「定義がはっきりしない中、政治的な思惑が入ることもあったのは事実」“官民ファンド”クールジャパン機構への批判に元社外取締役の夏野剛氏
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 「クールジャパン機構」。正式名称は「株式会社海外需要開拓支援機構」で、公式サイトによれば「日本の魅力ある商品・サービスの海外需要開拓に関連する支援・促進を目指し、2013年11月、法律に基づき官民ファンド」と説明されている特殊会社だ。

【映像】クールジャパン機構、309億円赤字で総廃合も検討 夏野剛氏が熱弁

 これまで日本特有のカルチャーに対して投資をすることで経済成長の一翼を担うべく活動してきたが、今年3月末までに累積309億円の赤字となっていることから、財務省の財政制度等審議会の分科会は20日、組織のあり方を含む抜本的な見直しを検討する可能性を示唆した。

■「クールかどうかというのは政治ではなく現場で決まることだ」

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 22日の『ABEMA Prime』に出演した早稲田大学公共政策研究所の渡瀬裕哉・招聘研究員は「そもそも“呼び水となるリスクマネーの供給”ということを掲げている時点でダメだったんじゃないか」と批判する。

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 「難しく書いてあるので“それっぽく”見えるが、要は“失われてもいいお金をばら撒くので一緒にやりませんか”と民間企業に呼びかけたということだ。しかし、これを目的にしてしまうのは論外だ。また、収支が赤字であるということが問題になっているのは、これがお金の尺度だけで見られている、つまり財務省的な視点だからだ。

 例えば著作権料に関して言えば、韓国は2020年に黒字化を達成したが、日本の国際収支はマイナスだ。これを黒字化するだとか、あるいは海外で日本文化にいそしむ人をこのくらい増やすだとか、ファンドの収益以外の目標がないという根本的な問題なんじゃないか。“政治的意義”というのは、そういうところについて数値目標を掲げるものだと思う」。

 さらに渡瀬氏は「クールかどうかというのは政治ではなく現場で決まることだ」と訴えた。

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 「そもそも政府が上場や上場益を狙うようなことをやる必要はないし、投資環境を見ても他にベンチャーキャピタルがたくさん出てきている。政府がやろうとするとタイミングを外すことも多いし、ダメだった時にやめられないという問題点もある。この事業はもうダメだ”という判断を政府ができるだろうか。負けを認められない。こういう“失敗の象徴”がまさにクールジャパン機構であり、我々は政府に余計なことをやらせちゃいけないと学ばなきゃいけない。。

 何が流行るか・流行らないか、ウケるか・ウケないかは、実際に文化の担い手となっている現場の人たちの方が分かるはずなので、そこに対して支援をしていくことが重要だと思っている。あるいは表現規制の問題などについて少しでも自由度を高めてあげて、好きなことができる環境を整えることが大切だと思う」。

■「世界展開が可能になり、上場して儲かった案件もある」

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 こうした指摘に対し、2017年から2年にわたって「クールジャパン機構」の社外取締役を務め、現在は内閣府「クールジャパン官民連携プラットフォーム」の共同会長を務める夏野剛氏は「まず機構が設立された頃の時代背景や中身を考えてみるべきだと思う」と話す。

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 「“クールジャパン”が言われ出したのは2000年代後半だが、すでに韓国政府は規制などを変更し、ものすごい勢いでコンテンツ輸出の支援を始めていた。例えば2005年頃にはサムスンの商品を扱ったドラマの輸出を推進していたし、コンテンツ振興院という組織を作ったり、国際会議で議長に就任すると国から補助金を出したりして、文化を含むあらゆる産業で振興策を始めていた。ただ、韓国の政策が変われたのは、1997年の財政破綻危機によって改革をせざるを得なかったからだ。

 また、2008年以降はリーマンショックがあったのでスタートアップやコンテンツなど、新たに海外に出ていくというところにお金が回ってない状況があった。そこで“日本でも同じようなことをやらなきゃいけないんじゃないか”という議論が出てきて、民主党政権下でクールジャパンが国家戦略になったということだ。

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 そして機構が設立されたのは自民党政権に交代してからの2013年だが、当時は安倍政権の低金利政策によってお金が回るようになっていたので、ベンチャーキャピタルも山ほど出てきていた。また、ファンドというのは儲けを出さなければならない以上“ポートフォリオ戦略”を取ろうとするわけだが、財務省から来た人たちは堅い見積もりをしようとする一方、経産省的から来た人たちは“クールジャパン”という文脈に合っているかどうかを気にする。この両方を追求しなければならないのが大変だった。それでも、ラーメンの一風堂のように機構がお金を入れたことで世界展開が可能になり、上場して儲かった案件もある」。

■「最も口を利いてきたのは政治家たちだ」

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 その上で夏野氏は、渡瀬氏の批判に対して次のように説明する。

 「僕がいた時期には毎月の会議の中でも効果については常にトラッキングしていた。一方でメディア・コンテンツの割合はもっと少なく、特に初期は海外の百貨店でのプロジェクトなど“箱物”への投資が多かった。その評価損が今になって顕在化してきているということだと思う。とはいえ“300億円”という数字が大きいのかどうかというのは後世が判断すると思う。韓国が突っ込んでいる金額はそんな規模ではない。

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 とはいえ、全体として上手くいっているとは思わない。ファンドというのは一定の運営期間で評価していくことになるが、機構に関しては9年の間に社長が3回も交代しているし、社外取締役もコロコロ変わっている。株式会社海外需要開拓支援機構法という法律の下で運営されているので、1人の経営者の意思で運用ができるという類のものではないが、3、4年で交代するというのは短い。官僚の方は方針を変えるとか、責任を取らせるということを企図したのかもしれないが、ここも問題だったと思う。

 また、何をクールジャパンの対象にするかについて、政治的な思惑が入ることもあったのは事実だし、最も口を利いてきたのは政治家たちだ。クールジャパンとは一体なんなのか、という定義がはっきりしていないのは事実だし、そこに乗っかろうとしてくる人たちがいっぱいいて、そういう中で意思決定が進んでいったことも事実だと思う。

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 やはり“官民ファンド”という名前の枠組みでやるのはよくないと思うし、“たかりの構造”もできてしまう。それでも上場企業の内部留保は430兆円に上っているのに、リスクを取って海外に投資をしようとしない現実もある。投資をしていても、“機構が一緒じゃなければやめていた”という案件もいっぱいあった。効果の話をするのであれば、他の政府系ファンドも並べて議論すべきだし、もっとひどいものは山ほどある」。(『ABEMA Prime』より)

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