新型コロナで封鎖が続いた中国の上海市は先ほど、2カ月以上続いた「ロックダウン」を6月1日午前0時に解除すると発表した。
1日午前0時以降、感染者が出ていない住宅の封鎖を続けてはならないとしており、上海の人口の9割以上にあたる市民に外出を許可するほか、地下鉄やバスなどの運行も再開させるという。一方、一部のオフィスビルなどでは出勤者を3割から5割に抑えるよう通知が出されていて、自主的な行動制限は当面、続く予定だ。
この60日間は市民にどのような影響を与えたのか。その渦中にいたANN上海支局の高橋大作支局長が伝える。(以下、高橋支局長)
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私は(ロックダウン後)初めて外に出られたのが26日で、2時間。その後は29日で、この時も2時間出ることができました。週2回だけ、1回に2時間程度という制限付きで、外出するにはチケットも必要。そのチケットを門番のような人に見せて、2時間以内に帰ってくるよう時刻も書かれていました。
上海はいつもきれいな街なんですが、ゴミがたくさん置いてあったり、防護服の人の姿が目立ったり。あるいは、市もいろいろな行政区がある中で、バリケードが置かれていて、大幅な移動制限が行われている状況でした。
正直なところ、6月1日が転換点になるんじゃないかというのは、3日前ぐらいから言われていました。ただ、今までも「5月ゴールデンウィーク明けには終わるんじゃないか」ということが何回もあって、過度に希望を持つとまたがっくりしてしまうという思いが強く、今回正式に発表されても「もしかしたら…」というところもあります。非常に嬉しい一方で、抑えているのが正直なところです。上海の方は複雑な気持ちでみていると思います。
私はSNSで「#上海のいま」というハッシュタグを使って情報を集めていました。すると、前回50日目の放送を見た後に、上海市内の病院に勤める郡司周太郎先生(東和クリニック)が「高橋さんの体調が心配です」というダイレクトメッセージをくれました。私自身はそんなに問題ないと思っていたんですが、「肩周りの筋肉がかなり落ちている感じがしました」と。
ロックダウンが3月28日に始まって、3週間ぐらいで体重が4キロ近く落ちました。お肉があまり手にはらなかったのと、食欲や睡眠が取れていないことによるもので、今は2キロぐらい戻りましたが少し痩せました。
26日に2時間の外出が許されて買い物に行ったんですが、両手とリュックサックいっぱいにして帰ってきたら、その後部屋で15分ぐらい座ったまま動けないような、もうヘトヘトな状態でした。隔離期間中、中庭を歩いたりするよう努めていたんですが、「しんどいな」と。
そうしたところ、郡司先生から「筋力が落ちている」という指摘をいただきました。60日も隔離されると人はどうなるか、郡司先生によると、やはり大幅な体力低下がありますと。散歩なんかはしていても、太ももや背中、腰といった大きな筋肉は衰えてくるそうです。
また、ずっと同じ姿勢でいると、弊害があるということです。隔離期間中はずっとスマートフォンを見ていないと食料を買えない状況だったんですが、目線を落としてスマホを見ていると首にものすごい負担がかかるそうです。郡司先生が言うには、日本の一般の方にも使えるテクニックとして、スマホを持っていない片方の手をこぶしにして、反対側の脇の下に置く。そうすると、腕の位置が上がって目線も上がるのですが、これを続けることで10年後、20年後に変わってくるそうです。
「猫背という感じの歩き方をしていたので、筋力が低下しているんじゃないかとちょっと心配して、(高橋さんに)連絡を差し上げたんですけど。全身の筋力が落ちると、体力がガクッと落ちます。関節を支える筋肉が萎縮すると、腰痛・ひさ・首・肩の痛みが出やすいですね」(郡司医師)
そして、もう1つがストレス。これが馬鹿にできないということを聞きました。実は上海市内で日本人向けに無料でオンラインカウンセリングを行ってくれている、臨床心理士の小野辺美智子さんという方がいます。この方をご紹介いただいて取材をしました。
今まさに隔離が終わろうとしていて、通常の生活が戻ってくるという段階なのですが、小野辺先生は「今こそ危ない」とおっしゃるんです。「自分は大丈夫」というのが危ないそうで、私自身も大丈夫だと思っていたんですが、それこそ、食欲がなくなったり睡眠に支障が出たりしている時点で、大丈夫ではないと考えたほうがいいそうです。
また、「心のメンテナンスを」ということも仰っています。日本人は特に自分でカウンセリングに行くのが苦手というか、少しハードルが高いという方が多いんだそうです。車は定期的にメンテナンスが必要ですが、そういうつもりで来てくださいと。私と同じようにこちらに駐在している商社やメーカーの日本人の方に聞くと、カウンセリングに行くことを会社に言うと、「メンタルが弱い人」という烙印を押されてしまい、これからの出世・キャリアに響くんじゃないかという意識が、日本人の傾向としてあるそうです。
また今回のロックダウンによって、日本の本社から駐在員に対してどんな支援があったかというアンケート結果の速報値が出ました。一番多かったのは「特に何もない」で、なんと71%。小野辺先生が話していた「メンタルサポートの提供」はわずか4%に留まっています。この結果について上海の駐在員から様々な声が寄せられました。中には「本社に支援を求めたところ、他の日系企業が行っている支援事例を挙げるように言われた。ほとんどなかったため、『なら(支援は)やらない』と言われてしまった」という人も。
小野辺先生は「カウンセリングは企業の責任である」と話しています。自発的に受けに行く人は少ないので、企業側が健康診断のように毎年、特に駐在している人に受けさせることが必要だと仰っていました。メンタルサポートは、日本で働いている時もそうですが、ロックダウンされている上海に駐在員がいる企業は、ぜひ検討をしていただけたらなと思います。
何よりも、「つながり」が非常に大事です。日本にいるとどれだけつらいかがなかなか伝わらないし、6月1日で解除と聞くと「よかったね」と思うと思います。確かに解除はいいことなんですが、3月のロックダウンが始まる前に戻すのは相当大変なんです。体力面と心の面で、いつもの仕事に戻るには大変だと感じています。(ABEMA/『アベマ倍速ニュース』より)









