年金受給者への"5000円のお金配り"は岸田政権のメディア対策?“生活は改善しないが、参院選で票にはなる”
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 自民・公明両党の幹部が15日、総理官邸を訪れ“新たな給付金”について岸田総理に申し入れた。すでにネット上では大きな非難を浴びている、年金受給者に対する一律5000円の臨時の「特別給付金」支給だ。

 しかし、なぜ現役世代ではなく年金受給者が対象なのだろうか。自民党の茂木幹事長は「年金生活者の中でも住民税非課税世帯についてはすでに給付金をお配りしているので、それ以外の方々に対する支援策を早急に取ってほしい(と伝えた)」と説明しているが、そもそも年金支給額は物価や賃金の変動を踏まえて改定されており、コロナ禍の影響による支給額の落ち込みを、特別給付金で補う狙いがある。

【映像】古い政治手法?年金受給者に5000円ずつバラマキ?

■「岸田政権にとって、次の参議院選挙で勝つことは至上命題」

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 政治ジャーナリストの青山和弘氏は「“現役世代の給料が下がっているのに年金生活者は同じ水準もらい続けていいのか”という議論の中、年金制度改革が行われた。今年は0.4%分、年間平均で5000円程度の下げ幅だが、この“年金が下がる”という通知書が来るのが6月10日と、まさに7月の参院選の直前なので、与党にとってはマイナスになる。そこでこの5000円を補填することで選挙対策にしようということだ」と説明する。

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 とはいえ、総支給額の約1300億円に対し、約700億円もの事務経費が注ぎ込まれることになるという。政府・与党内からは「夏の参院選対策だ」という指摘もあり、野党・日本維新の会の藤田幹事長も「こういうバラマキのようなもので選挙対策と言い切ってしまえるのが自公政権の一番ダメなところだと」と厳しく批判。しかし自民党の高市政調会長は「私どもは原油高や物価高による国民生活への影響を心配している。バラマキという批判は当たらない」、公明党の竹内政調会長も「バラマキとの批判は当たらない」と反論している。

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 青山氏も「やはり5000円だけ配っても、レストランに行けば終わりだ。物価が上がって大変だというなら、それをどう抑えて生活を改善していくかに使うべきで、配るために700億円使うというのは、本末転倒だと思う。それでも、すでに予算に計上されているコロナ予備費を使うので、新たに法律を作ったり、予算を組んだりする必要はなく、閣議決定すれば済む。60代以上の人たちに投票してもらうための対策として、非常に使い勝手がいいと感じた」と苦笑する。

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 「さらに言えば、岸田総裁と麻生副総裁と茂木幹事長の3人だけで決めていて、自民党内での議論が全くされていない。“バラマキには当たらない”と言っていた高市政調会長でさえ知らされておらず、実は“もっといい制度があるのではないか”と周囲に漏らしているという。それは公明党でも同じで、本当に選挙対策のために突然浮上した、非常に杜撰で拙い案だ。

 しかし岸田政権にとって、次の参議院選挙で勝つことは至上命題だ。これに勝てば、衆院選も含めて国政選挙がない“黄金の3年間”が始まる。国民民主党に手を伸ばして労働組合を味方につけて野党を分断させる。そしてウクライナ問題がある中で安全保障を担えるのは自民党だけだと保守層にもガッツリアピールする。岸田政権はそうやって、非常にしたたかに盤石な体制を築こうとしている。あとは今の物価高がどこまで進み、国民の生活がどれだけ困窮するかどうか。そこがネックになる可能性はある」

■「メディアのキャンペーンに対して先手を打ったということだ」

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 米イェール大学助教授で半熟仮想株式会社代表の成田悠輔氏は「雑な政策だが、上手く“メディアジャック”したなと思う。そもそもコロナ対策なんて全てバラマキで、これまでに兆単位のお金をばらまきまくってきた。それに比べれば今回は少額の政策だし、そんなに大騒ぎするほどのことでもないのではないか」と話す。

 「本当に問題なのは、線引きが雑だという点で、コロナ対策のようなものは本来、最も困っていて最も必要としている人たちをターゲットにしなければならないはずで、年金をもらっている人の中には全く困っていない人もいる。しかし今の国の仕組み、持っているデータでは、“年金受給者一括”のような配り方しかできなくなっている。そういうインフラ面の課題こそが本質的な問題なのではないだろうか。選挙対策だとしても、そうやってターゲットできる仕組みがあったほうが、自民党にとっても得なはずだ」。

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 慶應義塾大学の夏野剛特別招聘教授は「想像してみてほしいが、年金支給額引き下げの通知が6月10日に来た後、おそらくテレビの報道番組は“年金が下がって大変だ”という特集を組むはずだ。そこで参院選が来ると考えると、できるだけそういう“ツッコミポイント”は潰しておきたいということだ。成田さんが言ったように、コロナに使ってきた数兆円の中には無駄なものもあっただろうし、全体の政策からみれば2000億円というのは大した額ではないからこそ、3人でちょろっと決めたわけだ。それ自体は違法なことではないし、5000円じゃ解決にはならないが、とにかくメディアのキャンペーンに対して先手を打ったということだ」と話した。

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 パックンは「先手を打ったというのも、メディアがジャックされているのもその通りだと思う。でも、もっと怒っていいと思う。貧困層や子育て世代、医療従事者など、コロナ禍で苦しんでいる皆さんを対象にすべきで、その中に高齢者も含まれるということだ。やはり投票率の高い60歳以上の方々に向けたものだと思うので、他の層に投票で抗議をしてもらいたい」と訴えた。

 松野官房長官は「政府としては与党の提言を踏まえつつ、検討を進めてまいりたいと考えている」と話している。(『ABEMA Prime』より)
 

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