予想以上の苦戦だった。4月2日、国立代々木競技場第一体育館でのビッグマッチ『RISE ELDORADO』。那須川天心はメインイベントに登場し、風音と対戦している。これが天心のRISEラストマッチだった。
この試合を終えると6月19日の武尊戦、さらにボクシング転向が待つ天心。デビューしたRISEでの最後の試合で対戦した風音は同門であり、父でジムの会長である那須川弘幸氏は風音のセコンドにつくことになった。天心曰く「親子喧嘩」だ。
昨年の53kgトーナメントでノーマークの状態から優勝、天心との対戦に名乗りをあげた風音。伸び盛りの選手だが、天心との実力差は大きいように思われた。
ところが、試合は一進一退というしかない展開に。風音の攻撃もよくヒットしていた。3ラウンドを終えて判定は2-0。天心の勝利だったが、ジャッジの1人がドローと採点する接戦だった。
試合後の風音によると、那須川会長から教わった天心対策、天心の動きは「そのまんま」だったそうだ。試合後は「ちくしょう!」と涙。インタビュースペースでも「悔しいしかないです」と声を震わせた。まったく敵わなかったのではなく、手応えがあったからこその悔しさだろう。
一方、天心は「なんだろう、うまくいかないな」。やはりいつもとは勝手が違ったようだ。
カウンターの巧さで知られる天心だが、この試合では前に出る闘いぶりが印象的だった。相手が同門ということもあり、「圧倒的に勝ちたかった」という。そのために力みも出たようだ。
「初めてムキになって試合をしましたね。気持ちでやりました。風音は前に出る選手。僕もそれに応えてじゃないですけど。それで噛み合わなかった」
試合後半は天心の攻撃が的確にヒット。判定をものにしたが、そんな勝ち方にも納得のいかないものがあると天心。
いつもは自分の隣にいる父が、今回は相手のコーナーにいる。その声は自分を敵として相手を鼓舞している。いつもとは感覚がまったく違った。天心のセコンドには朝倉未来もついており、試合後に「力んでたね」と言われたそうだ。
大会前日には、武尊との“世紀の一戦”の日付が正式に決定した。6月19日、会場は東京ドームだ。
「もう一つの、6月の試合。今のままでは、こんな試合をしているようでは勝てないと思ってます」
それほどの危機感があったのだ。とはいえ、天心は並の選手ではない。再び父の力を得て、課題を踏まえて軌道修正した天心は間違いなく今回より強くなっている。RISEの伊藤隆代表も「いい勉強になったはず。この試合をやってよかった」とコメントしている。
いよいよ次でキックボクシングは最後。そしてキャリア最大の大勝負。「メチャクチャやりずらかった」という風音戦、“親子喧嘩”を乗り越えて、天心はこう言った。
「6月は自分の好きなようにやるしかない」
文/橋本宗洋