自民党・衆議院議員の石破茂元防衛大臣が7日の『ABEMA Prime』に出演、ロシアのウクライナ軍事侵攻を踏まえ、日本の安全保障環境について危機感を示した。
「2週間くらい前まで、まさかこんなことになるとは思わなかった。正直言って、まさか全面戦争になるとは思わなかった。でも、その前も、まさかドンバスで軍事攻撃が始まるとは誰も思わなかった。でもやった。その前も、まさかクリミアを取ってしまうことはないだろうと思っていたが、そうではなかった。つまり、“まさか何々はないだろう”、というのが全て裏切られてきた。今度もそうだったということだ」と話した石破氏。
「ゾッとするのは、プーチン大統領が2018年のドキュメンタリー番組で“ロシアがない地球に何の意味があるんだ”と言っていたことだ。今回のテレビの演説の、“もし西側が…”というのは“NATO側が…”という意味だろう。“ロシアに攻撃を仕掛けることがあるならば、あなた方は今まで見たことがない光景を見ることになるだろう”。これが単なる脅しだと思っていたら違った、ということがありうるということだ」。
■「“核の傘があるから大丈夫”は思考停止ではないか」
そんな中、国会ではアメリカの核兵器を日本に配備し、共同で運用するいわゆる「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について議論すべきとの意見が浮上しており、石破氏も「議論はしないといけない」との認識を示す。
「あまり言われていないことだが、ウクライナは世界第3位の核保有国だったが、ブダペスト覚書(1994)で、核を持つ国は限定するからウクライナも入れと言われて入った。そして“ウクライナの核はロシアに移送する、代わりにロシア、アメリカ、イギリスが安全を保障するから”と。このことを踏まえて、“もし核を持っていたらこんな目に遭わなかった”ということが、ウクライナの中では公然と言われている。
リビアのカダフィ大佐も、核を放棄したらやられてしまった。イラクのサダム・フセイン大統領もそうだった。北朝鮮の金正恩総書記は、同じ目に遭うのは嫌だと間違いなく思っている。日本はどうなのか。非核三原則がある。しかし、どうやってリビアにならないのか、イラクにならないのか、ウクライナにならないのかということまで言わないと、国民に責任ある説明をしたことにはならない。
私は核共有の話を、何年も前からしてきた。“そんなことをやっても意味がない”、“最終的にはアメリカが使う権限を持っている。戦闘機に積むタイプのものだから、実際に使うことになっても、ものすごく時間がかかる”など、否定論はいっぱいある。しかし、なぜドイツやベルギーなどの国々がこの政策を採っているのかを突き詰めて理解しないまま“そんなものはダメだ”と言うのは思考停止だ。
意味がないとするなら、日本はどうするのかということだ。“アメリカの核の傘があるから大丈夫”と言うが、その傘はどれくらい大きな傘なのだろうか。いつ差してくれて、いつ差してくれないのだろうか。穴は開いていないか、つまり有効性を常に確認することも大事ではないか。NATOの国々は、ずっと検証をしている。それをしないで、“いざとなったら核の傘があるから大丈夫”というのは、一種の思考停止ではないか」。
■東京のどこに核シェルターがあるのか
「持たず、つくらず、持ち込ませず」のいわゆる「非核三原則」のうち、「持ち込ませず」の例外を検討すべきではないかとの意見もある。
「もし唯一の被爆国たる日本が作ったり、持ったりしたら、NPT(核兵器不拡散条約)体制は終わりだ。“あの日本が持つんだから我々も…”となる。今のNPTが万全だとは思わないが、ないよりはましだし、世界中が核を持つ世の中は、今よりも悪い世の中だ。だから“作らず、持たず”はいいと思う。
ただ、“持ち込ませない”ということは本当に明言すべきことなのか。“持ち込ませない”ということについて、“日本政府としては言及しません”と言うだけで、抑止力は高まるのではないか。日本が核を持って使いまくることはあり得ないし、この国の民主主義はそこまでいい加減だとは思わない。しかし抑止力として核を持つか持たないかについて“日本政府は申し上げない”と言うことには意味がある。
今から15年以上前、私が防衛庁長官だった時のことだが、アメリカのコンドリーザ・ライス国務長官、日本でいう外務大臣がやって来て、この議論をした。先ほども言ったように、どんな時に使う、どういうような意思決定のプロセスにするか、アメリカは常にNATOの国々と協議している。それを日本とアメリカとの間でもやりましょうと言ったら、彼女はすごく驚いた顔をして、“日本の政治家からそんなことを言われたのは初めてだ”と言った。その後すぐに離れたから知らないが、少なくとも官僚、外交官、あるいは軍人、我が方で言えば自衛官。中身はこうだと言ってしまえば抑止力にならないが、そういう議論は進んでいるはずだと思う。
北朝鮮もロシアと同じようなことを言っているが、“自分の国がない地球は無意味である”というような国が出てきて、お互いに撃ち合うと地球の終わりだから止めておこう、というのも効かなくなってくるというのは、相当恐ろしいことではないか。そう考えると、ミサイル防衛には意味がないと言っていても仕方がなくて、技術をもっと上げていかなれければいけないし、いっぱい撃たれたら撃ち落とせませんじゃどうにもならないので、数も揃えていかないといけない。
そして今回のウクライナを見ていると、市民が冷戦時代に作られたシェルターに逃げている。じゃあ日本のどこに同じような場所があるのか。“いやいや東京には地下鉄がいっぱいあるんじゃないの”と言うが、水がない、食糧がない、トイレがない。そして換気装置が動いていればシェルターの意味がない。どうすれば核攻撃を受けても命を落とさずに済むのか。そういう議論が、この国でほとんどない。なんでこの議論をしないのか」。
■日米安保があるからと無思考になってはダメだ
アジア太平洋地域の集団安全保障体制を考える上で、石破氏は“アジア版NATO”を提言、論争を呼んだこともあった。
「誰も振り向いてくれなかっただけの話で、これも15年前から言っている。私が言っていたのは、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアのANZUS条約に日本を入れて“JANZUS”というのを考えたらどうかということだった。また、アメリカと韓国との間には安全保障条約、台湾にも台湾関係法という法律がある。そしてイギリスがここに同盟国を持っている。
15年前には“そんなことを言ったって各国の経済力も違うし、軍事力も違うし、できやしないよ”と、ほとんど相手にしてもらえなかったが、だいぶ軍事力も揃ってきたし、脅威もかなり現実のものになってきた。そういうものをつなぎ合わせていくというのは昔に比べると容易になっているのではないか。やはり軍事力が均衡している時、つまりやっても勝つか負けるかわからないという時には戦は起こらない。そういう問題について一歩でも二歩でも議論を進めていかないと、何年か経って本当に戦争になって、作っておけばよかったねと言ってもしょうがない。
例えばソビエト時代の1956年に起きたハンガリー動乱ではアメリカが介入も何もしなかったため、民主化は見事に潰された。同じく民主化の動きがあったチェコスロバキアにロシアが侵入したとき(1968年)にもアメリカは助けてくれなった。アメリカの国の仕組みを勉強しておいた方がよい。常に日本を助けてくれるかといえば、戦争権限法という法律があるので、大統領が命令しても議会がダメと言ったらアメリカは動かない。そもそもアメリカには1948年、“自分で努力しない国は助けない”というバンデンバーグ決議もある。
昔、フランスのド・ゴール大統領が“同盟というものは、ともに戦うことはあっても決して運命はともにしないものだ”というすごい言葉を残している。日米安全保障条約があるから大丈夫だと無思考になってはダメだ。どうしたら日米安保はきちんと動くのか、アメリカはどういうときに介入してくるのか。どうやったら同盟が機能して、どうしたら戦にならないか、考えたくないことだが、感情に振れず、突き詰めて考えないとしょうがない」。(『ABEMA Prime』より)
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