4月29日、LDHによる格闘技イベント『POUND STORM』が両国国技館で開催された。LDHアーティストのライブも行なわれるコラボイベント。そんな派手さとともに注目されたのがマッチメイクの厳しさだ。メインイベント、LDH格闘技のエースである中村倫也が対戦したのはブラジルのアリアンドロ・カエタノ。キャリア23勝6敗1分、UFCとの契約間近とも言われる強豪だ。
中村は父が修斗ジムのオーナーで、幼少期から総合格闘技の試合を見てきた。レスリングでオリンピックを目指し、U23世界選手権で優勝するも、常に考えていたのはMMAで活躍することだ。
LDH martial artsの契約選手となり、修斗でプロデビューすると圧倒的な力を見せて2連勝。そしてプロ3戦目にして、超がつくほど格上の外国人と対戦することになった。中村が狙っているのはUFCの頂点。実績を作るためには、このレベルの相手に勝たなくてはいけない。
試練と言うしかない一戦。お互いカーフキックで削り合う、我慢比べの展開でもあった。パンチが交錯すると、カエタノの左フックで中村が出血。右眉の横からだった。ブラジリアンのパンチは軌道やリズムが変則的だと言われる。
これで中村は、ドクターストップの不安も抱えながらの闘いになった。ただ、その状況からどう勝ちにいくかを考えられるのも中村の力だ。血を流しながらタックルでテイクダウン。2ラウンド、3ラウンドもグラウンドでしっかり抑えた。カエタノの関節技も冷静に対処。LDH martial artsの取締役でコーチでもある岡見勇信は、タックルの前に打撃の攻防でしっかり「作って」いたからこそテイクダウンできたと分析している。
判定は3-0。キャリアを考えればビッグ・アップセットだ。「もっとやりたい展開があったけど、出血して勝ちにいく展開になりました」と中村。とはいえ、それを確実に遂行できる選手もそうはいない。
「カット(出血)がなければ違う打撃をもらってたかもしれない。このカットが勝利を引き寄せたんだと思います」
インタビュースペースでの中村は冷静に試合を振り返った。中村が出血したことで、カエタノも“傷口狙い”になったと感じたそうだ。だからこそ別の打撃をもらわなかった。試合直後でこの分析力は恐ろしいほどだ。ただ試合をしてみて、疑問に感じる点もあったという。
「正直、今回は“世界”を感じるということがまったくなかったです。“え、こんなもんでコントロールできるの?”、“このスピードなの?”と。映像で見ていたより遅かった。格闘技はやればやるほど分からなくなります」
世界のレベルはこんなもんじゃないだろう。そういう思いが中村にはある。だがもしかすると、海外の強豪と渡り合える力をすでに身につけているということなのかもしれない。むしろ底知れないのは中村の実力、そんな可能性もある。
初開催となる『POUND STORM』のメインで勝ち、こらからは次のステップに向かいたいと中村。国内の闘いから世界進出。頂点を狙う思いを、彼はこう語った。
「日本のMMAの歴史を背負う気でいるので。格闘の神様が僕を望むところに連れていってくれると思います」
日本MMAの申し子、あるいは格闘の神に愛された男。厳しい試合だったからこそ、その底力と非凡さを再確認できた。
文/橋本宗洋