「半年や1年くらいの遅れは構わない。今からでも設計案を練り直すべきだ」隈研吾氏デザインの愛知県の新体育館、“バリアフリー”に懸念の声
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 名古屋城に隣接する名城公園に愛知県が建設予定(2025年夏オープン予定)の新体育館の計画をめぐり懸念の声が上がっている。

【映像】「バリアフリー軽視」体育館デザインはダメ? 

 去年2月の会見で大村秀章知事が「間違いなくクオリティは日本一、世界一のアリーナになるのだろうと。ジャパンテイスト、ジャパンクオリティ」と胸を張り、新国立競技場など設計にも参加してきた建築家・隈研吾氏がデザインを担当したことでも注目を集めていた計画案。

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 問題となっているのは、メインエントランスとなる高さ7.4m、49段からなる大階段だ。スロープやエレベーターが併設されておらず、大村知事の「バリアフリーに十分留意すること、といった要望がつけ加えられている」といった説明に反するというのだ。

 事業者側は先月下旬、スロープやエレベーターの追加設置などの修正案を提示。設置場所や利便性、災害時の避難の面で不十分だと話し合いは平行線を辿る中、着工は来月に迫っている。

■「全ての人が使いやすく、安全安心なものを目指すべき」

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 事業者との協議にも参加していた愛知県「重度障害者団体連絡協議会」の入谷忠宏事務局長は「完成イメージを見た時、“あぁ…”と思った。やはり大階段のところがメインの入口だし、ワクワク感が違う。家族や友達、恋人と、いい感じで一緒に入りたい。それが“障害者の方はこちらからどうぞ。健常の方はこちらからどうぞ”と分けられてしまうということだ。それが一番つらい」と訴える。

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 「やはり当事者たちが関わることが大切な時代だ。もちろん建築家の皆さんはプロだが、障害のある人たちが利用する時のことは当事者が一番分かる。私は首から下が動かず電動車いすで生活をしているが、例えばトイレに背もたれがないと後ろにひっくり返ってしまい、用が足せないことがある。そんな私も、視覚障害や聴覚障害の方々が困ることについては恥ずかしながわからないことも多い。

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 国立競技場の建設にあたっては、東京の団体の人たちの意見を取り入れて、世界基準のものが出来たと聞いている。そういう前例があるにも関わらず、とても残念だ。やはりバリアフリー、ユニバーサルデザインというのは、私たちが普通に外に出られる状況を作っていくことだ。先日、名古屋市営地下鉄名城線にホームドアがついたが、駅員さんは“今までは落ちる人が毎年3人くらいはいたが、ここ半年は誰も落ちないんだよね”と言っていた。大階段についても退場時や災害時を考え、全ての人が使いやすく、安全安心なものを目指すべきだ」。

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 愛知県名古屋市出身のフリーアナウンサー・柴田阿弥は「地元では名古屋城の天守閣再建の時もバリアフリーで揉めた。もちろんデザインも大切だが、税金を投入するような公共性の施設については実用性を重視してもいいと思う。特にバリアフリーは障害のある方々だけのためではなく、高齢者やベビーカーを押す人たちのためでもあると思う。私は若者だが、階段を昇り降りするのはしんど。やはり多くの人が享受できるものであるべきだ」とコメントした。

■「半年や1年くらいの遅れは構わない。今からでも設計案を練り直すべきだ」

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 隈研吾氏の作品にも造詣が深い東北大学大学院の五十嵐太郎教授は「大階段はこの規模の建築によく使われるもので、隈研吾さんが関わった国立競技場にもある。問題なのは、事業者の選定後に指摘された改善要望をあまり踏まえないまま着工が近付いてしまったことだ」と話す。

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 「よくデザインか、それとも機能かという議論になるが、この二つは必ずしも対立するものではない。かっこいい音楽が何百通り、何千通りとあるように、デザインと両立したバリアフリーも可能だ。最近では関係者や各種団体、ユーザーがワークショップなどで議論し、どう改善したらいいかを、設計にフィードバックする作業が重要になってきている。愛知県でも一応は実施されたことになっているらしいが、上手く機能していなかったのではないか」。
 
 また、すでに指摘されていることだが、スロープ、エレベーター、あるいは出入口がバラバラに配置されていて、上手く整理・統合されていない。いかにも後付けでスロープを置いたように見えてしまう。建築というのは様々な条件をクリアしながら設計していくもので、確かにバリアフリーを目指すことで、デザインの"無限の可能性"は無くなるかもしれないが、ガチガチに縛られるものでもない。

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 例えば『シェルターインクルーシブプレイス コパル』(山形市)の場合、障害を持つ人も含め、あらゆる人々が遊べる施設という設計案でコンペに勝った。ここでは、むしろスロープを要にしている。バリアフリー=建築のネガティブな要素ではなく、むしろ個性を作っていくものだという大西麻貴+百田有希 o+hという若手の建築ユニットが手掛けたものだが、デザインに対する要求をハンデにすることなく、建築の面白い特徴にするという設計の仕方だ。これこそがインクルーシブだと思う」。

 その上で五十嵐教授は「今からでも設計案を練り直すべきだ」と話す。

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 「審査員のメンバーにデザインとか建築家の人が入っていないところを見ると、デザイン性というよりも事業性・計画性が評価されていたのではないか。そうだとすれば、事業者は変更しなくてもいいので急いで着工せず設計案を練り直すしたほうがいいと思う。このような建築は一度作られたら何十年も使うもの。半年や1年くらいの遅れは構わないので、どうすれば課題となっているところが統合できるのか、きちんと考え直すべきだ」。(『ABEMA Prime』より)

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