「“ウクライナが核を保有していれば侵攻されなかった”は危険な議論だ」 “核なき世界”へ、日本と岸田総理の道筋は
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 岸田総理は日本時間の2日未明、ニューヨークで開かれたNPT(核拡散防止条約)の再検討会議で、日本の総理大臣として初めて演説した。

【映像】「日本は核の脅威に」“核なき世界”への道筋は

 NPTの主な役割は核を持つ国を増やさないこと、また核保有国のアメリカ、ロシア、中国などを認める一方、核装備の制限・削減に取り組むことだ。演説で岸田総理はロシアが核兵器の使用を示唆したことを批判し、「核兵器なき世界」に向け核戦力の透明性の向上など、「ヒロシマ・アクション・プラン」を発表した。

 NPT再検討会議は本来5年ごとの開催だが、新型コロナウイルス感染拡大で延期され7年ぶりの開催となった。前回2015年は非保有国と保有国が対立し最終文書の合意に至らなかったが、より情勢が悪化している中で世界の核戦略はどうなるのか。

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 核をめぐる世界の現状について、防衛省防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏は「核不拡散、あるいは核軍縮は2つの入口がある。1つがサプライサイドで、核兵器を持たせないようにするアプローチ。もう1つがデマンドサイドで、核兵器を持つインセンティブや持たなきゃいけない状況を減らしていくアプローチ。ただ、両方とも難しいというのが現実だ。『核のない世界を目指す』と言ったオバマ大統領に限らず、アメリカの大統領は核兵器の役割を減らしていく、役割を減らせば核軍縮はできるということをしてきたが、それはアメリカだからできた部分がある。核兵器を減らした部分はハイテク兵器で埋まったわけで、一方でハイテク兵器を持てない国は“核しかない”となる。残念ながら、あちらを立てればこちらが立たずという負のスパイラルになっているので、“これをやれば全て解決する”というワイルドカードはやはりない」と話す。

 ロシアのウクライナ侵攻を受けて、「ウクライナが核を保有していれば侵攻されなかったのではないか」ということがまことしやかに語られているが、高橋氏は「危険な議論だ」と警鐘を鳴らす。

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 「まさに核拡散を加速してしまう可能性があることと、事実としてソ連が持っていた核兵器がウクライナに残っていたら今抑止力になるかということ。その核兵器の暗号コードはソ連の継承国家であるロシアが持っていて、ウクライナに使うことはできない。さらに、旧ソ連製の核兵器は10~15年で新しい弾頭と換えなければならず、当然ウクライナには更新できないので使えない。そういう状態であることを一番知っているのはロシアで、抑止力としてはそもそも機能しないことになる。もう1つ、ウクライナが核兵器を保持しようとした場合にはおそらく北朝鮮と同じような位置づけになり、ロシアの武力行使がもっと早い段階で正当化されていた可能性がある。やはり単純に核を持っていたらということではない」

 では、ロシアが核を使用するまでに至っていないのは、実際に核抑止が機能しているからなのか。「核があることにより紛争のレベルがコントロールされているのは確かだと思う。つまり、ロシアの核があるから、アメリカは直接的な軍事介入はやらず、ロシアを直接攻撃できる兵器は供給しない。ロシア側もアメリカに介入されるのは怖いので、隣の国には絶対手を出さないし、NATOの軍人が死傷するような(いる可能性はあるわけだが)攻撃は一切していないということだ。“核の影”が落とされている中で、それをすごく避けながら戦争をしている」と高橋氏。

 一方で、今回の侵攻は大きな転換点になる可能性もあるとし、「冷戦期は、“核兵器を使ったら全面核戦争になって人類は滅びる。だから核兵器を使う戦争をあまり考える必要がない”というのが1つの考えだった。ところが、今は少しずつ核兵器が使われ続ける可能性がある。そうなれば軍事理論や作戦というものを考え直さなければならなくなる、という話はこの侵攻が始まる前からあるが、もし実際に使われるようなことがあると、これから先はそういう議論が中心になっていくだろう」と懸念を示した。

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 前回のNPT再検討会議では最終文書の合意に至らず、今回はロシアのウクライナ侵攻という不安要素もある中で、どのような着地点が望めるのか。

 「“継続的に議論しましょう”というのが一番可能性は高く、希望が持てるシナリオではないか。例えば、核兵器禁止条約の会合での共同声明で、そこに入っていないロシアの批判すらできていない。NPTはロシアもメンバーだからロシアを非難するようなことはあり得ず、そういった意味でこの問題が合意を難しくしているのは確かだ。5年後かはわからないが、“また次のラウンドをちゃんとやりましょう”というところに持っていけるのが現実的には一番可能性が高い」

 NPTが開催されているタイミングで、広島と長崎に原爆が落とされた日(6日、9日)を迎える。来年のG7サミットも広島で行われ、広島選出の岸田総理自身も核軍縮がライフワークだ。

 岸田総理に期待される役割として、高橋氏は「少なくとも核戦力の透明性ということは訴え続けるべきだし、そこが進めばいいと思う。核弾頭の数がなぜストックホルム研究所のデータとして出ているかというと、公表していないから。アメリカは公表しているが、ロシアは公表していないし、中国も当然していない。そこを“国として責任を持って公表しましょう”というのは、1つの呼びかけとしては十分だ」との見方を示す。

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 こうした世界や自国の状況を踏まえた時、日本はどのような戦略で進んでいくべきなのか。「中国が持つアメリカに届く核弾頭は、20年前は20発だったが、そこから15年ぐらいで1000発になった。北朝鮮も20年前は核弾頭を持っていなかった。今、日本は非常に強い核の脅威にさらされている中で、20年前と同じ枠組みでいいはずはない。だからといってヨーロッパ型の“弾頭を置く”ということが最適解なのかというと、そこは安全保障の観点から言うと必ずしも最適解ではない。だから、これまでどこの国もやってないようなやり方を僕たちは考えなくてはいけない。NPTについて言えば、単に話し合いだけではなく実際に核拡散を阻止してきていて、その機能を維持、強化していくことは必要だ。核兵器禁止条約についてはまだでき上がったばかりなので、そこはまさに話し合うというところから始まってくると思う」とした。(『ABEMA Prime』より)

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