個人競技である将棋の世界で、明確な人と人とのつながりを示すのが師弟関係だ。そのつながりの強さ、付き合いの深さは師弟によってばらつきがあるが、鈴木大介九段(47)は、弟子・梶浦宏孝七段(26)に対して「将棋界の子どものようなもの」と、思いを隠さない。「第1回ABEMA師弟トーナメント」では、この師弟で出場が決まったが、大会を前にその熱い思いと指導法を聞いた。
鈴木九段の師匠は大内延介九段。わかりやすく厳しい一門で育った。「うちは縦社会なんで」と気持ちよく笑うが、将棋界への恩返しとして「プラスになる人材を育てていくのはすごく大事」と、梶浦七段にも将棋よりも人としての部分を、強く言い聞かせてきた。
将棋に関しては「まあまあ自分の青写真というか、弟子に取った時からのイメージ通りの棋士になった」というように、梶浦七段は特に竜王戦で活躍。連続昇級により、昇段も果たした。「将棋について言うことはないです。プロになってからは、自分の将棋を作ってくれればいい。もう少しタイトル戦に絡むとか行ってくれたらいいですけど、そこまでは欲深いですかね」と、タイトル挑戦、獲得への期待もつい膨らむ。
鈴木九段も竜王戦では1組に10期、順位戦ではA級4期と実績十分の棋士。ただ、今では自分のことよりも弟子の成績の方が気になるようにもなった。「弟子の勝敗の方が気になりますね。弟子は自分の分身だと思っているので。よくお父さん、お母さんが子どもは自分の分身だから愛せるというけれど、そういった感覚です。家族が勝つのが同じ。自分のこととは別の感情、うれしさがあります」。他人同士が深く関わることが、だんだんと少なくなってきている世の中において、弟子とはいえ家族同然に思えるというのも、珍しくなっているかもしれない。シンプルに師匠、先輩から言われことは素直に聞き従う。「古い」と言われがちな関係も、鈴木九段と梶浦七段の人柄があるからこそ、しっかりと成立している。
「自分の子どもと同じくらい、時間は割いたつもりです。親身になって、三段リーグの対策を一緒に練ったりしましたね」。すっかり一人前になった梶浦七段がプロ入り前にもがいた時のことは、すぐに思い出せる。奨励会時代は、全ての棋譜を赤ペンでチェックしていたが、その成長ぶりを感じてか「私の方がめんどくさくなった」と“自然消滅”したと苦笑いした。そんな、どこか力が抜けるところも実の親子らしい。大会は「2人で力を合わせていいところを出せればいい。自分も頑張れば、弟子が決勝に行くとか、優勝を狙えるとか、番組に出る機会が増えるので、そうなってほしいと思います」と意気込んだ。最後まで話の主役は弟子。まさに父の言葉だった。
◆第1回ABEMA師弟トーナメント 日本将棋連盟会長・佐藤康光九段の着想から生まれた大会。8組の師弟が予選でA、Bの2ブロックに分かれてトーナメントを実施。2勝すれば勝ち抜け、2敗すれば敗退の変則で、2連勝なら1位通過、2勝1敗が2位通過となり、本戦トーナメントに進出する。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで、チームの対戦は予選、本戦通じて全て3本先取の5本勝負で行われる。第4局までは、どちらか一方の棋士が3局目を指すことはできない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)