解雇規制の緩和をめぐる議論に夏野剛氏「辞めても1年くらいは平気じゃん、というくらいのセーフティネットを作った上で考えるべきではないか」
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 長年、日本で議論されてきた解雇規制、すなわち雇用主による労働者の解雇を制限する法制度の緩和の問題。雇用の流動性が高まり、生産性が上がるという期待もある一方、“ブラック企業”が増えるのではないかといった懸念の声もある。

【映像】夏野剛氏「セーフティネット作った上で議論を」

 8日の『ABEMA Prime』に出演した慶應義塾大学の夏野剛特別招聘教授は「すごく難しい問題だが、なぜ今のような制度になっているかということと、本当に実効性があるのかということの両面の話をしなくてはいけない」と話す。

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 「まず、戦後の高度成長期以降の日本は、本来であれば国がやるべき、いわゆる“セーフティネット”、つまり雇用の安定のための政策を大企業に背負わせるスタイルでやってきた。そもそも企業というのはどこの国であれ永続的に続くものではなく、日本でも起業したうちの8割ぐらいは数年以内に廃業をしている。そのくらい不安定なものなのに、日本には“大企業”というものがあったために、そこに雇用を守ってもらい、“終身雇用“を実現させることで社会の安定を図ろうとしてきた。

 とはいえ、中小企業はやはり不安定なので、正規雇用であれ非正規雇用であれ、“会社が苦しくなったからごめん”と言われたらそれで終わりだ。しかも日本では、雇用者の中で大企業に入っている人は2割しかいない。つまり解雇規制で守られているのは労働者の2割に過ぎず、ほぼ実効性はないということだし、正規だったら守られるというのも幻想だ。また、労働組合の組織率も低くなっていて、大企業では6割以下だ。そういう、一部の人たちの議論だということだ。

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 その上で、この20年間、日本だけは解雇規制があるが故に流動性が低い。例えばメーカーはITでどんどん人がいらなくなっているにも関わらず、社員を抱え続けなくてはいけないということで事業を作り続けている。その一方で、例えば介護やサービス業などは、どんどん人が足りなくなっている。今は失業率がものすごく低く、約3%だ。自由主義経済の中で3%というのは、ほとんど失業者がいない状態だ。しかも労働力不足が続く。

 そこで議論されているのが解雇規制の緩和ではなく、解雇の条件の一つに“金銭的解雇”、つまり給与の何年分かを払うというのはどうか、というアイデアだ。ただ、人は“今やっている仕事をそのままやり続ける方が楽だ”と思いやすいし、“給料が上がったとしても、新しいことはちょっと”と思う人もいる。しかし、そうやって人が適正に動かないことが日本の経済を損なっているという議論もある。例えば失業保険の給付条件を緩めるとか、期間を延ばすとか、政府がもう少しセーフティネットを作ることで、辞めることがあっても別に平気じゃん、1年くらいは大丈夫、という状況を作った上で議論をすべきじゃないか」。

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 ジャーナリストの堀潤氏は「中小企業はいろいろなリスクを考えると正社員として雇いづらくなるし、最初は業務提携からとか、何かあったらすぐにサヨナラできるように、という姿勢になってしまう。一方で、一つの会社で10年、20年と働き続けるライフプランを立てることもまたリスクだと思う。世界情勢も混沌としていく中、同じ職場に10年、20年居続けられるかはわからない。だったらセーフティネットの一つとして、起業したり技術を身に付けたりできるような職業訓練をセットにした制度改革を進めてほしい」と指摘。

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 テレビ朝日田中萌アナウンサーも「私は“安定がいい”、“60歳まで同じような給料をもらいたい”と思ってこの会社に入ったのもあるが、業界も含めて何十年先まで持つか分からない。楽しいことをして働いているのはありがたいし、ジョブ型雇用ではないが、アナウンサーという仕事は技術、能力みたいなものなので…」。

 すると夏野氏は「セーフティネットが大切だというのはそういうことだ。僕もいっぱい転職しているが、何回かトライしないと自分の得意なことも分からない。そして能力があるかどうかの前に、“本当は嫌だけど、お金のために働いている”“もう俺は仕事をやらなくても解雇されないから”という状況は悲劇だし、会社内で睨まれて、ずっと窓際というのも本当に辛い。こういうのは本当に良くない」と応じていた。(『ABEMA Prime』より)
 

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