“佐渡島の金山”見送りが一転…世界文化遺産推薦へ 背景にナショナリズム?
岸田総理大臣は28日、佐渡島の金山について「2月1日に閣議了解を経てユネスコ世界文化遺産に申請する」と発表した。
【映像】佐渡金山は“第2の軍艦島”? ひろゆき氏「論点がずれてる」(3:00ごろ〜)
400年近い歴史を持ち、江戸時代には幕府の財政を支えた新潟・佐渡島の金山。そもそも、佐渡金山が世界文化遺産の推薦候補になったのは去年12月。申請が今日までずれ込んだ理由には韓国からの反発があった。
12月28日、韓国の外務省は「旧朝鮮半島出身の労働者が強制労働させられた」と佐渡金山に言及。日本政府は今回の推薦を見送る方針だったが、一転、ユネスコ世界文化遺産申請への方針を明らかにした。
このニュースに『ABEMA Prime』に出演したネット掲示板『2ちゃんねる』創設者のひろゆき氏は「中世の時代(の建造物)は、だいたいみんな奴隷が作っている」と指摘。「奴隷労働がよくないなら、ギリシャの世界遺産登録はほぼ無理だ。『過去の時代でどのように作られたか』よりも、『現在価値があるものを世界遺産として残そう』という話であって、『エジプトのピラミッドは奴隷が作ったから、これは世界文化遺産に登録ナシね』はない。論点がずれてるんじゃないかなと思っている」と述べた。
北海道大学大学院准教授で観光学が専門の岡本亮輔氏は「歴史をどう解釈するのか、改めて浮き彫りになった」と話す。そもそも世界文化遺産は「残っているものをどうやって保全するか、そこがポイントだった」といい、「歴史に価値がある云々の話ではなく『これをどうやってこの後もずっと保存しようか』にある。だから文化財保護が一番にあったが、それが途中から“観光のブランド”みたいな感じで、日本ではちょっと違う文脈に流れていった」と説明。
「世界自然遺産と比較すると分かりやすい。世界自然遺産の登録に何がポイントになるかというと、海なり森の中にどれだけ固有種、そこの地域にしかいない動植物があるかどうかだ。世界自然遺産には、非常に客観的な基準がある。それに対して世界文化遺産は客観的な基準が設置しにくい。だから結局、歴史とセットで評価しないといけない。今回の佐渡金山の登録をめぐるお話は、産業革命遺産の軍艦島とほとんど同じ構図を繰り返している。ある意味、避けられない流れなのかなと考えている」
政府が主張を一転したのは、自民党保守派の存在が関係しているといわれている。安倍元総理大臣は「論戦を避ける形で登録申請しないのは間違っている」と主張していた。安倍元総理は、軍艦島の世界文化遺産登録の際に、朝鮮半島出身者に強制労働があったとする韓国の反発を受けたが、調整の末に登録を実現した。
番組には菅政権で外務副大臣を務めた経験もある自民党の鷲尾英一郎衆議院議員が出演。「いろいろな反発も予想されていたが、しっかり総理が政治判断されたことは非常にすばらしい」と述べた上で、「手工業があって江戸時代の文化繁栄に繋がった。江戸時代に限定して、非常に金も産出した。佐渡一島の建造物、生活様式含めて、そういうことが世界的に稀有であると。これは普遍的に価値が認められるもの。ぜひ国としてもサポートしていただきたいということで、今回認めていただいた」と話した。
鷲尾氏の説明に、ひろゆき氏は「保守系の議員が出てきたり、ナショナリズムが出てきたりして、佐渡金山をユネスコ世界文化遺産に登録することが、日韓の揉め事の勝ち負けを決めるための道具になっている気がする」と指摘。「ナショナリズムとか全然関係ない、議員じゃない人たちが『佐渡金山は文化的価値がある』と言ってくれたら良いと思う。『なんで保守系の議員が出てきて、今さら何言ってるの?』と、揉め事のために出てきているように見えちゃう。きれいごとだけ言っておくほうが良い」と持論を述べた。
ユネスコでは、広島の原爆ドーム、ポーランドのアウシュヴィッツ強制収容所など、“負の側面”を持つ建造物も世界文化遺産として登録されている。前述の岡本氏は「世界文化遺産の登録をめぐって、政治の問題が噴出するのはある種、必然だろう」と語る。
「原爆ドームでは、アウシュヴィッツ強制収容所とはまた違う側面があった。日本が原爆ドームを世界文化遺産に登録しようすると、アメリカや中国は反対した。原爆を落とした側のアメリカからは『先の戦争についての誤った解釈を定着させてしまう』という反対があったし、中国からは『日本が侵略国家だということが隠されてしまう』という反対があった。原爆ドームは日本が圧倒的に被害者だったが、普遍的な誰もが納得する歴史、文化のストーリーを説明することはかなり難しい。世界遺産委員会は全然クリーンな場ではなく、壮絶なロビー活動が行われる。世界遺産委員会自体が非常に政治的な場になっている」
登録の基準について「曖昧になっているのではないか」という指摘もあるユネスコの世界文化遺産。岡本氏は「個人的な意見」と前置きした上で「そこまで世界遺産にこだわらなくていいのではないか」と見解を述べる。
「別に世界遺産に登録されようがされまいが、すばらしい遺産は遺産であり、文化は文化だ。世界遺産をブランド視する必要はない。実際、ヨーロッパなどに行くと、ワールドヘリテイジ(世界文化遺産)はそこまで権威を持っていないし、そこの温度差がかなりある。世界遺産の本義は、いわゆる途上国の開発の中で、遺産が損なわれてしまうものを保護する枠組みを国際的に作りましょうというもの。イタリアやフランス、日本など先進国にまでそれを広げたら、もうなんでも入ってしまう。特にフランスはかなり雑で、セーヌ川とその両側にある教会をまとめて全部世界文化遺産みたいな感じにしている。この前、パリのノートルダム寺院が燃えてしまったが、それでもそこが世界文化遺産から外れることが特に議論になるわけでもない。今回をきっかけに、世界文化遺産をめぐる国ごとの温度差みたいなものは一度考えてみてもいいと思う」
世界文化遺産への登録をめぐって、さまざまな議論が巻き起こっている佐渡島の金山。結果は、ユネスコの審議・検討を経て2023年6月に決定する見込みだ。(『ABEMA Prime』より)
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