山口県在住のミチコさん(仮名)は、夫の転勤に合わせ、これまでの7度の引っ越しを経験した。「転勤=転職だった。引っ越し先で、また仕事を探さなければならないし、転勤があると伝えた時点で弾かれ、キャリアも築けない。だからパートタイムで働けるところを探すしかなかった」。
umiさん(仮名)も「転勤って言われるのが2週間前とかだし、自分が行きたいところじゃないところに行かされる悲しさがすごい」、また、5歳と1歳の子どもを育てるマミさん(仮名)の場合、転勤のため、決まっていた幼稚園を諦めたことがあると話す。「先のことが分からない中で一生懸命に準備をした。でも、辞令が出たらもうそこでリセットって思うと、ちょっと辛い」と語った。
「やっぱり今はまだ家族一緒にいた方がいいと思うが、学校のことや習い事のこと、子どもの将来やりたいこととかが出てきたら、本人の意思も尊重したいし、どうしていくか話し合いたい。子どもが残りたいとなったら、夫には単身赴任をお願いするかもしれない」。
■“栄転”という言葉はもう流行らないのか?
ジャーナリストの堀潤氏は「僕も父親が転勤族だったので、突然“夏休み明けから違う学校だから”と言われ、同級生とあまりゆっくり話もできないまま、引越しの日に親友が1人だけ家に来てくれて“行っちゃうの?”“ごめんね…”という話をした経験もある。父も父で大変そうで、これ以上の転勤は繰り返すことができないと、後に単身赴任に切り替えた。そうすると家族に会うのは週末だけになるので、色々すれ違いもあったと思う」と振り返る。
「でも、そんな僕も4、5年で全国転勤のあるNHKに入ってしまった(笑)。やっぱり、みんな大変そうだった。住宅ローンも組んでいるし、イエスとしか言えない人が“悪いな、また戻ってこられるから”といって行かなくてはいけないというのがあった。それでもやっぱり、“人事は会社の力なり”というところがあって、誰をどこに配置するのかは直前まで秘密の情報だ。管理職目線でいえば、事前に広く流布されると、“嫌だといわれたときに次は誰を回せばいいのか”ということにもなる。
また、業態によっては、同じ担当者がいつづけることで、馴れ合いや癒着が起きてしまうことになる、定期的にシャッフルして、透明性を担保するという意味合いもある。ただ、子どもの学校の問題などもあるので、異動先でずっと勤務できる働き方を作ったという話も聞いた。名古屋局に転勤したある先輩に、“もうそろそろじゃないですか”と聞いたら、“ずっと名古屋局に居られることになった”と。変わってきたなと思った。“栄転”という言葉もあるように、転勤することが栄誉になり、競争力になっていた。でも、もう流行らないのかな(笑)」。
ジャーナリストの中野円佳氏も、夫の転勤に伴いシンガポール移住した。
「私の場合は夫が異動を望んでいた方だったし、私自身の働き方もフリーランスに近かったので、良い方だと思う。やはり日本は時間、場所、職務が無限定な総合職、そして“行け”と言われたら行くというシステムでやってきたし、法律上も断れないわけではないが、専業主婦を前提としていた時代には、子育てや介護といった要因については転勤する側が引き受けるべきだ、というように裁判でも見られてきた。
また、本社のカルチャーを拠点に広げてグリップを効かせるとか、癒着などを防ぐために社員を回転させ、人材育成にもつなげるという名目で続いているのだと思うが、やはり2週間前に内示というのは家族や友達にとっては大変だ。転勤制度をきっかけに辞めてしまう人がゴロゴロ出てくるということで、女性活躍の機運も高まった2012年末ぐらいから、キャリアを継続したい人のための人事制度を変えた企業も多いと思う」。
■拠点立ち上げのスピードが遅くなるという課題も…サイボウズの場合
国内に9拠点があるサイボウズでは、そうした“強制転勤”を廃止した。同社の労務・育成担当を務める髙木一史氏は次のように話す。
「2005年に離職率が28%を記録し、業績も二度下方修正するという、経営危機の時期があった。そこで社長の青野慶久が、本人の希望や理想を無視した働き方をさせてもモチベーションが上がらず、生産性も高まらないということで、実質的に強制転勤を廃止した。その後、テレワークが進んだことで転勤を希望する人が出てくると、会社都合で転勤させる人に払う手当と、自分から行きたいといって転勤する人の手当が一緒でいいのかという議論になった。そして2019年。転勤手当の見直しとセットで、就業規則の転勤を強制する文言自体を変えて正式に廃止した。
サイボウズがIT企業だということもあるが、本人が最もパフォーマンス高く働くことができるよう、生活しやすいところに住んでもらいたい。安部さんがお話されていたように、若い人たちの価値観が変わってきていいて、特に専門性を磨きたい人たちはすぐに辞めていってしまう。一方、正直にいうとデメリットは二つある。一つは、拠点を立ち上げる時にコストがかかるということ。例えば名古屋に拠点を立ち上げようと言うときに、社内で公募してみると、誰も手を挙げる人がいなかった。最終的には現地でマネージャーを採用することができたが、コミュニケーションコストと採用コストがかかってしまった。これが強制転勤できる会社だったら“行け!”“はい!”ともう一つは、事業のスピードが遅くなること。私たちが仙台に拠点を立てようとなった時、名古屋の時と同じように聞いてみたが手が挙がらず、現地での採用も難しかった。結局、半年後に社内で条件にマッチする人が現れたが、スピード感としては時間がかかってしまった」と話していた。
また、リディラバ代表の安部敏樹氏は「根本には、都市の大学を出た人がそのまま都市に就職してしまうので、会社が強制力を持って行かせなければ、地方に職歴・学歴を持った人がいなくなってしまうという、地方創生とも関係してくる問題があると思う。その意味では、やむを得ないところもあると思うが、かつてのように人事部が偉いんだぞ、会社が偉いんだぞとアピールするための転勤はなくなっていくと思う。やはり会社としてそういうことをやっていくと優秀な人材が離れていってしまうし、自分の会社ではやりたくない。フルリモートの形で地元に帰ることもできるだろうし、強制的に転勤をさせるような会社は今後伸びなくなっていく気がする」と指摘していた。(『ABEMA Prime』より)
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