平均年齢27.3歳の若いチームがノリノリだ。将棋界の早指し団体戦「第5回ABEMAトーナメント」の予選Dリーグ第3試合、チーム康光とチーム稲葉の対戦が7月2日に放送され、チーム稲葉が一気の5連勝でストレート勝ちを収め、予選2位での本戦出場を決めた。リーダー稲葉陽八段(33)の逆転勝ちで弾みをつけると、第2局から服部慎一郎四段(22)が3連勝。さらに出口若武六段(27)が勝利で締め括り、50代の重鎮3人が揃うチーム康光を、若さと勢いでふっ飛ばした。
運の要素も非常に少ない将棋でも、いい波・いい流れは重要。対人ゲームであるからこそ、勢いがついた者が強いということを実証するような試合が繰り広げられた。チーム稲葉は平均年齢27.3歳と若く、出口六段と服部四段はまだプロとしてのキャリアも浅い。棋力自体はトップ棋士に匹敵するものがあるが、あとは実績十分の中堅・ベテランたちと、普段通りの将棋が指せるかが注目だった。前の試合、チーム康光との対戦では、あまり元気のある将棋を見せられなかったと反省した3人だが、予選突破をかけたこの試合では、波に乗りまくったような戦いが続くことになった。
ビッグウェーブをもたらしたのはリーダーだ。チームに勢いをつけようとトップバッターとなった稲葉八段は、先崎学九段(51)と対戦。独特な出だしに意表を突かれ持ち時間を減らすと、相雁木で落ち着いた序盤から中盤、終盤とペースを握られ苦しんだ。過去の2大会でも逆境に立たされることが多かった稲葉八段は、ここから粘りを発揮し混戦に持ち込むと、先崎九段が決め損ねた一瞬の隙を見つけて大逆転。「最後、こちらの玉が本当に危なかった」と冷や汗をかいたが、1勝分以上の価値がある逆転勝利を、後輩2人のもとに持ち帰った。
これを見て俄然、やる気がみなぎったのが“忍者”服部四段だ。第2局、日本将棋連盟会長でもある佐藤康光九段(52)との対戦は、先手番の佐藤九段が角交換型振り飛車(向かい飛車)を用いたが、持ち味である受けの将棋を序盤から駆使し、じわじわと“服部調”の展開に持ち込んだ。「序盤ちょっと失敗したかなと思ったんですが、なんとか持ち直せた。終盤の競り合いで手が前に出ました」と、激しい対抗形での玉頭戦を制した。ここから服部四段の“忍術”もさらに冴え渡り、第3局では郷田真隆九段(51)のミスに乗じて快勝。3連投となった第4局は佐藤九段との再戦となり、またも角交換からの向かい飛車になったが、攻めるポイントを見つけるのが難しい局面から手をひねり出し、形勢でリードしてからはほぼ完璧な指し回しで寄せ切った。
リーダー、後輩による4連勝を受けて「ここで決める以外ない」と気合が入ったのが出口六段だ。郷田九段との対戦は後手番から相居飛車。相矢倉の出だしから角換わりのように進んでいったが、あちこちで駒がぶつかる目まぐるしい勝負の中でも、桂馬をうまく活用した攻めで一気に優勢に立った。「内容は二転三転しているかもしれない」と、最終盤では少しバタついたが、なんとか着地を決めてチーム5連勝。勢いを断つことなく、そのままゴールまで駆け抜けた。
結成当初から、勝つ時は勝ち、負ける時は負けるというような、若さゆえの波の荒さを自覚していたチーム稲葉。スコア2-5で敗れたチーム天彦戦から一変し、今回はスコア5-0と、文句のない結果で本戦へと進んだ。本戦が行われるのは夏真っ盛り。頂点を目指す3人は、さらにいい波を捕まえる。
◆第5回ABEMAトーナメント 第1、2回は個人戦、第3回からは3人1組の団体戦として開催。ドラフト会議で14人のリーダー棋士が2人ずつ指名。残り1チームは、指名を漏れた棋士がトーナメントを実施、上位3人がチームとなり全15チームで戦う。対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。チームの対戦は予選リーグ、本戦トーナメント通じて5本先取の9本勝負。予選は3チームずつ5リーグに分かれて実施。上位2チーム、計10チームが本戦トーナメントに進む。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)