かつて「東の天才」と呼ばれた若武者が、超早指し戦で覚醒中だ。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Aリーグ第2試合、チーム永瀬とチーム三浦の対戦が4月23日に放送され、チーム永瀬の増田康宏六段(24)が2戦2勝と活躍した。これで予選は5局指して全て勝利のパーフェクト。リーダー永瀬拓矢王座(29)も手放しで褒めるほどの強さで、今大会の主役候補に躍り出た。
指せば勝つ。そう思わせるほどの強さだ。10代のころは「東の増田、西の藤井」というように、藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)とともに、東西の天才棋士として並び称されたこともある増田六段だが、公式戦以上にこのフィッシャールールという超早指しの中で、豊富な経験をもとにその強さに磨きをかけていた。
チーム三浦との一戦で、初の出番は第3局だった。相手は昨年度の新人王にも輝き、このABEMAトーナメントでは前年、チーム藤井のメンバーとして優勝も果たした伊藤匠五段(19)だ。フィッシャールールでの強さは多くの棋士が認めるところで、今大会の注目棋士の一人にも名が挙がるほどだったが、増田六段はこれを一蹴した。増田六段の先手番から両者、雁木に構える出だしになると、伊藤五段の研究手順に対して「はまってしまったかなと怖かった」と序中盤は警戒したが、初見の形に少ない持ち時間の中で対応。難所を抜けてからは「途中から一方的になってわかりやすかった」とはっきり優勢を自覚すると、伊藤五段に「手も足も出なかった」と脱帽させる内容で、73手で勝利した。
次の対局は第5局、相手は池永天志五段(29)だ。こちらも昨年、チーム木村の一員として準優勝を経験している実力者。対局は奨励会員時代までさかのぼるほど久々だったが、先手番から角換わりの出だしになると、序盤からどんどんと仕掛けて主導権を握った。中盤、切れ味鋭い攻めには、見守っていた永瀬王座からも「なるほど、うまいな。まっすー」「へー、いい手だ、なるほど」と称えるコメントが続々漏れるほど。中盤まではかなり難しい将棋ではあったが、しっかりと持ち時間をキープして終盤に備えるタイムマネジメントも心得たものだ。最終盤でも「経験を踏まえて準備したのが功を奏した」と自画自賛する締め括りで119手で勝利した。
予選2試合でチーム羽生にはスコア5-3、チーム三浦にはスコア5-2で勝ち、チーム永瀬は予選1位通過を決めた。2試合で10勝を挙げた中で、増田六段は半分の5勝を持ち帰った。試合後「今日は結構手が見えていた」とシンプルに感想を述べたが、永瀬王座は「予選で10勝のうち、増田さんが半分勝っている恐ろしい状況です」と絶賛した。リーダーから3大会連続でドラフト指名され、まさにエースとして期待されている。「本戦で勝たないと意味がないので」。第3回大会では優勝も経験している増田六段。もう先の戦いしか見えていなかった。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)