ウクライナに提供する防弾チョッキなどを乗せた自衛隊機が10日夕方、鳥取県の美保基地を出発した。8日に続く第2便となる。
提供するのは、自衛隊が保有する防弾チョッキとヘルメット。日本が海外へ防弾チョッキを輸送するのは、今回のウクライナが初めてだ。政府は8日、NSC(国家安全保障会議)を開き、防衛装備移転三原則の運用指針を改定して対応した。
この決定の背景、政府の思惑について、テレビ朝日政治部・官邸担当の今野忍記者が解説する。
Q.防衛装備移転三原則の運用指針を改定して対応した背景は?
防衛省や自衛隊の幹部に取材すると、これはギリギリの判断だったと。自衛隊は武器やミサイルから食料品まで様々なものを持っているが、なんでもかんでも無尽蔵に送ることができるわけではなく、2つの壁がある。1つは、武器輸出に関する原則を政府が持っていること。もう1つは、自衛隊法だ。
防衛装備移転三原則で改定したのは、原則自体ではなく細かく定められている運用方針。この三原則は、簡単に言ってしまうと、アメリカと同盟国、準同盟国との間の輸出に必要なことを中心に書いてあって、今回ウクライナに輸送するような事態は想定されていなかった。
過去には武器輸出三原則というものがあって、日本の武器は原則輸出できないという厳しい政府方針があった。ただ、国際情勢が変化するにつれて、例外規定をもうけて輸出する例が増えていった。これは安倍政権が変更したと思われているが、1983年の中曽根内閣、2004年の小泉内閣、2011年の野田内閣とちょこちょこ例外規定を設けてきていた。それならいっそ武器輸出三原則そのものを撤廃してしまえということで、2014年の安倍内閣で撤廃し、新たに防衛装備移転三原則を策定した。
一方の自衛隊法は、116条の3に途上国に不用品であれば援助できると定められていて(開発途上地域の政府に対する不用装備品等の譲渡に係る財政法の特例)、今回この法律を使った。ただ、弾薬を含む武器は除くとも書かれている。防弾チョッキは戦場では使うが殺傷武器ではないということで、自衛隊法と防衛装備移転三原則の運用指針改定でギリギリの解釈とした。
Q.それだけのことをしても政府はウクライナに物資を送りたかった? その理由は?
岸田総理やその周辺を取材しても、他人事としては捉えられないと。正直、ウクライナはそこまで日本との関わりや交流が深い国ではないと思うが、領土拡大のために一方的に攻め込むという事態がアジアで起きた時に、日本が巻き込まれる可能性がある。岸田総理や周辺も具体的な国名はあげていないが、台湾有事や北朝鮮のミサイル発射、尖閣諸島など、日本周辺には様々なリスクがある。
ウクライナから日本の防衛大臣に届いた手紙の中には、防弾チョッキ以外に対戦車ミサイルや対空ミサイル、小銃の弾薬なんかもあったと言われている。ただ、現行法では殺傷兵器は送ることができないので、防弾チョッキを選んだということだ。
法律をかなりアクロバティックに解釈して送ることになったが、ここでやっておかないと、いざ何か起きた時に「日本はお金だけ出して何もしてくれなかったじゃないか」となる。「日本はウクライナ危機の時に何もしてくれなかった」となるのか、「現行法の中で一生懸命解釈をして防弾チョッキを送ってくれた」となるのか、少しでも貢献したいということがあった。
Q.日本の安全保障を考える上でも法改正の転機になっていく?
これは大きな転機になるのではないか。世界は今、パンデミックと第三次世界大戦前夜のような状況になっていて、これまでの日本の法律の立て付けでやっていけるのか、根本的な議論をしないといけないところにきている。これは私が勝手に言っているわけではなくて、防衛関係の人たちはそう考えている。
過激な感情論に陥ってはいけない反面、やれることとやれないことをしっかり分けておかないと、なし崩し的になってしまったり、議論だけして時間を空転させたりしてしまう可能性がある。日本という国がどういう安全保障の政策で、どこまで関われて、何ができないのか。これからしっかり議論をして、こういう方向でいくんだというビジョンを打ち出さないと、混沌としている世界の中で、現在の法の中に取り残されてしまう恐れがある。