4月30日のABEMA『NewsBAR橋下』にゲスト出演した竹中平蔵氏が、急速に進む円安の問題について橋下氏と議論した。
「円が安いか高いか、なぜ上がったか下がったかというのは、実は経済理論でも簡単には説明できない問題だ。ただ、みなさん円が安くなっていると感じているのは、ある意味では正しいことだ思う」と話す竹中氏。
「円が適切な水準にあるのかどうかについて、分かりやすいのは物価だ。日本とアメリカで同じ物を買う場合どうなるかと比較ができる。これを購買力平価という。国際通貨研究所が出している測り方だと、物価が同じくらいになるのは1ドル=90〜110円くらいの間とされていて、これを過ぎると“悪い円安”だと考えていいと思う。
もっと言えば、世界中にあるので比較しやすいのがビッグマックだ。いまアメリカでビッグマックを買おうと思ったら、日本の2倍くらい出さないといけない状態になっている。日本の物が安く評価されているということは、私たちの労働が安く評価されているということだ。一般的には円が安くなれば輸出企業が有利になり、日本経済にとってはいいという側面もあるが、今は悪い面の方が目立ち始めている」。
橋下氏は「物価が上がっていたとしても、賃金も上がっていれば健全だ。よくロンドンではラーメン1杯が2000円くらいだというが、給料もそれなりに高いので、僕らが“ラーメン1杯2000円!?”と感じるような生活水準ではないということだろう」とコメント。
その上で「もちろん円安になれば輸出にプラスになるし、円高になれば輸入にプラスになるので、どちらが良い悪いではなく、バランスの話だ。ただアベノミクス以降、副次的に円安を導く金融緩和を経済政策の柱にしてきた政府は、基本的には円安は日本経済にとってプラスだという方向で来ていた。日銀の黒田総裁も、ついこの間までは“円安は悪ではない”と言っていたと思う。そこにごまかしを感じるというか、警鐘を鳴らすのが遅れたことを総括すべきではないか」と指摘した。
竹中氏も「それはあると思う」と応じ、「そもそも90年代には1ドル=70円台という超円高の時期があり、その反省からアベノミクスを始め、いいところまできた。ここは評価していいと思う。ところが海外で物価が上昇し始め、それを抑えるために海外の金利が上昇していった。ドルの金利が上昇すれば、当然のことながら世界中の人がドル資産を買う。そこで円が下落し、今の状況になっているということだ。
一方、財務大臣には為替介入を決定する権限があるが、為替というのはすごくナイーブで、声明だけで動いたりするもの。そういうことは“言わない”というのが一つの“マナー”になっている。そのくらいデリケートな問題なので、経済財政諮問会議でも、為替についての議論はオフレコにしようというルールになっているし、中央銀行というのは独立して金融政策が決められるようになっている。
加えて言えば、そうなっていない分かりやすい国が中国だ。中国の中央銀行は国務院の中、つまり政府の一部で、政治的に為替を操作している。日本や欧米が批判してきたことだが、これも米中対立の一つの象徴になっているということだ」と説明した。
さらにエネルギー資源の需要増、さらにロシアによるウクライナへの侵攻も相まって、天然ガスの国際価格が高騰、国内の電気料金にもしわ寄せがきている。
竹中氏は「電気代は今後も上がると考えておいた方がいいと思う」と話し、「政府も家計が困っているということで、ガソリン価格を抑える措置など、細かいことをやろうとしているが、前回のGDP発表時の内閣府の試算では、供給力に対して需要が不足していて、それが大体20兆円くらいと思ってもらえばいい。自民党と公明党が補正予算を急いで組むよう政府に要請しているが、額としては5兆円くらいと、マクロの議論がちゃんとなされていない。夏の参院選を考え、“家計のことをちゃんとケアしていますよ”と見せるために予備費も含めて計上しているが、本当だったら財政措置をもうちょっとやらなければいけない」とした。
橋下氏は「財政支出は必要だが、日本の経済力の根本を強くする議論がないまま、いつも“消費者が買う力が弱いから”とカンフル剤的に10兆円、20兆円と放出している。経済を強くすることを日本はやっていない」と苦言を呈していた。(『NewsBAR橋下』より)