止まらない円安。3月初旬まで1ドル=115円前後で推移していたが、3月下旬には125円をつけ、4月20日には一時129円台半ばまで円安が進んだ。これは2002年5月以来、約20年ぶりの水準となる。
なぜ、ここまで急速な円安が進んでいるのか。また、その影響などについて、テレビ朝日経済部の辻英太郎記者が解説する。
Q.そもそも円安ってどういうこと?
例えば、アメリカで1本1ドルするコーラを日本で買う場合、1ドル=100円の時はそれを100円で買うことができる。しかし、円安が進んで1ドル=120円になると、1本買うのに120円、20円を余計に払わなければいけなくなる。つまり、「ドルに対して円の価値が下がっている」ので、これを円安という。
Q.円安が進んでいる理由は?
大きな理由が2つある。1つは、「ウクライナ情勢」。危機対応といったことに対して、どうしてもドルのほうが信頼できるということでドルが買われている。
もう1つが、日本とアメリカの「金利差」。日本は金利を0%程度にするゼロ金利政策を続けていて、銀行口座に預金してもほぼ利息がつかない。アメリカもこれまではゼロ金利政策をとっていたが、今後1年間で7回、1回当たり0.25~0.50%の幅で利上げすると発表した。現時点ではそれほど上がっていないので、金利のつかない日本の預金をドルに替える、日本の国債を売ってアメリカの国債を買う、ということを今のうちにしておけば、今後の利上げの恩恵を受けることができる。そのため、円が売られ、ドルが買われている。
Q.家計への影響は?
いろいろな輸入品の値段が上がっていることに加えての円安なので、影響は大きいと言える。石油・天然ガスなどの資源は、ほとんどをアメリカや中東、ロシアなどの海外から輸入しているが、それらを使って電気を作ったり、製品を作ったりしているので、結果的に商品の値段が上がる。また、パンやパスタになる小麦や家畜の飼料になる穀物も、海外から輸入すると円安の分だけ金額が上がることになる。
Q.企業の対応は?
100円ショップのダイソーは、仕入先を海外から国内に変更したり、輸入用コンテナの隙間を減らして運ぶ回数を減らしたり、輸送ルートを変更するなど、地道な取り組みをしているという。
イオンは、さまざまな工場と契約していろいろな菓子を作っている。それまでは、1つの工場でいくつもの商品を作っていたのを、例えば売れ筋のチョコレートバーだけに特化してほしいとお願いするなどして、コストを下げて消費者に提供している。さらに、ペットボトルの水は、箱で売る場合はラベルレスにすることで、ここでもコストカットをはかっている。
Q.円安進行に対する日銀の対応は?
為替についてはまったく何もしていないと言っていいと思う。なぜかというと、日銀は物価の安定をチェックする、“物価の番人”だということが法律で決まっている。為替については、政府と財務省で対応すべきだというということだ。
連日の「指値オペ」も金利を抑えるためのもの。指値オペとは、日銀が利回りを指定して、国債を無期限に買い入れる措置。アメリカの長期金利が上がっていくことで、各国や日本の金利も上がっていくような状況になっている。一方で、日銀は金利を0%に抑えて市場にお金を回したいということで、「0.25%」を上限として、0.25%に近づいてきたら国債を買うことを発表した。20日から26日までの5営業日、それを続ける。
Q.日銀はなぜそこまで金利を上げないことにこだわっている?
海外では、コロナ禍から経済回復が進む中で、品物に対する需要に供給が追いつかないためにインフレになっているが、日本はそうなっていない。アメリカやヨーロッパはコロナ前よりも経済が回復している一方で、日本はコロナ前を100%とするとまだ90%台。日銀としては経済を活性化したいということで、市場にお金を共有したい=金利を抑えたい、という状況だ。これを2013年からずっと続けている。
日銀が言うには、金利を上げてしまえば、景気回復が腰折れすると。賃金が上がらなくなるどころか、失業者が増えたりする可能性もあるとしている。
Q.日銀はこのままでいいと思っている? 政策変更はしない?
日銀の黒田総裁は「日銀としては、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けることで、感染症からの回復途上にある経済活動をしっかりと支え、2%の物価安定の目標の持続的、安定的な実現を目指していく」と述べている。この「粘り強く続ける」「経済活動をしっかりと支える」というのは繰り返し言っている。黒田総裁の任期は1年足らずだが、その間は変わらないという意見がいろいろなアナリストから聞かれる。