家の事業を継いでほしい親と継ぎたくない子ども――これは1月27日にニュース番組『ABEMA Prime』で特集した「継ぐハラスメント」の映像だ。
今、YouTubeの多くは、自分の好きなことを好きなタイミングで配信できるが、同じ映像でもテレビとYouTubeには作り方に多くの違いがある。実際にテレビでは番組が放送されるまで、どのような作業が行われているのだろうか。その裏側を覗いてみた。
今回「継ぐハラ」企画を担当したのは、テレビ業界歴3年目の澤岡向日葵(ひまわり)さんだ。ディレクターとして企画を担当するのは、今回で2回目。まだまだ新米のディレクターだ。この日、新米ディレクターの澤岡が向かったのは、番組の企画内容や方向性を決める総合演出のデスクだった。
継ぐハラスメントのどこが面白いか、調べた情報をプレゼンする澤岡ディレクター。総合演出は「なぜこのテーマをやるのか、入り口が見えていない。普通に『成立している?』と思っちゃう」と指摘。企画のOKが出なかった。
新しいトピックスを探し、企画を練り直す澤岡ディレクター。ここからリサーチし直しては総合演出にプレゼン。これを何度も繰り返した。そして放送1週間前。「“継ぐハラ”をする側とされる側、どちらの意見も聞けるならやる意義がある」とようやく企画にゴーサインが出た。
放送3日前。寝る間を惜しんで編集した映像。これで放送、ではない。これから始まるのはVTRプレビューだ。総合演出、番組プロデューサー、コンプライアンス責任者が集まり、編集した映像をチェックする。
総合演出からは「ナレーションに対してVTRを繋いでいる尺数がパンパン。情報量が多いと伝わらない。自分では繋がっているつもりだろうけど、初めて見た人には入ってこない」と指摘が入る。また、プロデューサーからは「ナレーションの情報が薄い」という指摘も。澤岡ディレクターの台本は赤ペンで真っ赤になっていく。
自分の不甲斐なさに思わず悔し涙を浮かべる澤岡ディレクターに、総合演出は「澤岡が頑張っているのは、みんな知っているから。ただ、より良くするためだけの話だよ」と励ます。
そこから「もっとこうしたら良くなる」と全員で澤岡ディレクターの映像にアドバイスしていく。その後、画像の使用許可など、コンプライアンスチェックがあり、プレビューは終了した。
もらったアドバイスを元に、映像を直していく澤岡ディレクター。修正は多かったが、どうやら間に合った様子。放送当日、澤岡ディレクターは直したVTRを編集所へ持っていく。その後、テロップやナレーション入れを行い、ようやくVTRが完成する。
たった5分の映像だが、企画のプレゼンからいろいろなことを経て、ようやく放送できる――これがテレビの作り方だ。
この映像を見た、ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は、改めてテレビとYouTubeの違いについて「そんなに違いはない」とした上で、「ただテレビの方が編集とかですげー頑張ってるけど、ある種もう自己満足が入っちゃっていて『もう少しコスト下げれるんじゃねえの?』っていう気がしている」とコメント。また、自身が出演する際の使い分けについては「全く変わらない。要は、カメラに向かってただ喋っているだけで、自分の部屋にいるのと変わらない。(テレビに出るかYouTubeに出るかどうかで)別に意識はしていない」と答えた。
元読売テレビプロデューサーでYouTube「トクサンTV」の仕掛け人である平山勝雄氏は、YouTube転身のきっかけについて「僕個人の話で本当に恐縮だが、草野球をやっていて、その草野球の選手にプロになりかけたけっこう優秀な選手がいっぱいいた。それを趣味でYouTube上で配信したら、ちょっと爆ヒットして、今も(登録者数が)67~68万人くらいまでいっている」と話す。
「編集や効果音を入れたり、テレビのノウハウを全部持っていた。野球の映像がどんどんネットにあがっても、プロクオリティみたいなものがなかった。それにスパイスを入れたらバチンといったんで『あっ、これは時代なのかな』という気がした。プラットフォームは変われど、動画を作る技術はどこでも求められていると思う。テレビは巨大な予算をかけて全国民が同時に見て楽しめる番組を作れるが、まあまあ趣味の領域で自分の技術を出してみるのも楽しいかなと思って、(テレビ局を)辞めようかなと判断した」
また、冒頭の映像を見た平山氏は「ディレクターが演出担当にダメ出しされていたが、テレビ局や制作会社には才能を大きくしてくれる土台がある」とコメント。「YouTubeではテレビと違って誰でも参入できるので、いきなり才能ある人間だけがバチンと当たることはあるが、もちろん一部だ。誰でもできるからといって『やってみて』と言ったら、分かりにくい映像のまま世に出ていく。僕もだいぶテレビ局にはお世話になっていて、やっぱりテレビには優秀なクリエーターがいっぱいいると素直に思う」と述べた。
平山氏はテレビとYouTubeの違いをどのように見ているのだろうか。
「テレビはそもそも予算がついた状態で始まる。営業がお金を取ってきてくれて『この予算の範囲でやってください』と言う。YouTubeは、このチャンネルに予算をいくらかけるのかを、自分の手出しで決める。そこがテレビとYouTubeで根本的に違う。予算がありきでやるのか、予算ってそもそもどうすんのってところから始まるのか。あとはテレビは見ての通り、専門職が大量に分類化されている。カメラマンでも芸人にメッチャ詳しくて『ケンコバさん、ここでボケるからズームしよう』とかある。専門職でそのカメラさんを呼んだら『いいズームするね』と分かっている。編集は編集で、すごく効果的なデザインが作れるし、編集は編集が作るし、鳴っている音楽も音効さんがつける。照明さんは照明担当がいる。全部の過程に予算が潤沢にあるから、専門職がいっぱいいる。でもYouTuberは自分で予算を決めるし、そもそも根本的にお金がないから、全部やれることをやらないといけない」
また、YouTubeの成功基準について、平山氏は「ものすごくシンプルにいうと、制作費に対して広告費だったり企業タイアップだったりがどれだけあるか。入ってくるお金、出るお金だけの考え方だ」と答える。
「すごい長尺のコンテンツを作れば、30分とか1時間とか、1再生1円ぐらい。1円は滅多にないが、だいたい1再生0.2円から0.4円くらいの間に入るのかなと思う。皆さん、30万回再生いったら『すごい』と思うかもしれないが、実際には数万円だ。それをどうやって量産するか考える。人件費や人数も決まっているし、お金ありきなんで。たぶんそのあたりはやっぱりテレビマンだとちょっとなじみづらいというか、慣れないといけない。まず脳みそを柔らかくしないと、という感じがする。さらに面白い動画でヒットすると、広告収入がプラスになってくる。いっぱい人が見てくれたことで、グッズが売れたり、イベント依頼が来たりして、加速的に収益が増えていく。前半はメチャメチャ苦しいが、当たり出すと止まらないというのもYouTubeというかメディアの特性かなという気はする。ただ、これはどこのメディアも一緒だと思う」
一方で、メディアコンサルタントでテレビとネットの横断業界誌『Media Border』を運営する境治氏は、テレビとYouTubeの違いについて「テレビは不特定多数を相手に、視聴率を指標にやらなきゃいけない。例えば平山さんの『トクサンTV』は、野球好きの人に絞ってたくさん見られている。そういう深さみたいなところはやっぱりYouTubeの特徴だと思う」と語る。
YouTubeがテレビに与えた影響について、境氏はどのように捉えているだろうか。
「YouTubeだけではないが、ネットが登場して、いわゆるテレビ離れが進んだ。それがこの10年で加速したし、新型コロナの流行でさらに加速したと思う。NHKが長期的に国民生活時間調査をやっているが、これを見るとテレビ離れが如実に分かる。例えば30代の人は2000年に89%テレビを見ていた。それが10年後の2010年には78%になり、2020年に調査したら63%になった。テレビを見る若い人はどんどん減っている。ただ、意外に50代、そして60代はむしろ増えていたりする。だから、みんなテレビを見ていたのが、今はもう世代によって分かれていて、若い人はネットを見るし、やっぱりYouTubeの影響はすごく強いと思う」
境氏の説明を聞いたひろゆき氏は「『M-1グランプリ』で錦鯉さんが優勝した。これは20代から40代はほぼみんな知っている。でもテレビで視聴率はたぶん20%くらいだ。でも僕の体感では、20代から40代に関しては、錦鯉さんの漫才を7〜8割ぐらいが見ている。だから『テレビのコンテンツは面白いよね』というのはみんなが知っていて、それをYouTubeで見ているだけだ。『テレビがつまんなくなった』という話ではないと思う」と指摘。
ひろゆき氏の意見に、境氏は「まさにその通りだ」と肯定。「テレビの前にいないといけない形態が、言ってみれば不便になっている。同じものをネットで出して、例えばYouTubeに置いたらけっこう見られる。平山さんの成功を見てか分からないが、最近テレビ番組をYouTubeに置くことが増えている。最近やっとテレビ業界が気付いてきた。さっきひろゆきさんが言ったように、番組が嫌われているわけじゃない。これは非常に重要なことだと思う。TVerは5年以上前からあるが、やっとあれをテレビ局が『本気でもっと育てなきゃ』とやり始めている」と述べた。
テレビと対比されることも多いYouTube。時代と共にそれぞれどのように変化し、共存していくのか、注目が集まっている。(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側