勝負の世界はポジティブ思考な人々の集まりだと思われるが、ネガティブ思考も突き抜ければ、また力になるようだ。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Cリーグ第3試合、チーム豊島とチーム山崎の対戦が6月11日に放送された。チーム山崎のリーダーは、順位戦A級の経験もあり、早指し棋戦での優勝も豊富な山崎隆之八段(41)。独創的な戦い方が特徴的な棋士だが、盤を離れたところでのコメントは、まさにネガティブそのもの。自虐的とも表現できる言葉の数々は、ファンの笑いを誘うところまで到達しているが、チームメイトと戦う団体戦の勝負どころでも、この性格は全くブレなし。相手のリーダー豊島将之九段(32)とのリーダー対決という見せ場を前にして「ここで負けるのが山崎隆之」という珍言が飛び出し、ファンの爆笑を誘うことになった。
相手には絶対に負けたくないという、負けず嫌いの集合体とでも表現できそうなプロの将棋界。大活躍中の藤井聡太竜王(王位、叡王、王将、棋聖、19)も少年時代から負ければ大泣きするほどの負けず嫌いだったというエピソードは、将棋ファンの多くが知るところだ。もちろん山崎八段にも勝ちたいという思いは強くあるだろうが、真正面からぶつかるよりも、相手の力を出させずに勝つような変幻自在な指し回しも、この性格が由来しているのかもしれない。
この団体戦の第5局は、スコア2-2のタイで迎えた。勝った方が試合の流れを掴むという重要局。ここで出番が回ってきた山崎八段だが、戦前のコメントの一部がこんな様子だ。「正直、私もここで出ないとリーダーじゃない気もするんですが、41年生きていて、ここで負けるのが山崎隆之。41年付き合ってきて、絶対に負けるんですよ」。勝利を期待するチームメイトの目の前で「絶対に負ける」と言えてしまい、それが許される雰囲気になるのが、山崎八段の人柄のよさでもある。また、チーム名も松尾歩八段(42)が後厄、阿久津主税八段(39)が前厄、山崎八段本人が本厄だという理由から「チーム厄年」にしようとした(最終的には「厄払い」で決定)こともあり、仲間たちもこのぐらいのコメントは許容範囲だっただろう。それでも、さすがに視聴者からはこの言葉に続々と笑いが巻き起こり「的確な自己分析」「自分で言っちゃダメw」「どこまでも後ろ向きw」「負けるの知ってるは草」といった声が寄せられていた。
なお、この第5局は山崎八段の“宣言通り”に207手の大熱戦にはなりつつも、山崎八段が敗戦。ところが第8局にも再戦すると、対局前に「適当にやってください」と声を掛けられたことで気軽になったのか「真面目にやると弱くなるのはなんとかしたい」という迷言を残しつつ、119手で快勝していた。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)