将棋界には東西、それぞれに将棋会館がある。対局室があるほか、将棋連盟の事務所にもなっており、また子どもから大人まで、アマチュアが訪れては、腕を競う場にもなっている。例外なく、この2つの会館から名棋士が誕生したが、全国から集まる若き才能が磨かれる空間にもなっていた。伝説の研究会「島研」で知られる島朗九段(58)は、若手棋士、さらには奨励会員たちが集まり、熱心に将棋について議論する場所の貴重さを説いた。
今や将棋の研究といえば、将棋ソフト(AI)を用いて自宅で一人、こつこつと研究を重ねる者が増えている。島九段からすれば「育った頃からソフトがある若者と、昭和の世代では感覚に開きがある。今の子が使うのは当たり前で、利用するべきだと思う」と、積極的な活用を推奨する。ただし、局面を覚えることには限界があり、仮に覚えたものが実戦に出て目先の1勝を得られたとしても、それが力勝負で活きる地力を鍛えることにはつながっていないかもしれない。そんな中、島九段が回想するのが若き日の羽生善治九段(51)、佐藤康光九段(52)、森内俊之九段(51)らが連日、夜中まで詰めかけていた東京将棋会館の控室だった。
島九段 みなさんが10代後半のころ、夜中まで控室にいたんですよね。ああでもない、こうでもないと検討して、とにかく熱心に打ち込んでいました。あの熱量は、結構効いているところがあると思うんですよね。あのころは、研究でも将棋の最先端は関東が上を行っていましたから。
後に数々のタイトルを獲得することになる若き棋士が、連日遅くまで意見を交わし、才能を磨き合う。強くなるのも当たり前だったのかもしれない。新型コロナウイルスの影響もあるだろうが、今は個々が対局を各種メディアで見ていて、熱く意見を交わすことがない。「まだ結論が出ていない将棋の可能性を探るのは楽しい。個々に中継を見ているのは楽しいけど、それは楽しみとは違った何かがあるんじゃないかと。若い時にああでもない、こうでもないと語るのは活躍のエネルギーになっている」と考えた。
そう思う理由が、関西勢の活躍だ。関西将棋会館には棋士室があり、ここには今も棋士たちが集まる。「棋士室には12帖くらいの部屋に、20人ぐらい人がいたようなイメージがあって、毎日がタイトル戦の控室みたいな感じ。進行中の将棋の検討を、みんなで突き回すのは決して無駄ではない。三段リーグや若手のクラスも、関西勢が躍進している。今や順位戦のA級も半数が関西」。将棋ソフトが示す手が最善だったとして、ただし別の価値観に同時に触れられる棋士室という空間は、将棋が対人競技であり続ける限り、その価値も色褪せない。
島九段 勉強は時代が移って合理的になって、それによって強くなるスピードも速くなったけど、その先に人と差をつけるものは、アナログなものが大きいのかなと、この年令になって思いました。
近い将来、移設される東西の将棋会館。そこではまた、若き才能が輝きを増し続ける空間が生まれることを、将棋界全体が望んでいる。
(ABEMA/将棋チャンネルより)