「法務大臣は粛々と命令すべきだ」「仮釈放の可能性のない刑罰の導入を」2年ぶりの死刑執行、あなたの考えは?
元刑務官が語った死刑執行の瞬間
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法務省は21日、3人の確定死刑囚に刑を執行した。死刑執行のたびに巻き起こる、死刑制度の存廃をめぐる議論。同日の『ABEMA Prime』では、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務局長の高橋正人弁護士と、元日弁連事務総長の海渡雄一弁護士に議論してもらった。

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■「法務大臣は、粛々と法律を執行しなければならない」

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21日の記者会見で、古川法務大臣は「裁判において十分な審理を経た上で最終的に死刑判決が確定した。法務大臣として慎重な上にも慎重な検討を加えた上で、死刑の執行を命令した」と説明している。

刑事訴訟法474条では、死刑は法務大臣の命令により執行されるもので、これは判決確定の日から6ヶ月以内になされなければならないとしている。一方、条文では「但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない」とも定めている。

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海渡:今回の執行についていえば、パチンコ店の事件については、2件とも再審請求の審理中で、裁判所の判断が示されていないうちに執行されてしまった。再審を担当していた弁護士が会見で“これは司法を認めなかった処刑だ”と抗議していたが、死刑囚の再審事件を担当している私もそう思う。加古川市の事件は非常に悲惨ではあるが、明らかに妄想が影響していた犯行だったと思うし、裁判でも責任能力が争われた。そういう人の死刑を執行してはならないというのは国際的な基準も確立されているのに、なぜ今回、選ばれたのか。

高橋:再審請求中の事件が2件あって、裁判は終わっていないという話は、とんでもない間違いだ。第1審、第2審、最高裁と裁判をして、判決が確定している。後は執行しなければいけない。それを裁判が終わっていないからというのは法律的に間違っている。

その意味では、死刑の確定から6カ月以内に執行しようとしない法務大臣がいることにも問題がある。例えば民主党政権時代の平岡秀夫法務大臣は“私は執行しない”というスタンスだった。こういう、法律を守らない人が法務大臣になることがあるから、みんな腰が引けて運用がバラバラになり、長期間にわたって執行されない死刑囚が続出するわけだ。そして執行のタイミングに“政治的な配慮”があったとすれば、それも間違いだ。法務大臣は、粛々と法律を執行しなければならない。

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海渡:例えば韓国などは死刑廃止国に数えられているが、制度上は残されていて、長期間にわたって執行されていないだけだ。“死刑確定者”と呼ばれる人たちは、普通の無期懲役囚と同じような生活をしている。制度が廃止された国々も、突然ストップしたというよりは、執行されない状態が続き、実質的に無くなっていって、という流れだ。高橋先生は、法律は必ず守られるべきだとおっしゃったが、死刑制度に関して言えば、世界的に見てそのような状態にあるということだ。

その意味では、死刑制度は必要だと考える法務官僚が法務大臣を説得するということもあるだろう。今回も2年間にわたって執行はなかった。これは世界中から刑事司法の専門家が集る国連犯罪防止会議の場で、“日本は罪を犯した人の社会復帰のためのこんな立派なことをしている”“すべての人に対して、司法へのアクセスを与えている”とプレゼンテーションしたわけだが、死刑囚に関しては否定されている状況だ。だから再審請求中であっても執行されるわけだ。そのような不都合な真実は世界に知られないようにされている。

■「適正な手続きこそが重要なのだと申し上げたい」

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21日の記者会見で木原官房副長官は「凶悪犯罪がいまだ後を絶たない状況等に鑑みると、その罪責が著しく重大、そして凶悪な犯罪を犯した者に対しては死刑を科することもやむを得ないものであり、死刑を廃止することは適当ではないと考えている」とコメントしている。

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海渡:死刑に犯罪の抑止効果があるかどうかという議論があるが、それは未だ証明されていない。死刑になるかもしれないから思い留まった、というケースはないと言うつもりはないが、逆に死刑を廃止した国で重大犯罪が激発しているかというと、そのような事態は全く起きていない。むしろ稀な例とはいえ、死刑があることによって“死刑になりたい”と言って重大犯罪を起こす人もいると思う。

高橋:抑止力があるかどうか、その証明はできない。本当に証明しようと思ったら、“死刑制度があるから殺したかったけどやめた”という人を分母に、“死刑制度はあるが、殺してしまった”という人を分子にして値を出さないといけない。しかしいくらアンケートをしたところで、絶対に本当のことは言わないだろう。

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海渡:そこは私も全く同じ意見だ。

高橋:それから、死刑廃止が世界の潮流だということだが、もう一つの潮流があることも考えなければ矛盾があると思う。それは死刑制度を廃止している欧州の国では、“現場射殺”が行われているということだ。

日本の場合、正当防衛以外の状況に行われた現場射殺は瀬戸内シージャック事件(1970年)、長崎バスジャック事件(1977年)、三菱銀行人質事件(1979年)の後、1件もない。それだけ加害者の命も守り、適正な司法手続きに乗せようということが徹底されてきたからだ。日本は非常に稀な国だとおっしゃっていたが、これだけ適切な手続きがしっかりしている国が稀だという意味では、誇りに思っていいはずだ。

死刑制度を残すかどうかはそれぞれの国が決めることだが、それ以前に大切なのは、適正な手続きだ。京都アニメーション放火殺人事件のように、きちんと命を守ってあげて、言い分も言わせてあげて、その上できちんと刑罰を科す。そうした適正な手続きこそが重要なのだと申し上げたい。

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海渡:第二次大戦後すぐの時点では、死刑を廃止している国は北欧の国々やポルトガルなど、本当にわずかしかなかった。しかしその後は廃止するが相次ぎ、国連の加盟国では毎年のように死刑の廃止や執行停止を求める決議が採択されている。制度として存置しているのは55カ国だが、実際に執行しているのは20カ国だ。

“これが日本の文化なんだ”という考え方もあるかもしれないが、それが日本の国際的なイメージにおいて非常にマイナスになってきていて、プレステージを傷つけている側面があることもぜひ認識していただきたい。例えばオーストラリアの間で安全保障上の連携を図るという合意がなかなか成案に至らないのは、日本に死刑制度があるためだと言われている。同様に、フランスとの間でも、深刻な犯罪を行った人の犯罪人引渡しの円滑化協定がうまく結べなくなっている。

■「仮釈放の可能性のない刑罰を導入することは止むを得ない」

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こうした状況を受け、日弁連では死刑制度の廃止を訴えてきた。今回の執行にあたっても、荒中会長名で「本日の死刑執行に対し強く抗議し、死刑制度を廃止する立法措置を講じること、死刑制度が廃止されるまでの間全ての死刑の執行を停止することを改めて求めるものである」とする声明文を発表している。

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海渡:日本には約1800人の無期懲役囚がいるが、そのうち仮釈放で出てくるのは、年に10人程度で、ほとんど獄中で亡くなっている。それが例年20人くらいになるので、仮釈放を許可される倍以上が獄中で亡くなっているということで、実質的には“終身刑化”しているともいわれている。世論調査をしてみると、“終身刑が導入されるなら死刑を廃止してもいい”という意見もあるので、日弁連としても死刑廃止の観点から終身刑の導入も止むを得ない、死刑の代替刑として、仮釈放の可能性のない刑罰を導入することは止むを得ない、という提案をしている。

また、無期懲役囚が約1800人いるのに対し、確定死刑囚は約100人だ。同じく仮釈放なしで獄中生活を送らあせているという意味では、1800人が1900人になっても、かかる税金はそれほど変わらない。だいたい、ヨーロッパなどを見ると無期懲役囚とされている人たちの平均的な受刑期間は15〜20年なのに対し、日本は30年以上経っても10人くらいしか仮釈放にならないという異常な状況だ。昔は15年くらいで仮釈放になっていたし、この状況を改善することの方が税金の節約という観点からも、罪を犯した人の社会復帰の観点からも、正しいと思う。

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高橋:税金を節約するというのなら、なぜ日弁連は終身刑の導入を訴えるのか。よりお金がかかるのではないか。さらに言えば、日弁連が言う終身刑には重大な落とし穴がある。平成27年の時の意見書に書いてあることだが、“終身刑であったとしても、刑が確定したあとに裁判所が判断し、刑を減刑することができる”と書いてある。つまり仮釈放が無期懲役になるということなので、日弁連が言っているのは“仮釈放がある終身刑”ではないか。

また、それが“仮釈放のない終身刑”になったとしても、それは被害に遭っていない私たち第三者の考え方だ。同じ空気を吸っている加害者がいて、自分の税金で食わせていかないといけないという事実は、権利利益の回復にとって本当に大きな障害になる。1800人のうち、仮釈放はたった10人しかいないだろうと言われたが、被害に遭っていない私たちから見れば確かに0.5%だ。

しかし、その10人が起こした犯罪の被害者遺族からすれば、100%。重大な事件だからこそ、その最大の当事者である被害者、その遺族の立場で物事を考えないといけない。数年前に解散した全国犯罪被害者の会(あすの会)という団体の会員には、凶悪犯罪のご遺族約400人がいた。私はその活動に18年にわたって接してきたが、誰一人として終身刑の導入に賛成する人はいなかった。

■「死刑執行は、まさに権利利益の回復のためだ」

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その上で高橋弁護士は、殺人などの凶悪事件の遺族側代理人を務めてきた経験から、死刑による「権利利益の回復」の意義を強調する。

高橋:平成16年にできた「犯罪被害者等基本法」では、犯罪被害者遺族の尊厳が尊重されなければならないということになっているし、翌年17年に閣議決定された犯罪被害者基本法では、刑事司法手続きは被害者の権利利益の回復のためにあるということになっている。死刑執行も、まさに権利利益の回復のためだ。事件が起きて以降、時計の針が止まってしまっているご遺族からすれば、新たな一歩を踏み出すことができる。

例えば名古屋で起きた闇サイト殺人事件(2007年)で殺害された被害者のお母さんは、3人の犯人の顔が毎日浮かんでくると言っていた。ところが死刑が確定した2人のうちの1人が執行されると、翌日から、その1人の顔が浮かばなくなったそうだ。3分の1だけ、一歩前に進むことができたんだと言っていた。

当然、被害者遺族の根底には、“加害者に復讐をしたい”という気持ち、つまり感情が必ずあるはずだ。しかし、そのような感情を表に出して復讐をしてしまえば、社会の秩序は乱れる。だから国家に処罰を代行してもらうことによって新たな一歩を踏み出せる。これがまさに権利利益の回復につながってくると私は考える。

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海渡:もちろん、犯罪被害者の権利利益の回復は非常に大切なことだと思う。ただ、世界で最も犯罪被害者の権利利益を手厚く保護しているのは北欧の国々だといわれているが、一方で100年ほど前に死刑を廃止してもいる。死刑があるということと、被害者の方の権利利益を回復するということは関係ないのではないか。

きょうの会見に立ち会った、別の犯罪被害者の会を主宰されている片山徒有さんは、それこそ生命を奪われるような事件の被害者遺族だが、死刑は望まない、生きて罪を償ってほしいと言われている。考え方は色々だと思う。大切なことは、そうした方々の生活を安定させるということだ。また、精神的な慰謝という面でも、きちんとしたカウンセリングをやっていく必要がある。

死刑を廃止した国々が犯罪被害者を軽んじている国だとは思わないし、むしろ、そのような国々の方が、犯罪被害者を重んじている国が多い。私もスウェーデンなどを視察したが、犯罪被害者支援に役所も民間も熱心に取り組んでいる。そうしたことが日本では十分行われていないという事実は認めるし、それらを充実させていくというべきだという点については、高橋先生と同じ意見だ。

■「死刑が確定したからこその更生も」

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議論を受け、ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「高橋先生がおっしゃった、権利利益の回復ということは理解できるが、例えば身寄りのないホームレスを殺した場合、あるいは冤罪の可能性などの例外についてどう考えるのかという問題が出てくると思う。また、確かに調べようがないが、諸外国に比べて日本で凶悪犯罪が少ない理由は、やはり死刑があるからだという論理も成立しなくはない。結局のところ、死刑の存廃の議論というのは遺族、さらには国民の感情の問題に行き着いてしまう。そして、それは我々の感情に流されやすい部分をいかにコントロールするかという、民主主義の重要な課題でもあると思う」とコメント。

その上で、「僕は死刑廃止を議論する集会に行ってみたことがあるが、拘置所での死刑囚の様子を知る人が、“あの人は仏様のような人だった”みたいな話をしていた。死刑が確定して何十年と経つと、仏教などを一生懸命に学んだりして、確かに仏様みたいになる人がいるのだろう。それはある意味で更生しているとも言えるだろうが、逆にいえば、死刑判決ではない、あるいは仮釈放される可能性があったら、そのような更生はしなかった可能性もある。やはりどこまでいっても検証しようがない話だらけで、答えの出ない難しい問題だ」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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