里帰り出産や地方での子育てが困難な時代に? 産婦人科・小児科医のなり手不足に夏野剛氏「なぜ医学部を増やさないのか」

 石川県輪島市の市立病院で去年6月に起きた、生まれたばかりの赤ちゃんが不適切な処置で死亡した医療事故。坂口茂市長は6日の会見で遺族に対し謝罪、病院の責任を全面的に認め、約5800万円あまりの損害賠償を支払うことで和解したことを明らかにした。

【映像】医療ミスの背景に? 地方の産科医不足をどう考える?

里帰り出産や地方での子育てが困難な時代に? 産婦人科・小児科医のなり手不足に夏野剛氏「なぜ医学部を増やさないのか」

 事故の概要は次のようなものだ。妊娠35週の妊婦が出血などの異変を感じ産婦人科を受診、主治医は早産と診断した一方、緊急性は低いと判断し、休暇のため病院を離れた。ところが実際は早期胎盤剥離による危険な状態で、その後の判断の誤りもあり、生後しばらくして赤ちゃんは亡くなってしまった。

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 品川誠院長は「異常な分娩であるとの認識が薄れ、リスク管理が甘くなっていたと思う。甘い判断で離院を行ったことも標準的医療から逸脱している。帝王切開の実施や上位機関への転送により胎児を救う機会が何度もあった」とした一方、背景には担当医が“ワンオペ”状態になったことにも注目が集まっている。

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 実は同病院には2005年以降の17年間、産婦人科の常勤医が1人しかおらず、近隣自治体での産婦人科医の退職などが相次いでいたため、医師は合わせて4つの市と町の産婦人科医療を支えていたのだという。市では医師の処分を検討しているが、ネット上には日本の厳しい“医師不足”の実態を指摘する声もある。

■「若手の医師に入ってきてもらわないと成り立っていかない」

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 フリーランスの麻酔科医・筒井冨美氏は「後から考えれば、確かにちょっとまずいかな、という点がいくつかある。しかし、目の前にいる患者さんに対して現在進行系で正しい診断を下していくというのは決して簡単なことではない。この妊婦の方の場合、最初の受診は早朝6時ということなので、主治医はそれよりも前に叩き起こされ、病院まで車を運転して来たということだろう。“標準的医療”とは言うが、この主治医のように産婦人科医が地域に一人となると学会に出席してスキルアップを測ったり、他の医師に悩みを相談したりすることもできない過酷な状況だ。私は責める気にはなれない」と話す。

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 産科医の成り手不足の背景には、まさにこのような労働環境や、医療ミスのリスクを避けたいという医学生たちの思いもあるようだ。

 「2004年に福島県立大野病院の医師が逮捕された事件は日本中の産科医にとってショッキングな出来事だった。それまでであればお金で和解できる訴訟だったのが、刑事罰が加えられるかもしれない、という流れが出来てしまった。それによって産科医療には近寄らない方がいい、というのが医学生や若いお医者さんの間に浸透してしまい、この流れは今も覆っていない」(筒井医師)。

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 また、山形県鶴岡市にある鶴岡協立病院の産科医・関和彦医師も「おそらく、主治医には早朝の診療の後に普通の勤務が待っていたのだと思う。疲れた中での勤務が、どれだけ間違いを起こしやすいかということは私も身を持って知っている。また、背景には産婦人科医の高齢化問題も隠れている。私自身、もう歳なので、やはりお産が辛くなってきている。やはり若手の医師に入ってきてもらわないと成り立っていかない」とした。

■「医学部をどんどん増やせばいいのに、医師会が反対している」

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 リディラバ代表の安部敏樹氏は「こういうことが起きると、県外に出た人たちが地元に戻って出産しよう思わなくなってしまう。やはり産婦人科医もそうだし、小児科医も非常に人気がなく、儲かる美容外科などに流されていく流れがあるし、さらに地方でとなると、非常に難しい。しかし、出産・子育てが難しいというのは、地域の衰退のトリガーになってしまう問題だ」と指摘。

里帰り出産や地方での子育てが困難な時代に? 産婦人科・小児科医のなり手不足に夏野剛氏「なぜ医学部を増やさないのか」

 近畿大学情報学研究所の夏野剛所長は「ミクロのケースだけで議論するのではなく、マクロの数字を把握した上で議論をしなければならない。働き方の問題で言えば、何時であっても出てこいと言うのは、民間企業であればあり得ない話だ。だったら人数増やすしかない。しかし歯科医は増えすぎたと問題になるぐらいなのに、医学部は過去30年の間に成田に一つ新設されただけだ(国家戦略特区制度によるものについて)。高齢者のニーズもあるし、女子高校生の間で医学部志望者も増えているんだから、医学部をどんどん増やせばいい。それなのに医師会が反対している」と訴えた。

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 筒井氏は「結論としては、ある程度は割り切って、県庁所在地クラスの都市に産科病院と妊婦さんがタダ同然で滞在できる宿泊施設を設け、産後1カ月ぐらいはそこで完結するような方向性しかないと思う。医者を増やせばいいという意見もあるだろうが、どうしても地方には来たがらないので、都会に集中してしまうからだ。もちろん、そういう意識も変えていかなくてはいけないと思う。

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 それから、確かに女子高校生の医学部ブームが来ていることもある。入試の問題を受けて女子の受験生に対する減点が無くなった結果、2025年から女医が増えることになる。一方で、女医さんは出産や子育てで時短勤務が必要になり、当直が難しくなる。それに伴って、医師が確保できない病院が出てくる可能性がある。その意味でも、3年後に向けて体制のことを真剣に考えなければならない」。

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