「会話を通して、それまで見えなかったものが見えてくる」全盲の鑑賞者と体験する美術館の楽しみ
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 東京都現代美術館で開催中のクリスチャン・マークレーの個展に訪れた白鳥建二さん(52)。生まれつき右目が見えず、左目は強度の弱視、現在は全盲だ。にも関わらず、年に50回も美術館を訪れ、アートを楽しんでいる。同行した健常者が見たこと、感じたことを聞き取り。作品を見ているのだ。

【映像】目が見えない人がアート鑑賞? 色や形をどう理解?

■同行者にも“気づき”が

「会話を通して、それまで見えなかったものが見えてくる」全盲の鑑賞者と体験する美術館の楽しみ

 例えば『ファスト・ミュージック』という映像作品について、友人の新谷佐知子さんが「ものすごい勢いで今レコードを食べてた。レコード盤をものすごい勢いで食べてた」と説明すると、「食べてた!?食べられる材質?」と白鳥さん。美術館のインターン生は「多分、本物のレコードを刻んで崩したものをコマ撮りして、パラパラ漫画みたいに」と説明していた。

 「正確なところは分かっていないと言えば分かっていないんだけれど、それはどうでも良い。緑の加減が正確にどうかっていうよりも、その緑がその作品のどういう役柄を担っていて、同行者がどういう印象を受けたのか、そういうことの方が面白い」と白鳥さん。

 実はこうした会話が、同行者にも“気づき”を与えてくれるのだという。この日、白鳥さんに説明していたインターン生は「目の前にある作品がどういうもので構成されているのか、という所まではあまり見ていなかった。印象で見ていた」と感心。新谷さんも「白鳥さんと見ると、普段の2倍くらい、作品をちゃんと見る。実は見ているけど、見ていないんだなと感じるし、あえて見始めると、見えなかったものが見えるから面白い」。

■「きっかけはデートだった」

「会話を通して、それまで見えなかったものが見えてくる」全盲の鑑賞者と体験する美術館の楽しみ

 白鳥さんと美術館鑑賞との出会いは、大学生のときだった。交際していた健常者が美術館に足を運んでいるという話を聞き、「美術館デート、いいじゃないか」と思ったのだという。

 「もう25年以上前の話なので正確なところは覚えていないが(笑)、付き合い始めた彼女ともっと仲良くなりたいと思っていたので。ちょうど住んでいた名古屋でレオナルド・ダ・ヴィンチの解剖図の展覧会が開催されていて、僕はマッサージの勉強をしていたので、それならついていけるかもしれないと。それが最初の経験だった。

 もちろん全く見えないわけだが、足音や衣擦れで、人がいっぱいいそうだなというのは分かった。そして、みんな静かに見ている。そういうことからして初めての経験だったのでもうワクワクしちゃった。彼女に説明してもらうことで、“鑑賞できた”みたいな気分になっちゃった。

 それから単独で美術館に行くという活動を始めるが、全盲の自分に楽しめるものはないかと実験しようと、美術館の方に短い時間、何が描いてあるか、その印象や感想を話してもらえないか、お願いした。例えば色の場合、“連想ゲーム”みたいに、りんごの赤、苺の赤、夕陽の赤…と、赤は赤でも違う色だということは分かるので、そこからイメージすることで、話にはついていける」。

■「長い時は1時間近く話すこともある」

「会話を通して、それまで見えなかったものが見えてくる」全盲の鑑賞者と体験する美術館の楽しみ

 そんな白鳥さんとの鑑賞について『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』にまとめた川内有緒著さんは、「白鳥さんがどういう人かも分からない中で、たまたま友達に誘われて出会った。最初は何をどう説明していいか分からなかったが、白鳥さんは連想から過去のことなどを思い出し、面白がっているということが分かった」と振り返る。

 「ちゃんとした知識がないと美術について話してはいけないんじゃないか、みたいな思い込みを持っている方は結構いらっしゃると思うし、自分もそうだった。でも、白鳥さんはそういうものを求めていないと分かり、すごく気が楽になったし、楽しいなと思った。そして他の方も言っていたとおり、話しているうちに目の“解像度”が上がるというか、見えなかったディテールが急に見えてくる瞬間があって、絵の印象が変わってくる。

 さらに何人かで見ていると、それぞれが全く違う印象を持っていることが分かる、面白い経験もできる。“こう思っていたけど作家の意図はもしかしてこうなのかな”みたいな、ミステリーを紐解いていくみたいなところがある。そんな風にして白鳥さんと見ていると、一つの作品の前で20分、30分と話し続けることができるし、長い時は1時間近く話すこともある」。

■「声が聞こえる場所こそ公共」

「会話を通して、それまで見えなかったものが見えてくる」全盲の鑑賞者と体験する美術館の楽しみ

 現役東大生として、自身の経験を活かして受験指導を行っている株式会社カルペ・ディエムの西岡壱誠氏は「東大や一橋大の入試でも、絵について“あなたが思うことを書け”という問題が出たことがある。初めは“こんなの分かんねえよ”と思っていたが(笑)、友達とその問題を解くうちに、“こういう解釈もあるのかもしれない”と楽しくなっていった」とコメント、タレントで俳優のサヘル・ローズは「ダイアログ・イン・ザ・ダークに参加させてもらったことがあるが、真っ暗な中でアテンドする方に“今ここにはこういうものがあって”と説明してもらうと、本当にそれが目の前に広がっていく感覚がある。やっぱり人は心や皮膚でも感じることができるんだなと発見した」と話した。

 また、白鳥氏が「美術の楽しみ方、美術館の利用の仕方には人それぞれあっていいと思っている。自由に会話ができれば楽しいし、中心には作品があるけれど、併設されている飲食店なども含めて楽しめる素材になると思う。最近では、“今日はしゃべっていいよ”という日を設けている美術館もできた。あるいはこの時間帯は小学生や中学生が来ているので賑やかになりますよ、と説明する美術館がある。そもそも静かにしていなきゃいけないというルールはどこにあるんだろう、ということだ」と話すと、ジャーナリストの堀潤氏は「建築家の安藤忠雄さんに”公共って何ですか”と尋ねると、間髪入れず“声が聞こえている場所だよ。だから図書館だって美術館だって声が聞こえていないと本当の公共じゃないよ。もっと声出せよ”と言っておられた。その話とシンクロした」と話していた。

「会話を通して、それまで見えなかったものが見えてくる」全盲の鑑賞者と体験する美術館の楽しみ

 番組では、スタジオで出演者たちが白鳥氏に説明を試みた。カンニング竹山は「みんなの意見が聞けるから面白いし、それで自分の感性もまとめていく。よりアートが面白くなる。これは発見かもしれない」と話していた。(『ABEMA Prime』より)
 

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