文在寅(ムン・ジェイン)政権と与党「共に民主党」からの政権交代の是非を問う韓国大統領選挙が15日から始まった。
今回の選挙は与党・李在明(イ・チェミョン)候補と野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補の事実上の一騎打ちとなっている。外交面では文政権が重視した「親中国・北朝鮮」路線の継続の是非が焦点だ。
投開票は来月9日に行われるが、以前から「盛り上がらない大統領選挙」と言われてきたという。ANNソウル支局の良永晋也記者が現地から伝える。
Q.現在の情勢は?
韓国はアメリカに近いリベラルと保守の2大政党制で、政権交代の是非が争点になっている。主要候補は4人いて、調査(15日19時時点)でリードしているのは第一野党「国民の力」の尹候補(41.6%)。ほぼ接戦で、与党「共に民主党」の李候補(39.1%)が続いている。誤差の範囲に2人の候補が収まっていて、今度どうなるかはわからない。
ただ、それは候補や政党の支持率の話。質問を変えて「政権交代を求めるかどうか」という問いだと、6割近い国民が「求める」と答えている調査結果もある。つまり、李候補以外の候補者が力を合わせれば勝てるが、現状はそうなっていない。
Q.なぜ韓国国民は政権交代を求めている?
一番の理由は、文政権のこの5年間であまりいいところがなかったこと。とりわけ、経済面では不動産価格の高騰が深刻化していて、若者が家に住めない、とてもではないが家を買えないというレベルになっている。また、文政権が評価されてきた北朝鮮問題も今はかなりこじれてしまっている。「K防疫」ということで誇ってきたコロナ対策も感染が爆発しているような状況で、なかなか得点を稼げていないということがある。
歴代の大統領の中で、実は文大統領は支持率の上では頑張っているほう。とはいえ、文政権をなんとしてでも支持する岩盤支持層と言われる人たち以外の支持が離れてしまっているのが現状だ。
Q.今回、一騎打ちとなっている李候補と尹候補はどのような人物?
実は2人とも国政の経験がない。つまり、国会議員や閣僚を経験していない人たちになる。
李候補はかなり叩き上げの切れ者という人物。貧しい家庭の7人きょうだいの5番目に生まれ、工場の職員などを経て、自力で勉強して弁護士資格を取った苦労人。その後、落選なども重ねて政界に足を踏み入れると、ソウル郊外にある城南市という小さな市の市長や、京畿道というソウルと仁川を除いた首都圏のトップを務めるなど着実にステップアップし、今回やっと大統領選挙の切符を掴んだ。こういった業績を誇っていて、キャッチフレーズは「危機に強い経済大統領」。「これまでの実績、自治体のトップを率いてきた実績が韓国の危機を救うと訴えている。
ただ、李候補は敵が多い人でもあり、“韓国のトランプ”という異名も持っている。舌鋒鋭いというか、批判的な人には強く攻撃するようなところがある。そういったところが、支持が広がっていない要因だと考えられる。
一方の尹候補は、検事ひと筋でやってきた、一言でいえば“堅物”といったようなイメージ。尹候補は、朴槿恵(パク・クネ)前大統領をめぐる疑惑の捜査チームのトップを務めた人で、文政権誕生の功労者にあたる人。文政権で検事総長に抜擢されるわけだが、その際に文大統領から「相手が誰であれ厳正に捜査をしろ」と命じられる。尹候補はその言葉どおり、文大統領の盟友と言われるチョ・グク法相を追及したり、その後の法相とも対立するなど、文大統領と激しく対立する。そういった経歴と実績を買われて、「国民の力」という第一野党の大統領候補に抜擢された。
ただ、朴槿恵前大統領を刑務所に追いやった検事総長として、保守系の人からはかなり警戒されている。さらに、国政経験がなく、李候補よりも経験がいろいろと少ないことで、失言をしたり言葉が足りなかったりして支持を集められていない。
Q.野党が力を合わせれば勝てるということで、候補者の一本化はある?
まさにここが今後の最大の焦点になると思う。3番手にいる安哲秀(アン・チョルス)候補は10%いかないくらいの支持率があって、尹候補と一本化する話が以前からあった。安哲秀候補は14日、尹候補に「予備選をして、国民に信を問うて候補を決めましょう」と一本化を提案した。尹候補としては、これだけの支持率に差がある中で候補は当然自分だろうということで、一本化のやり方をめぐる溝が埋まっていない。
両候補の陣営に取材をすると、どうなるかは見通せないが「やるなら早いほうがいい」というのが共通している話。なので、そうとなればパパっと決まってしまうというふうに私はみている。
Q.政策論争は低調だというが、日本への対応に関する両候補の姿勢は?
李候補は、「(日本は今も)軍事大国化を夢見ていて、独島(竹島)をめぐり挑発を続けている」などと厳しい姿勢。現金化が迫る徴用工問題でも、「日本政府は賠償判決を速やかに履行するべき」という原則論を掲げている。
対する尹候補はかなりトーンが違って、「文政権になって韓日間系が壊れた。あまりに国内政治に引っ張っている」「価値と利益を共有し、信頼を築く。韓日間系の新たな50年を築く」という発言をしていて、融和的な印象だ。
これを見ると、尹候補が大統領になれば日韓関係の改善が進むように思えるが、実際はそう単純ではない。尹候補は竹島への明確な言及をしていないだけで、基本的な姿勢は李候補と変わらないはず。竹島問題は右であろうと左であろうと、日本に譲歩することは韓国国内ではありえないわけだ。仮に尹候補が大統領になった場合、竹島問題が出てきた時にやはり日本に対して強い姿勢で出ざるを得ないだろう。徴用工問題に関しても、尹候補は「現金化を遅らせよう」という趣旨の発言をしているが、三権分立や世論を考えると口で言うほど簡単ではない。
尹候補が大統領になっても、劇的に日韓関係が改善することはなかなかむずかしいとみている。