あと一歩、前に出ていたら。あと数発、攻撃を出せていたら。そんな負け方ほど悔しいものだ。LDH martial artsの契約選手、宇佐美正パトリックのプロ4戦目がまさにそうだった。
LDHによる格闘技ビッグイベント『POUND STORM』(4月24日、両国国技館)。第1回選手オーディション合格者で、ここまでプロ3連勝の宇佐美はセミファイナルに登場した。対戦したのは修斗の元環太平洋チャンピオンで、世界ランキング1位の大尊伸光。格上相手のチャレンジとなる試合だ。
宇佐美は21歳、ボクシングで東京オリンピック選考会3位、高校6冠という結果を残している。五輪の夢は叶わなかったが、父親にチャンピオンベルトを巻かせてあげたいとMMAに挑戦した。持ち味はもちろん打撃。大尊もストライカーだけに、打ち合いが期待されていた。
だが、経験豊富な大尊は飛び込んでのタックルでテイクダウン。グラウンドで主導権を握る。下から体勢を返す場面もあった宇佐美だが、2ラウンドもテイクダウンを許してしまい波に乗り切れない。
逆転を期した最終3ラウンドは宇佐美が攻勢。左フックを何度も当てることに成功した。だが大尊を倒すほどには手が出ない。疲れ、ダメージもあるからか、見合う展開も多くなった。大尊は隙あらばタックルを狙ってくる。組み技を混ぜられると、思い切った打撃勝負もしにくくなるのだ。
判定は3-0。ジャッジ3者とも1ポイント差だったが、3ラウンド制MMAではこの1ポイントにこそ差が出る。
「自分の実力不足です。テイクダウンの反応が遅れてしまった。最後、いこうにもいききれなかったです。(大尊は)しんどいところでもしっかりパンチを振ってきたしテイク(ダウン)も狙ってきた。それを気にしすぎてしまって」
またやり直すしかない、と宇佐美は語った。ただ大尊にとっても、この試合は予想以上に苦しかったようだ。
「ケンカだったら負けてますよね。チキってタックルいったんで。大人になったということで見逃してください」
試合後のマイクでそう言うと、インタビュースペースでは宇佐美を称えた。
「予想以上に寝技の対応ができてましたね。もっと簡単に終わるかと思ってました。ポテンシャル? やばいです(笑)。今まで食らったパンチの中でも重くて速い。あれでタックルができたら恐ろしい選手になりますよ」
ポテンシャルを活かすために必要なのは、やはり経験だろう。試合の流れ、その瞬間に応じて最善の選択ができるかどうか。「やりにくさ」をどう克服するか。攻めたいのに攻められないもどかしい終盤、大尊が「大人」だったのに対して宇佐美は若かった。しかも大尊は、一昨年に母親を亡くしてから勝ち星がなかった。「とりあえず勝つところを見せられてホッとしました」と試合後の大尊。彼もまた必死に勝ち星を掴み取ったのだ。
言い方を変えれば、宇佐美はこの悔しい負けで大きな経験を得たことにもなる。キャリア4戦で日本トップクラスを慌てさせるところまではきた。今回の負けを意味あるものにできるかどうかは、次戦にかかっている。
文/橋本宗洋