食品・日用品、さらに電気・ガスなど、急激な“値上げ”の流れが続く中、岸田総理は26日、エネルギー分野、中小企業、子育て世帯などに対する6兆2000億円規模の経済支援策を発表した。その柱の一つが低所得の子育て世帯への、子ども1人当たり5万円の給付などの生活支援だ。
【映像】経済対策6.2兆円...物価↑=悪?景気復活に必要な意識改革は?
28日の『ABEMA Prime』に出演した第一生命経済研究所の首席エコノミスト・熊野英生氏は「やはり全体を動かすための“種まき”、起点が必要だ。日本のGDPの規模を考えれば、6兆円でも少ない。もっと多くの人を巻き込むためには、賃上げがポイントだ」と話す。
「7月に参院選挙があるので、岸田政権にとっては時間がない。しかし今までにも減税や給付をしたことのある対象にお金を回すというのでは、これまでと同じだ。それでは見栄えがしないということで、6.2兆円という金額ばかりが前面に出ている気がする。
減税は今までもやってきたが、ほとんどが貯蓄に回ってしまっている。逆説的だが、貯蓄を増やさないようにするためには、貯蓄を増やす しかない。つまり所得、特に時給が上がると残高が増えるので実感ができるようになるし、お金を使おうという気持ちにもなる。低所得層への支援はもちろん必要だが、民間企業が賃上げし、より多くの働く人に回るようにする必要がある。
また、専門家は円安になるとお金が回るという意見もあるが、それだけではダメだと思う。岸田さんは安倍さんと違って“新しい資本主義”を打ち出し、企業が稼いだ利益を分配しようと言っているわけなので、そこを前に進めれば支持率も高まるのではないか」。
とはいえ、安倍総理が「2%の物価安定目標に向かってデフレ脱却。そして力強い成長をなしていく」と述べるなど、政府与党は物価上昇を目標とする“アベノミクス”を進め、その柱となる金融緩和策を日銀も継続してきた。しかし、外国為替市場では一時1ドル=131円と、20年ぶりの円安水準を記録、物価の上昇に拍車がかかる中、日銀の黒田総裁は急速な円安に懸念を示しつつも、金融緩和策の続行を表明している。
元日銀マンでもある熊野氏は「日銀の黒田総裁が28日の会見で、ますます円安が進むような政策を取るぞ、というようなことを言っていたのでびっくりした。政府が物価対策をしようとしているのに、日銀のトップの人が円安を促すような発言をしたことで、1ドル=128円だったのが130円近くになり、午後には131円を付けた。何か政府と日銀の歩調が合っていないように思える」と苦笑。
「安倍さんが就任当初、“今はデフレなので、日銀に物価が2~3%上がるようお願いする”と言っているのを聞いて、私は“ちょっと大きすぎるんじゃないか”と感じていた。というのも、私が社会人になった1990年代始めも、経済の調子が非常に悪くなっているのに、物価上昇率が2〜3%あった。しかもこれは平均値であって、電気代など、個別に見ると値段が2~3割も上がっているものもあった。
やはりみんなが上昇率についていけなくなるってしまうので、0.5~1%ぐらいがちょうどいいのではないかと思う。政治家は方針を柔軟に変えられるはずだし、日本銀行も1%にすればいいんじゃないかと思うが、なかなか偉い人はできないのだろう。実際、財務大臣も悪いインフレ、円安だと言っているし、日銀総裁も半分ぐらいは認めているはずだ。
もちろん、円安になると輸出企業は収益が増えるが、ベースアップ率が0.3%程度と、今のところ賃上げにはそこまで結びついていない。やはり“良い円安”になるためにも、時間はかかるが給料の上昇を目指すべきだ。経済の教科書には“給料も支出も両方上がるのが正常なメカニズムだ”と書いてあるが、日本はデフレなどを経験していることもあり、企業経営者が賃金を上げることに抵抗感を抱いている。しかし経済を回すためにも円安で儲かっている企業はどんどん給料を上げるべきだ」。
そこで熊野氏が提案するのが、「賃上げ促進増税」の導入だ。
「菅さんが最低賃金の引き上げを行ったが、お風呂の底の方だけが温かくなっているような感じで、全体的には上がっていない。やはり春闘を年に何度かやるといった、賃上げのためのメカニズムが必要だろう。その意味では、岸田さんは割に良いことを言っている。特に中小企業が給料を上げた場合、その4割を法人税減税で戻すというものだ。
ただ、よく見るとちょっと“意地悪”な仕組みになっている。企業が赤字の場合は法人税を払わない=減税がされない一方、物価上昇=仕入れコスト上昇で赤字になりやすい。つまり、減税の“アメ”があったとしても、使ったら損するだけではないかと。それなら赤字の会社の減税分、その会社が黒字になったときにキャッシュバックする、宝くじのキャリーオーバーのような工夫を取り入れる必要があるのではないか」。(『ABEMA Prime』より)
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