「すでにエリートなのに」「医師を目指すなら東大じゃなくても」が届かない受験生たち…田中萌アナ「私も1浪した時には絶望した」
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 東京大学のキャンパス前で受験生ら3人が切り付けられた事件。殺人未遂の容疑で現行犯逮捕された名古屋市在住の少年(17)は「医者になるために東大を目指していたが、成績が上がらず自信を失くしていた。自殺する前に人を殺して、罪悪感を背負って切腹しようと考えるようになった」と供述しているという。

【映像】なぜ17歳で人生に絶望? 若年層でも"無敵の人"に? 東大前で3人刺傷

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 少年が通っていた私立高校(名古屋市)はコメントの中で「『密』をつくるなという社会風潮のなかで、個々の生徒が分断され、そのなかで孤立感を深めている生徒が存在しているのかもしれません。今回の事件も、事件に関わった本校生徒の身勝手な言動は、孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況のなかで引き起こされたものと思われます」としている。

■「挽回が難しいという感覚が若い世代に」「第1志望を変えるというのも苦しい生徒たちも」

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 17日の『ABEMA Prime』に出演したカンニング竹山は「一応の動機や背景のようなものが出てきてはいるが、もう少し深く調べてみないと、判断をするのは早いと思う。悩んでいたというのが、周囲から見るとケロッとしていたのか、それとも様子が違うなと、というところがあるのに、学校や親御さんが放っておいていたのか。それなら、大人の責任もあると思う。失敗した時、挫折した時の切り替えがなかなか難しい社会でもある」と指摘する。

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 筑波大学の土井隆義教授(犯罪社会学)は「去年あたりから似たような事件が起きていて、それを模倣した側面もあるかなと思うが、手段としては稚拙だ。そして、同じように動機も稚拙、世界が狭いなと感じる。ただ、今の若い人は一般的に親子関係がとても良いし、親への恨みは全くないと思うし、重圧に耐えかねて犯行に及んだにせよ、やはり親に申し訳ないという思いはとても強いのではないか」と分析する。

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 「東大を目指している時点でエリートだろうと思われるかもしれない。しかし学校の中では、みんながそうやって競っているわけで、そこから外れると、人としてのスタンダードから外れてしまったかのような錯覚が生じやすいと思う。また、彼の場合は学習面だが、人生でつまずいてしまった場合、挽回が難しいという感覚は今の若い世代に共通している。世界が右肩上がりの時代なら、その波に乗ればいいと思えたが、今は世界がフラット。1年後に人生が変わることが起きるかもしれないといったことがイメージしづらく、今の自分のまま、人生が5年後、10年後も続くんだろうな、という感覚があるということだ。

 だから必ずしも社会に対する恨みというわけでもないと思うし、例えば友人関係の中で、こういうことについてポロっと喋ったとすれば、“お前、何バカなこと考えてるんだよ”と言われていたのではないか。しかし悩みっていうのは雑談の中で出てくるものでもある。彼は高校2年生ということなので、入学した段階でコロナ禍だった。先生や友人との関係を構築し、語り合える機会もなかったのではないか。それも含めて、被害者はもちろん、加害側も気の毒だ」。

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 現役東大生として、自身の経験を活かして受験指導を行っている株式会社カルペ・ディエムの西岡壱誠氏は「受験生の気持ちになって考えると、僕は東大に2度落ちて2浪した人間だが、視野が狭くなってしまうような部分は確かにあると思う。やはりスマホで簡単に情報が手に入る一方、出てくるのは“この職業に就いても、あまりいいことないらしいぜ”みたいなマイナスな情報ばかり。生徒と接していると、そういうことでやる気を失っているケースが非常に増えているのかなと思うし、だからこそ失敗に対するハードルが高く、第1志望を変えるというのも苦しい」と指摘する。

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 「そこで僕が“しくじった人間”として2浪の経験を語ると伝わるし、視野が広がると成績が上がってくることもある。以前はちょっと放課後に残っていると、“どうしたんだ。お前、浮かない顔して”みたいな感じで先生と生徒がコミュニケーションを取るようなことがあったと思う。それがオンライン授業になると、時間が来ればすぐに切れてしまう。この子も2年間、ほとんどそういう状態だったのかもしれない。僕自身は、“受験の力”というものを信じているし、スポーツのように、自分を変える受験、努力する受験というものに一定の評価をするべきだと思っている。しかし、それが絶対的な価値観だというのは間違っている。今は推薦入試やAO入試など、評価も多元的だ。そういうことに気づけない環境があるということが本当に残念でならないし、そういうことも含めて、丁寧な議論を進めてほしいと思う」。

■「先輩方が行ったルート以外は成功じゃないと思っていた」「親世代に対しても共有を」

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 山形県の進学校に通っていたというテレビ朝日田中萌アナウンサーは「周りの大人から見れば“東大以外の大学を受ければいいじゃん”と思うかもしれないがそういうことを考えられないくらいに追い詰められているケースもあると思う。あるいは、“まだ17歳なのに、なぜ絶望したのか”という意見もあるかもしれないが、17歳だからこそ絶望することもあると感じる」とコメント。

 「私も“進学校”と呼ばれる高校に通っていたが、“東大、東北大、国公立大の医学部に行かないのはうちの生徒じゃない”みたいな環境で、普段会話する大人も先生くらいという狭い世界だった。だから先輩方が行ったルート以外は成功じゃないと思っていたし、そこから外れそうになった時の恐怖は非常に大きかった。実際、1浪して私立大学に入った時の私の絶望感、“私の人生終わったな”という感じには結構すさまじいものがあった。私くらいの年齢になれば、何かがあったとしても、“こうやって解決していけばいいな”というのが分かるようになる。でも10代の頃はそうではなかったと思う。当時はその先にはいろんな選択肢があって、職業があって、生き方があって、ということが分からなかった」と声を震わせた。

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 ジャーナリストの堀潤氏も「大学受験に合わせて、塾の業界なども含め“そこに入るための学校”“そこに入るための塾”と決まっていくという構造になってしまっている。その縛りから子どもたちを解放してあげたいと思う。この少年について取材もしていないし、何も分からない。その上で、改めて問い直したいと思ったのは、もっとしっかりしたキャリア教育がなされなければならないのではないか、ということだ」と指摘。

 「シリアの難民キャンプで子どもたちに夢を聞いたことがあるが、みんな“お医者さんになりたい”、“学校の先生になりたい”と答えた。その時は立派だなと思ったが、それは普段から触れ合っている大人の職業を、それしか知らないからだと知った。僕自身も、社会人になって初めて“これが職業になるのか”、“こういう生き方、場所があるんだ”とか驚いたことがあった。今回の少年の両親は、おそらく僕と同世代なんじゃないかと思う。今の親世代に対しても、世の中にはいろんな可能性、いろんな人、いろんなコミュニティがあるんだということを共有しない限り、事件を起こすまでには至らないまでも苦しんでいる、という子たちは大勢出てくるのではないか」と提言した。

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 イラン・イラク戦争で肉親を失い、来日前には孤児院で生活していた経験も持つ俳優のサヘル・ローズは「中学校や高校で講演をすると皆さんが感想をくれるが、それを読んでいると、自分は親や未来から求められているのか、生きていて価値があるのか、といった存在意義を必死に考えて葛藤しているんだなと思う」と語る。

 「私は来日して入学した中学校での成績は“オール1”か“オール2”みたいな状況だったので、恥ずかしくて、お母さんには“この学校では1が一番良くて、5が一番悪い成績なんだよ”と嘘をついていた。みんなが大学に進学する流れの中、私は定時制の高校に進学したので、“私は社会の中でやっていけないのかな”と感じた。それでも、自分のことをちゃんと見てくれる大人に出会えた。もう一日生きるだけで、自分が模索すべきことを見つけられる瞬間が来るかもしれない。そして子どもだけじゃなくて、大人も生きるのに精一杯。どうしても目線が手元というか、スマートフォンに落ちてしまって、本当の目の前にいるSOSに気づけない。同じような事件を起こさないためにも、“東大だけが全てではない。人の評価は数字だけではない”と、一人の人間として認めてあげるんだという、大切な学びを得なければいけないのではないか」。(『ABEMA Prime』より)

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