きょうで、安倍元総理銃撃事件から1カ月。奈良県警で事件の捜査が進んでいる一方で、警察庁を中心に警備体制についての検証も行われている。
この1カ月でどのようなことわかっていて、再発防止に向けて警察はどのように動いていくのか。事件の取材にあたるテレビ朝日社会部の藤原妃奈子記者が伝える。
Q.この1カ月でわかったことは?
事件当時、現場には十数人の警察官がいて、うち4人の警備担当者が安倍元総理の側にいた。山上容疑者がなぜ背後に近づけたかというと、安倍元総理から見て右側に想定よりも人が集まったことで、警護員らはその聴衆を警戒していた。警護員らの目が安倍元総理の背後とは別の方向を向いている隙をついて、山上容疑者は1発目を約7mの距離から、2発目を約5mの距離から発砲した。
捜査関係者への取材で、新たに山上容疑者が「隣の人に当たらない距離まで近づいた」と供述していることがわかった。かなり近い距離を狙っての犯行だったことがわかっている。
Q.山上容疑者が使った自作の銃について新たにわかったことは?
捜査中ということもあって、銃の詳しい仕組みはまだわかっていない。ただ、「隣の人に当たらない距離」と話しているように、どういう方向に弾が飛ぶのか、どれくらいの威力なのかなど何度も試した上で、「犯行に使える」という確信を持って行動に移したものとみられる。
Q.2発目の発砲までの間に警護員らは動くことができなかった?
1発目から2発目まで2秒少しあったということで、訓練を受けているSP・警護員であれば何かしら対応できたのではないかという意見は確かに出ている。ただ、現地に居合わせた警察以外の関係者10人以上に取材したところ、1発目が銃声だとわかった人は1人もいなかった。例えば、後方にあったバスのタイヤの破裂音や演説妨害の大きな音、そもそも大きい音というだけで何の音かわからなかった人がほとんどだった。銃声と聞くと「パンッ」という乾いた音をイメージするが、どこかズシッとした音だったことで「まさか」という声もあった。
当時現場にいた一部の警護員は「タイヤの破裂音や、発煙筒が使われたと思い、発砲に気づくことができなかった」と話しているという。山上容疑者が視界に入っていない上に、聞き慣れない音だったことで、対応が遅れたのではないかということがわかってきた。
Q.演説場所は警備上適していたのかについて、検証は?
演説場所の前は横断歩道、背後は車道とバスのロータリー、両側は車道と360度開けていて、何かがあった時には人が盾になることを前提とした場所だった。ANNが参院選で取材した安倍元総理の応援演説は、他の場所はすべて背後に選挙カーか壁がある、もしくは選挙カーの上だったことから、今回はレアケースだったことがわかる。
今回演説を行った大和西大寺駅の北口は、物理的に近くに選挙カーを置くことができなかった。北口は再開発の工事で道路の状況が変わるそうで、去年までは選挙カーを置くことができていた。実は、安倍元総理は6月28日にも大和西大寺駅を訪れているが、この時の演説場所は南口で、背後には選挙カーもあった。今回はなぜ北口だったのか、場所の選定に関わった関係者に話を聞いたところ、応援演説が前日の夕方に急遽決まったため、告知する時間がなくても人が集まりそうな、人通りの多い北口を選んだという。さらに、北口の全く同じ場所・状況で自民党の茂木幹事長も応援演説を行っており、その点の信頼もあったということだ。
Q.選挙関係者側と、警備側の事前の打ち合わせはしっかり行われていた?
事件前日の7月7日の夕方と当日8日の朝に、候補者の佐藤啓氏の事務所側と警察などで打ち合わせは行われた。警察側からは、横断歩道の上を使わないように、交通対策のための警備員を選挙側から出してほしいという要望だけで、警備の懸念への話は出なかったという。
選挙陣営側はより多くの人に集まってほしいということで、人通りの多いところを選ぶのは当然のことだ。ただ、関係者を当たっていく中で、今回の演説場所が「安全だから」「警備しやすいから」という話は一切なかった。警察側も、基本的には選挙陣営側が指定した場所で警備をすることになっているので、場所を選択する段階で安全性を考慮する人がいなかったのではないか。そこを事前に話し合える仕組みができれば、再発防止につながると思う。
Q.そのようなことも含めて、今後の再発防止について警察はどのように動いていく?
警察庁の検証は進んでいて、早ければ今月中にまとまり、その結果が明らかになる見込みだ。(ABEMA NEWSより)