戦いは常に非情だ。勝者は笑い、敗者は泣く。そして大敗した者には泣く力すら残らない。プロ麻雀リーグ「Mリーグ」2021-22シーズンのTEAM雷電は、まさにそんな状況だったかもしれない。開幕3連勝というこれ以上ないスタートを切ったはずが、終わってみれば▲1256.1という記録的大敗。リーダー萩原聖人(連盟)の言葉を借りれば「天国から地獄みたいなシーズン」だった。例年、他のチームに先行されても食らいついていたタレント集団が、なぜ今年はずるずると離されてしまったのか。
Mリーグの解説を務める土田浩翔(最高位戦)は、TEAM雷電の開幕ダッシュと、その後の転落をこう表現した。「パンパンパンとみんなトップで、今年はいけるかなと。これがよくなかった。最初は2人ぐらいよくて、2人ぐらいダメというところから始めた方がよかった。行けると思ったところで行けなくなるのが、プロの世界の怖さ。今思えば、残酷なスタートだったと思いますね」。もちろん選手誰しもが、わざと調子を上げたり下げたりできるはずもなく、揃って好調の方がよく思える。ただ、あまりにうまく行き過ぎたことが、選手たちの足元をふわふわとさせた。
選手それぞれ、好調時にも浮つかないようにと心掛けていた。ただ黒沢咲(連盟)は、素直に当時の心境を吐露した。「恥ずかしいけど、ノリノリでしたね。今までそんなスタートはなかったので。今年は行けるぞ、絶対やるぞとすごくテンションが上がっていました」と苦笑いした。優勝争いはおろか、過去3年でファイナルシリーズまで進んだことがないチームにとって、開幕直後からリーグの首位に立つ未経験の事態は、ひたむきに卓に向かう姿勢を少しずつ崩していった。
いくらバランスを崩したところで、運の要素もある麻雀であれば、いつかは結果が自然と舞い込む。ベストの選択ができなくても勝てることがあるから麻雀だ。ところが今年のTEAM雷電には、流れを変えるラッキーは舞い込まなかった。むしろどんどんと運が逃げていき、さらに追い込まれた感さえある。Mリーグに初めて参加した本田朋広(連盟)も、この状況は完全に想定外だった。「ちょっとMリーグを舐めていました。麻雀なんで内容が悪くても勝てる時もあると思っているんですけど、内容が悪い時に悪い結果のままで終わっちゃいました」と、厳しさを痛感した。今期は好調・不調に対して「風」という表現が多く使われたMリーグであるが、TEAM雷電においては開幕直後とレギュラーシーズン最終盤で連勝した以外、ずっと逆風が吹き続けていた。ベテラン瀬戸熊直樹(連盟)も「チームが▲400を超えたあたりから全員が『おれが』『私が』になっていて、僕自身が一番そうなっていた。チーム自体の仲はいいけど、自分でなんとかしようという気持ちが強くなって、バトンを繋ぐ意識が薄れていました」と反省した。
4ケタを超えるマイナスを叩きながら、チームは来期も同じメンバーで戦う選択をした。「魅せる麻雀」を掲げるが、来期ほど結果を求められることはないだろう。ルール上、ファイナルに残らなければ、この4人組は編成を変えなければいけない。仲良し集団も、強さを身に着けなければ、形は保てない。萩原は、まだ目に力を宿している。「プロになったことで、僕の夢が実現したわけじゃない。プロになって麻雀で何か表現しきれたら、一つ夢が叶ったと思うところがある。まだ自分と麻雀ができる夢に向かって抗うことは続けたいです」。Mリーグで成し遂げるべき夢は、チームのファンとともにファイナルの舞台にたどり着き、優勝シャーレをかけた熱い戦いを繰り広げること。その時、ようやく萩原の求める何かが表現できる。
※連盟=日本プロ麻雀連盟、最高位戦=最高位戦日本プロ麻雀協会、協会=日本プロ麻雀協会
◆Mリーグ 2018年に発足。2019-20シーズンから全8チームに。各チーム3人ないし4人、男女混成で構成され、レギュラーシーズンは各チーム90試合。上位6チームがセミファイナルシリーズ(各16試合)、さらに上位4位がファイナルシリーズ(12試合)に進出し、優勝を争う。
(ABEMA/麻雀チャンネルより)