。そこを考えたほうがいい。(『ABEMA Prime』より)

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