障害発生から60時間以上経ったきのう午後4時過ぎ、全国的にほぼ復旧したというKDDIと沖縄セルラーの大規模通信障害。
東京・多摩にあるネットワークセンターでの定期メンテナンス作業で、設備の交換を実施している最中に起きたトラブルが引き金となり、最大で3915万回線に影響を与えた。
情報通信分野の政策や技術に詳しい「企(くわだて)」のクロサカタツヤ代表は、「今回のような設備の改修や交換は日常茶飯事のように行われているもので、ほとんどのケースでは事故が起きていないというだけだ。輻輳に至った原因については究明の途中にあるが、メンテナンス作業は音声通話の少ない週末の深夜に行われていた。
しかしKDDIの場合、3000〜4000万回線くらいの契約数があると考えられるので、その規模がVoLTE交換機に対して一斉に通信をし直せば、とんでもない量になる。そういうこともあってパンク状態になり、復旧に手間取ったのだろうが、むしろ頑張ったのではないかと思うし、“これくらいで復旧してくれて良かった”ぐらいの気持ちだ」と話す。
「家庭でWi-Fiルーターの調子が悪いなという時、立ち上げ直すとスッと通ることがあると思う。あれと同じようなことができなかったのかと思われるかもしれないが、VoLTE交換機というのは110番や119番なども含めた音声通話を司る非常に重要な機能なので、端末の状態や受発信の情報をとりあえず捨てて立ち上げ直してしまえ、ということは簡単に出来ない構造になっていると思う。
また、他の事業者の事例など、過去の教訓を活かせなかったのではないか、という意見もあるが、問題が起きた場所や原因が異なるので一概には比較しにくいし、例えばソフトバンクで大規模な通信障害が起きた2018年からの4年間で、我々のスマホが吐き出すトラフィックの量は倍くらいに増えていると思う。そのくらいの急成長を遂げている難しいもの扱っていると考えていただいていいだろう。
そして今このスタジオにいる7名だけを見ても、使っているスマホの機種、OSのバージョンは異なっているのではないか。今回、Androidのこのバージョンだとうまく繋がらなかった、iOSだと繋がった、みたいな話もあるが、そのくらい複雑なものを通信事業者は収容しているということだ。これは通信業界で仕事をしている私の立場からユーザーの方々に感じていただきたい」。
■「KDDIに限らず、全ての通信業界の方に聞いていただきたい」
復旧作業の途上にある中、KDDIの高橋誠社長が2時間にわたる記者会見を行ったこと、本社に総務省の職員が派遣されたことについて賛否両論の声が上がっている。
クロサカ氏は「私は高橋さんと親しくさせていただいているが、エンジニアとしても優秀で、見ていただいた通り、非常にジェントルな感じでお話をされる方だ。障害発生以降、寝ていなかったと思うが、“社長が技術を分かっている”ということが伝わったことで、ユーザーの安心感にも繋がったと思うし、こういう希有な経営者が表に出て対応されたことは正解だっただろう。
また、総務省の事務方ナンバー2である総務審議官が派遣されたと聞いて、福島第一原発事故の時のことを思い出された方もいるかも知れない。ただ、竹内芳明さんという方はゴリゴリの理系の技官であり、その世界では有名な東北大学で通信工学を修められた方だ。私の知る限り、省内でも5本の指に入るくらい、技術がよく分かっている方だ。
この2人が向き合ってエンジニアリングベースでの議論を詰められたことは良かった。ただ、これも高橋さんと竹内さんだったからという結果論であって、別の方同士がわいわいがやがややっていたら大変なことになっていたかもしれない。また、自然災害であれば政府が電源車を供給するといった後方支援の役割もあり得るが、今回のような事故の場合、行政ができることはあまりなかったと思う」。
また、auの約款では、全く利用できない状況が24時間以上続いた場合についてのユーザーへの補償が定められており、KDDIの判断に注目が集まっている。これについて「BlackDiamond」リーダーのあおちゃんぺは「UQ mobileとpovoも使えなくなったが、2000円くらいの料金の人が1万円くらい払っているauの人と同じくらい怒るのは違うのではないか、と疑問を呈する。
クロサカ氏は「ユーザーの中には大きな不利益を被った方もいると思うので、交渉をすること自体は悪いことではないと思う。ただ、全員が“金をよこせ”みたいなことを言うのは違うのではないか。ただし、あおちゃんぺさんの指摘は非常に重要だ。これはKDDIに限らず、全ての通信業界の方に聞いていただきたい意見で、言い方は良くないかもしれないが、高い料金を払っている人から先に復旧してくれてもいいのではないか、というのは道理としてあると思う。
あるいは高い料金を払っている人については、回線のつながるドコモの端末をショップで貸し出す、といったサービス設計があってもいい。加えて、4G LTEでは技術的にインフラのシェアリングが難しいのが現実だが、5Gになってようやく動きが出始めた。auがダメになった場合、1日だけドコモに切り替えようか、という議論もしてもいい」と応じた。
■「国営よりは民間の方がいい。競争マインドがあるからだ」
今回の事態を受け、金子総務大臣は「国民生活や社会経済の重要インフラである携帯電話サービスについて、極めて多くの方々が長時間利用困難な状態になっていることは大変遺憾だ」として、行政処分を下す可能性も示唆している。
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「昔は音声通話だけで良かったのが、インターネットが登場し、スマホやIoT家電も出てきたことで、数億、数十億という端末が回線につながる時代だ。ここでトラブルが起きれば、非常にクリティカルな状況に発展する。国や国民の間に、通信事業者がそのくらい重要なインフラを担ってきているという認識が足りないという問題もあると思う。
電力業界においても自由化、そして料金を安くしようとしていった結果が、今年の電力のひっ迫に繋がっている側面もある。携帯電話料金についても、菅前総理が下げさせた。そうした値下げ圧力や自由化がインフラとしての足腰を弱くする可能もあることについて、国がどこまで支えるのか、そのバランスの議論もしなければならないと思う」とコメント。
米イェール大助教授で半熟仮想株式会社代表の成田悠輔氏は「地震に備えて水や食料を用意しておくのと同じ感覚で、通信障害が起きた時のために他の回線の端末やポケット型Wi-Fiも契約しておく、というのが普通になるべきなのかもしれない。そのためのきっかけとして捉えられたらいい」と話した。
クロサカ氏も「我々は今回のようなことが一定程度は起きることを覚悟しなくてはいけない」とした上で、「それでも国営よりは民間の方がいいのではないのか」と指摘する。
「菅政権時代の“料金を下げろ”と言う委員会のメンバーとして、私自身は総務省のやり方に文句を言いながらも、下げること自体についてはネガティブではないという態度を取った。一方で、通信事業のコンサルをやってもいるので、“どちらの味方なのか”と言われることもある。しかし通信分野に関しては厳しくはなったものの、トータルで見れば通信事業者はまだまだ黒字体質だ。そしてトラフィックがこれほど激しい成長をしていく中にあっては、国営的なマインドよりは民間の厳しい競争マインドの方が、結果的には現状にキャッチアップできるのではないかと思っている」。(『ABEMA Prime』より)
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