娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?
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 「ここに菜が倒れていた。銃痕だと、ひと目で分かった。そこから血が滴っていた。血の跡は落としきれていない」。

【映像】DVだと給付金ゼロ?当事者たちの苦悩&制度改革は

 長野県に住む市川武範さん。一昨年5月、自宅に押し入った暴力団員の男が発砲、長女・杏菜さん(当時22)と次男・直人さん(当時16)が撃たれて息を引き取った。男は事件当日不在だった市川さんの長男と同じ会社に所属していた元妻との関係を勘違いし逆上、犯行に及んだとみられている。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 不在だった市川さん、そして助けを呼ぶために外へ出た妻は無事だったが、暴力団絡みの事件ゆえ、事実無根の噂を流されたり、誹謗中傷を受けたりした。「事実と違う報道もあった。かなり苦しんだ」。それだけではない。地域では新しい住まいを見つけることも叶わず、住むことも、売ることもできない空き家のローンがのしかかった。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 「2人が撃たれた玄関に出入りするのは無理だ。しかも自治体には公営住宅に引っ越すことを拒否された。警察を通じて見つけてもらったのは、犯罪被害者を受け入れると謳っている県営住宅になった。しかし住民票の移動も伴った。住んでいる自治体は守ってくれず、出ていけと言われているようで、非常につらかった。暴力団なんて全く関係していないのに、どうして被害者が、遺族がこうなってしまうのかと苦しかった」。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 加害者の男が事件時に自殺をしてしまったため、損害賠償請求する相手もいなかった。そこで市川さんが頼ったのが「犯罪被害給付制度」だ。被害者本人には最高で約4000万円、遺族にも最高で約3000万円の給付金が支払われる制度だが、市川さんのケースで認められたのは680万円だった。PTSDなど心の病を抱え、希死念慮に苛まれる妻をつきっきりでサポート、仕事もできず、給付金はあっという間に底をついた。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 「犯罪被害に遭った方は誰でもそうだと思うが、経済的に非常に苦しい状態が続く。しかし私の場合、給付までに9カ月かかった。また、給付されたのは遺族見舞金として子ども2人分で約680万円だった。亡くなった時点から3カ月遡った次期の給与をもとに算定されるらしいのだが、次男は学生だったから収入ゼロだし、娘は就職したのが2月で、1カ月働いた後の4月はコロナのために休業になったので収入ゼロ。県の犯罪被害者支援センターを通し、せめて昨年の収入をもとに計算してもらえないかと訴えたが、認められなかった。交通事故の自賠責保険と比較した時に、なんでこんなに違うのかと思ってしまう」。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 実は犯罪被害給付制度によって給付された平均額は、満額からほど遠い550万円(昨年度実績)というのが実態だ。こうした状況に対し、犯罪被害者を救済するために設立された「あすの会」(2000〜2018年)の後継団体「新・あすの会」(2022〜)事務局長の米田龍玄弁護士は「これでいいのかという話だ」と話す。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 「扶養家族がおらず、収入がほとんどない若い方の場合、最低額の320万円。逆に扶養家族が4人いて、収入が日額1万8000円を超えるような50代での場合、最高額の2900万円になるが、なかなか出ないのが現状だ。一方、交通事故の場合には民事の賠償があり、裁判所が残りの人生で得られた利益を払えと命じる。また、自動車の場合は保険に加入するので、死亡した場合は5000万円以上の保険金が支払われる。

 例えば犯罪給付金の典型例として下関通り魔事件(平成11年に)というのがあるが、犯人の元死刑囚は車で駅に突入し、まず何人かを轢き殺した。その後、車を降りたて包丁で何人かを刺し殺した。このとき、車に轢かれた人には保険金が支払われたものの、包丁で死傷した人は犯罪給付金だったので格差が生じてしまった」(米田弁護士)。

■「被害者に代わり、国が加害者に請求する制度の導入を」

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 家族間での犯罪の場合も、被害者は制度の不条理に苦しむことになるという。

 神奈川県で暮らす林さんは(仮名)は3年前、酔った夫に暴行を受け、顎の骨を2カ所折る重傷を負う。度重なるDVの末のことだった。夫には10カ月の実刑判決が下り、離婚を決意した林さんだったが、待っていたのは更なる苦しみだった。怪我がもとで、思うように言葉が発せない後遺症を負ってしまったのだ。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 仕事にも復帰できず、収入は激減。夫からの慰謝料320万円が支払われないため、弁護士費用にも事欠く状況だ。しかし林さんに支払われた犯罪被害給付金は、なんと0円。DV被害も含め、親族間で起きた犯罪には給付金が支給されないからだ。「弁護士さんから返ってきたお返事が、“婚姻関係が破綻していなかったので、もらえない”と」

 知人の紹介で始めた夜のアルバイトでなんとか生活費を稼ぐ日々。「加害者に対して本当に手厚いと思う。刑務所の夫はちゃんと服や食事を用意してもらえるのに、被害者は放置されて、支援もない。しんどい」。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 米田弁護士は説明する。「殺人事件のような刑法犯で人が亡くなったケースでも、全額の請求はされず、また支払われていない事案も多い。やはり申請をしても親族間のため不支給ということになったり、金額的にもかなり抑えられたりするのが現状だ。本来であれば助け合う者の間で起きた犯罪に対して公費を投入するのは社会の理解が得にくいという説もあるが、被害者に支払われたとしても、結局は同じ財布である加害者にも行ってしまうのではないかという意見もあるからではないか」。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 こうしたことから、米田弁護士らの「新あすの会」では、加害者に対する賠償請求権を国が買い取り、国が加害者に請求する制度を提案している。同様の事例として、兵庫県明石市では「立替支援金」(上限300万円)を制度化している。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 「ドイツの場合、第2次世界大戦で亡くなった人への補償を国の責任で行うという考え方があるが、日本の犯罪被害者給付金の根底は罪を犯したのは加害者だ。だから加害者に請求してくれ、という考え方がある。だから“見舞金的に払いますよ”、ということだ。しかし国の場合、例えば国税庁には調査権限があるので、組織犯罪などで資産を海外に持って行かれているという場合にも取り戻すことができるかもしれない。将来は犯罪被害者庁のようなものを作り、ワンストップで手続きを行える仕組みにしてもらいたい」。

娘と息子を殺害されても680万円、殴られ後遺症が残っても0円…「犯罪被害給付制度」の不条理はナゼ起きる?

 市川さんは「私は犯罪加害者だけの責任にしてはいけないと思っている。生まれたばかりの赤ちゃんの愛らしい顔を見れば、人殺しになるとはとても思えないと思う。仮に何らかの先天的な素因あったとしても、やはりそれからの家族を含めた社会生活によって出てくる部分があるわけで、やはり加害者だけでなく、社会全体で責任を負うべきではないかと考えている。新あすの会が提言している法律は、逃げ得を許さないという部分で必要なシステムだし、私も強く賛同している。取り入れて欲しい」。

 林さんも「加害者は生活が保障されているし、励ましてもらえて、更生の支援もしてもらえる。でも被害者には何もない。全て一人で乗り越えなきゃいけない。これから犯罪に遭う人に、私のような思いはしてほしくない」と訴えていた。(『ABEMA Prime』より)

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