将棋の藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)が3月9日に行われた順位戦B級1組の最終13回戦で勝利し、自身初のA級入りを決めた。この一局が、藤井竜王にとっては2021年度の最終対局。年度成績では64局で52勝12敗、勝率.8125をマークし、実質的なデビュー年度の2017年度以来、5期連続で年度勝率8割超えという快挙を達成した。「四段のころと比べるとトップの方との対戦が増えているので充実感はあります」と言いつつも、向上心にはまるで変化なし。「安定しないところがあった。一局一局の精度を高めたい」と、さらなる高みを目指している。
【動画】順位戦 B級1組 13回戦 藤井聡太竜王 対 佐々木勇気七段
5つのタイトル戦に出場し、年度勝率が8割を超える。藤井竜王がいかに突出した強さを誇っているかが、改めて分かる数字だ。将棋界では三段リーグで揉まれた若手が、四段昇段しプロデビューしてから間もない時期に、高勝率を残すことは比較的よくあることだ。事実、2021年度の勝率ランキングで現在1位の伊藤匠四段(19)は42勝9敗で.8235だが、今年度が実質的にはデビュー年度。また3位の服部慎一郎四段(22)も41勝10敗で. 8039だが、今年度が2年目だ。これが徐々に勝ち上がっていくに連れて、強豪棋士同士の星のつぶし合いに巻き込まれ、徐々に勝率を落としていく。ところが藤井竜王の勝率は、いつまでも8割を割り込まない。藤井竜王の年度別成績を見てみると、以下のとおりだ。
2016年度 10局 10勝0敗 勝率1.000 ※10月デビュー
2017年度 73局 61勝12敗 勝率.8356
2018年度 53局 45勝8敗 勝率.8491
2019年度 65局 53勝12敗 勝率.8154
2020年度 52局 44勝8敗 勝率.8462 ※王位、棋聖で二冠
2021年度 64局 52勝12敗 勝率.8125 ※竜王、叡王、王将を加え五冠
1年通じて対局があった2017年度からの5期は、全て50局以上指し、勝率は毎年8割超え。自身3度目の年間50勝もクリアした。来年度中には通算300勝にも手が届くペースでもある。
これが藤井竜王のピークだとするならば、なんとか理解の範疇かもしれないが、本人にとっては、まるで道半ばというから周囲は脱帽するしかない。王将獲得後の会見で、自身の現在位置を富士山に例えた際「森林限界の手前。頂上は全く見えていない」と発言し、「森林限界」という言葉が一気に広まったこともあったが、そのワードセンス以上に向上心が驚異的だ。今年度最終局を終えた後のインタビューでは「今年度はタイトル戦の番勝負を多く経験することができて、その中で得るものもありましたし、結果を出すこともできてよかったです」と一定の達成感を覚えながらも「全体として見てみると安定しないところがあったので、一局一局の精度を高めていきたいです」と、すぐに課題をあげた。さらに来年度については「4月以降、タイトル戦が始まっていくことになるので、それに向けて少しでも実力をつけていきたいです」と、さらに先へと進む言葉しか出てこない。
8タイトルのうち5つを保持したことで、これまで戦ってきた各棋戦の予選や本戦へ出場することがなく、対局ペースが落ち着くことも予想されている。実戦の感覚について不安視する声も出始めるが、過去には新型コロナウイルスの感染拡大により公式戦が中止・延期になった期間を成長につなげた例がある。「公式戦がない時期も、普段と同じように取り組んでいます。対局が多い時は序盤に重点を置いて、時間がある時は中終盤に取り組みます」とも語っており、対局と対局の合間をさらなる成長期間にできるのが、藤井竜王の強みでもある。
強い相手との対戦で経験を積み、準備期間では課題克服に時間を費やす。さらに強くなった状態で来年度は保持するタイトルの防衛と、残る3つのタイトルの獲得を狙う。全てがうまく噛み合った時、藤井竜王の年度勝率は、8割どころか夢の9割にさえ近づいていく。
(ABEMA/将棋チャンネルより)