ウクライナ侵攻めぐる「フェイク動画」、取材記者が語る“3つのパターン” だまされないためには
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 ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、市民を危険に晒したり、国際世論に影響を与えかねない「誤った情報」や「フェイク情報」が氾濫している。民間人が避難するための人道回廊についても、誤った情報を発信するSNSアカウントがあることがわかった。

【映像】「夫と妻の別れの場面」として拡散されたフェイク動画(11:24~)

 このフェイク情報などについて取材を続ける、テレビ朝日社会部の西井紘輝記者が伝える。(以下、西井記者)

■ウクライナ侵攻めぐる“フェイク情報”、人道回廊の場所まで…

 ウクライナから遠く離れた日本の、私が使っているSNSのタイムライン上にもフェイクの動画があった。今から5年以上前に中国の天津で大きな爆発事故があったと思うが、その時の動画が「今のウクライナの現状です」という文言とともにツイートされていた。私は過去の動画だと知っていたので、これはフェイクのツイートだとわかったが、日本でもそういった情報が流れてくるのだなと、強く印象に残った。

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 さらに、現地ではどのような情報が流れているのかが非常に気になって、ウクライナで国営の通信社に勤めている平野高志さんに話をうかがった。すると、「人道回廊について誤った情報を流しているSNSがある」ということで、本当にそういったアカウントがあるのかどうかも含めて調べたいと思い、取材をしている。

 通訳の方と一緒にSNSを探して、例えば、「人道回廊」「回廊(コリドー)」、あとは「緑の回廊」という言い方もあるそうだが、これらをロシア語やウクライナ語でひたすら検索していった。ただ、正しい情報を書いているのか、誤った情報を書いているのか、そこの見極めが非常に難しかった。

 まとめサイトのようなものを見つけ、そこに「こういったアカウントには気をつけて」というような情報が載っていたので、「Telegram」というメッセージアプリに移って内容を1つずつ調べていった。その中で、これはおかしいんじゃないかという内容が複数あり、「これは誤った情報を発信しているアカウントだ」と特定に至った。

 わかりやすかったのは、当局が発表する人道回廊に関する情報と、そのアカウントで発信している情報が全く違う内容だったということ。3月22日の情報で、政府の発表は「スポーツ施設に集合してください。避難に使うバスは9時~10時に動きます」というものだったが、偽の情報では「バスは10時~11時半に来ます」と。スポーツ施設はあっているが、「スポーツ施設の前の広場で待っていてください」と、若干場所が違っていた。

 また、安全性の問題から、当局は発表している人道回廊以外のルートからは避難しないように呼びかけをしているが、そのアカウントでは「街が壊滅的な状況なので、どんなルートを使っても構わないから避難してください」と、当局の発表と違う内容が書かれていた。

■侵攻前・侵攻後で“フェイク情報”が変化

 今回、桜美林大学の平和博教授を取材したところ、このフェイク情報をめぐる情報戦というのは去年10月の段階から始まっていたという。平教授によると、去年の10月末ごろにウクライナ国境付近にロシア軍が増強してきた時期に、ウクライナ情勢に関するフェイク情報の量が1カ月前から30倍に増え、フェイク情報を発信するアカウントの数だけでも10倍に増えていたという。

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 主な内容としては、ロシア国内向けの世論固めとみられる内容が大半で、ロシア語で書かれたものが多かったそうだ。ただ、時期が過ぎて情勢の緊張が高まるにつれ、英語による情報発信が増えてきた。今度は世界に向けての情報発信へとターゲットを変えたのではないか、ということが読み取れるということだ。

 侵攻直前になると、「親ロシア派地域がウクライナから攻撃を受けている」といったメッセージ性のある動画、あるいは画像が拡散されるようになった。これはおそらく、開戦の口実となるような“偽旗作戦”ではないかとみられる。さらに、侵攻が始まってからはまた内容が変わってきて、今度はウクライナ側で撮られた被害の状況が「ウクライナ側が発信しているフェイクだ」という、ロシア側の偽のファクトチェックも目につくようになった。

■“フェイク動画”3つのパターン

 フェイク画像・動画について、平教授によると主に3つに分類できるという。

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 1つ目は「流用型」で、過去の動画や画像をそのまま引用して、あたかも“今ウクライナで起きていること”のように示したもの。ウクライナの「夫と妻の別れの場面」として拡散された動画が、実は過去に撮影されたドキュメンタリー映画の一場面だった。

 2つ目の「改ざん型」は、オリジナルの動画や画像を加工したものになる。例えば、ゼレンスキー大統領が服を自分の前に掲げているような写真があるが、その服に大きくナチスのシンボルである「鉤十字」が印刷されていた。オリジナルの写真を見ると、掲げていたのはウクライナ代表のサッカーチームのユニフォームで、「ゼレンスキー」と名前が書いてある下に背番号が印刷されていた。これが加工されて鉤十字のマークに改ざんされていた。

 3つ目の「架空型」は、ゼロから架空の話を作るまったくの創作のもの。少し前、核戦争の危機を告げる英BBCのニュース映像というものがあった。これは、BBCが実際に作って放送したものではなく、2016年にアイルランドの企業が災害時の心理状況を測定するテストのために作った架空のニュース。2018年にはBBC自身も「これはフェイクなのでだまされないでください」と情報を発信したが、今回もその映像が流れてきた。ある意味、「流用型」にも分類できるのではないかと思う。

■フェイク情報は「感情を揺さぶるために作られたコンテンツ」 だまされないためには

 日本のメディアもそうだが、各国のメディアも報じる際に必ず裏を取り、この過程でファクトかフェイクかということが明らかになる。今回はヨーロッパの出来事ということで、特にヨーロッパのメディア、英BBCや仏AFPなどが、フェイク画像やフェイク動画については力を入れてチェックに取り組んでいるという。ほかにも、ファクトチェックを専門にするメディア、例えば「Bellingcat」などが、公開されている情報や画像に映っている情報などを1つずつ分析して、ファクトかフェイクかを明らかにしている。

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 このフェイク情報を誰が流しているかというのは、正直わからない。1つの見方としては、国際世論の後押しを受ける狙いがあり、ロシアとウクライナ双方が情報戦を展開していると、平教授は話している。特にロシアの場合は、武力行使・サイバー攻撃・フェイクニュースが一体となって展開される「ハイブリット戦」の一端として、フェイク情報を使っている側面があるという見方もある。

 平教授が言っていたのは、「フェイク情報は人の感情を揺さぶるために作られたコンテンツだ」ということ。そういったものを見た時に、条件反射的に「これを誰かに伝えないといけない」という心理が働き、普段ならだまされないはずの人もSNSでシェアしてしまうことが多いようだ。なので、心を動かされた時ほど落ち着いて、冷静になる必要がある。まずは深呼吸をして、次に発信者が誰なのか、信頼できる情報機関の情報なのかを確認して、それでも確認が取れなければ拡散しないようにする。リツイートや発信者のフォロワー数が多いほどファクトのように思ってしまうが、そこは全然判断材料にはならない。ソースが一番大切なポイントで、個人一人ひとりが冷静に情報を見極めていくことが重要。

 先ほどの「流用型」フェイク画像の場合、画像検索を使って過去にあげられたものか確認ができる。「これは今のウクライナの状況です」という爆発の画像があった時、画像検索にかけることで過去に撮影されたものかといったことがわかるので、落ち着いて個人のレベルでできることをやっていくことも重要だ。(ABEMA/『アベマ倍速ニュース』より)

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