ソロラッパーとして、そして俳優としても活躍する般若が、ワンマンライブ「般若 "笑い死に" LIVE TOUR FINAL」を7月2日、日比谷野外音楽堂にて開催した。

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2014年、2017年に続く3度目の日比谷野音ワンマンとなる今回。

また2021年1月には自身のレーベル「やっちゃったエンタープライズ」を設立し、オリジナルアルバムとしては13枚目となる「笑い死に」を今年4月にリリース。

その意味では、自身のキャリアに対して新たな、そして大きな一歩を踏み出したタイミングでの野音公演となるが、本アルバムのリリースに伴うツアーを行っていないにも関わらず「 "笑い死に" LIVE TOUR FINAL」と銘打たれたライブタイトルや、愛犬を前にX JAPAN“紅”を歌うライブの予告動画など、シリアスさやポリティカルな側面も強く感じさせたアルバム「笑い死に」に対して、自らギャグめかして諧謔するようなアプローチは、般若ならではと言えるだろうし、この日に野音に詰めかけたリスナーは、そういった般若の複雑な存在やシャイな部分に惹き付けられているのかも知れない。

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「笑い死に」のジャケットを拡大したバックドロップとDJセットのみというシンプルなステージには、まずDJ FUMIRATCHが登場し、曲のイントロを流すと“プランA”からライブはスタート。最新アルバムではなく、「ドクタートーキョー」(2008年)収録曲からこのライブが始まったことからも、この日が単なるリリースライブとは違う側面を持つことが感じられた。
 
そしてニューアルバムから“止めてくれよ”、“余裕だろ?”と矢継ぎ早に披露し、観客のテンションも高まっていく。

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2019年に行われた日本武道館公演以来となる大型ワンマンだけに、般若自身も「俺だけかな、今日が待ちきれなかったのは」とMCで話し、その言葉には大きな拍手が観客から巻き起こる。
 
また若いリスナーだけではなく、般若と同世代やそれ以上の年齢のオーディエンス、そして親子連れなど、般若が積み重ねているキャリアの確かさが客層の幅広さにも現れていた今回のライブ。
その状況を感じてか「子どももいるから、あんまり汚い言葉は遣いたくない」という言葉から“糞馬鹿野郎”。
このフリとオチの効かせ方もまた般若ならではだ。
 
そして境界のない世界を願う“ゼロ”から、LGBTQ+や人間の尊厳について歌う“色の無い海の底”、「人と比べないで自由になってね」と歌う“テキトー”と、「存在」を肯定するようにメッセージする楽曲を連続させていく。

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梅雨明けの快晴の野音というコンディションもあってか、「時間が止まって欲しいと思うぐらい楽しいよ」とオーディエンスに語りかける般若。

そして“その男東京につき”から、“路上の唄”、“心配すんな”、“サイン”など、メドレー的に般若の代表曲を12曲連続披露するパートになだれ込む。現時点にもしっかりと通じるメッセージもあれば、“花金ナイトフィーバー”での「子どもは聴くな」という自身の言葉にもあったように、ともすれば時代にそぐわなかったり、現在の般若のメッセージとは乖離するような内容もあるが(とはいえ「笑い死に」が清廉潔白な作品という意味ではないし、ポリティカル・コレクトネスを遵守するようなラッパーではないことは誰もが知るところであろう)、その楽曲の内容やメッセージの広がりは、般若の作品自体が「自身や視点をその都度楽曲に落とし込んでいく、時代を視るドキュメンタリー」であることの証左でもあるだろう。

そして楽曲に挟み込むように般若から発せられた「この曲はまだ生きてる」や「お前もお前も最後まで一緒に戦える戦友だよな」という言葉は、そういった時代性や感情をリスナーと共有していることを強く感じさせられた。

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そして「ここからは新曲をやる。この曲は撮影してもいいから、SNSで発信してくれ!」とフリをたっぷり効かせてから、般若の初期を代表する“やっちゃった”に展開し、観客は大きく手を降ってそのオチに応える。
その流れから、彼の生い立ちを曲に込めた“大丈夫”、これからの未来への意思を歌った“拝啓”、自身の子どもの未来へと宛てた“ハタチの君へ”、時代が流れても変化しないことを歌った“2200年”と、過去/現在/未来という時間軸に対する意識を楽曲を通して披露していく。
 
その意味では、その「生という時間軸」を、暴力によって閉ざされてしまった目黒女児虐待死事件を歌った“2018.3.2”は、晴れ渡った幸せな日比谷に、そして官公庁が立ち並ぶ街に、あまりに哀切な音楽として響く。

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般若自身「次の曲は二度と歌いたくない曲をやる。このライブの中で、みんなに一生のお願いがある。この曲は胸で聞いて欲しい。たった一人の人間のために歌わせて下さい」という言葉にしたように、この曲は誰の胸にも哀悼と苦い無力感を灼きつける、決して心地よいものではない。
しかし「今日を境にこの曲は歌いたくない」という言葉と、この楽曲のメッセージからは、そういった暴力がなくなった未来を作り上げようという意思を、そこにいたオーディエンスは胸に刻んだはずだと祈らざるを得ない。

そして自身の生い立ちも込められた“シングルマザー”、このライブで歌われた様々な楽曲の源泉ともいえる「街の記憶」を織り込んだ“覚えてる”でライブは一旦幕を閉じた。

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アンコールを促す拍手に導かれて再びステージに登場した般若とDJ FUMIRATCH。

そして「ゲストはいねえよ」と、この日の物販のタオルに書かれた「ONE MIC」という文字を広げる般若。その意味でも、数多くのアーティストが登場した武道館とは違う、正しく「ワンマン」であったこの日のライブ。
「ラップを始めた26〜7年は、ここに立ってるなんて想像できなかったよ。過去があって未来があるなら、それを背負い込んで糧にしてやるよ」
という言葉から“あの頃じゃねえ”、野音でのワンマンへの意思を込めて書かれた“うまくいく”を披露。
 



そして「今日来てる子どもたちに伝えたい。自分がこれだと思った道に行って下さい。枠に中に収められないで、自分の常識は自分で作って、そして仲間や大事な人を大切にして下さい」という彼が立ち上げた「FOR CHILDREN PROJECT」にも繋がるメッセージを丁寧に伝える般若。
 
ライブのラストは「ずっとここにいたいけど……兎にも角にも人生最高だな!」という言葉から、ステージに迎えた愛息とともに“じんせいさいこおお”。ペシミズムがテーマになったともいえるトラックに載せて、そういった悲観を受け止めながら、喜怒哀楽や感情やキャリア、自身の視点は発想という般若のすべてを「ワンマン」という形でドキュメントしたこの日を“じんせいさいこおお”で総括する般若。

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そしてステージ中を駆け回り、踊り、倒れ、跪き、叫ぶように「さいこおお人生」と歌う彼の姿には、全身表現者としての般若の魅力を改めて感じさせられた。

文字通り、唯一無二のラッパーによるライブは、こうして幕を閉じた。

 
text by 高木 "JET" 晋一郎
Photo by cherry chill will.

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般若 “笑い死に” LIVE TOUR FINAL セットリスト
2022/07/02@日比谷野外音楽堂
▶︎配信LINKはコチラ

HANNYA - 笑い死に
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Listen to 笑い死に by HANNYA.
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