6月にドイツで行われたコミックマーケット。参加者たちが好きな漫画やアニメなどのコスプレを楽しんだが、中でも大人気だった『東京リベンジャーズ』のコスプレが物議を醸した。
原因となったのは、特攻服などに使われている「卍(まんじ)」の文字。仏教で徳の象徴と言われ、家紋や地図記号としても広く使用されているが、これがあるものを想起させるという。それは「ハーケンクロイツ」。
ハーケンクロイツとは、第2次世界大戦中にナチスが用いていた鉤十字の紋章。戦後、アウシュヴィッツ強制収容所などでの残虐行為が明らかになり、ハーケンクロイツや右手を掲げる敬礼など、そのシンボルを公共の場で展示・使用することはドイツで法的に禁止されている。似たデザインも禁止されていることから、東リべの卍がナチスを想起させるとして、問題視されたのだ。
戦後77年、過去の歴史をどう捉えればいいのか。『ABEMA Prime』では15日、終戦の日に議論した。
今回の件はドイツでどのように報じられているのか。ドイツ在住の東京女子大准教授でドイツ・ヨーロッパ近現代史が専門の柳原伸洋氏によると、「実はそれほど大きな話題にはなっていない」という。
「ドイツにおけるアニメや漫画の趣味文化というのは、“人は人、自分は自分”と分けて考えられている。日本のように消費文化や大衆文化としてかなり広範に広がっているわけではない。漫画やアニメの背景を知らない人はやはりギョッとしてしまうが、掲示板上で『あれ大丈夫?』という質問に対して、ドイツのアニメファンや漫画ファンが『あのマークは違うんだ』と説明をしている感じだ」
また、「東京女子大学のロゴもハーケンクロイツにそっくり」だと説明。その上で、議論すべき点について次のように述べる。
「『東京女子大学のマークはナチ党が使うより前に作られた』とは言えるが、いちいち説明をしないといけないので、名刺にはそのマークは使わない。1つ重要な点は、ハーケンクロイツというのはそもそも、19世紀に民族主義的、差別主義的、排外主義的な団体が使い始めて、それをナチスが用いて使ったということ。その時に“右卍”も“左卍”もあったわけで、今回のマークが逆だからということではなく、どういう意図や行動とともに使われたのかを知ることが重要だ」
大学受験予備校で世界史を教える茂木誠氏は、卍の持つ意味を発信・説明していく必要性を訴える。
「言論統制、一党独裁、個人崇拝、それから特定民族に対する差別、虐殺、強制収容をまとめて行ったナチス政権というものを僕らは教えるべき。ただ、それと今回のマークの問題は分けて考えるべきだ。実は卍は5000年前のインダス文明の遺跡で見つかっていて、これがインドに広まり、数億人のヒンドゥー教徒が普通に使っている。日本では寺院の地図マークや、青森県弘前市では市のシンボルなんかにもなっていて、観光にきたドイツ人が『日本にはこんなにナチがいるのか』と誤解することもある。
ナチの理論では人種には優劣があり、もっとも優れた民族がアーリア民族であると。それが要するにドイツ人、北欧系の人たちだ。卍はアーリア民族のシンボルであって、正当な後継者である自分たちがそれを復活させたという、虚構に虚構を重ねたイメージ操作をナチが行ったので、卍を使う世界中の人が迷惑している。だから、こういった騒動を逆手にとって、“卍は数千年の歴史を持っているスワスティカという富と繁栄のシンボルだ”とちゃんと説明すべきだ。それをねじ曲げたナチの数十年だけがおかしいので、東リベの件で日本が訂正する必要は何らない」
シンボルを巡っては、太陽をかたどった日本の「旭日旗」は大漁旗や出産、節句の祝いごとに使用されるものだが、韓国からは非難の対象になったりもする。
「旭日旗も、少なくとも江戸時代から使っている。おめでたいシンボルであるものを日本海軍が採用したというだけで、今でも自衛隊が使っている。日本が戦争で悪いことをしたからあのシンボルを使うなと言うのであれば、ユニオンジャック(イギリスの国旗)も使えないし、アメリカも星条旗を使えないだろう。こんなことを言ったらどんなシンボルも使えなくなる」と茂木氏。
柳原氏は「ドイツの憲法には“ハーケンクロイツやナチを禁止する”とは書いておらず、民主主義を毀損する、壊す、あるいは人を差別するようなものに使われることが問題だとしている。実は鉤十字よりも帝国旗という黒白赤の旗が現在、極右団体や排外主義者が使うということで問題視されている。旭日旗で言えば、日本の外務省はホームページで“政治的・差別的主張である等の指摘は当たらない”と書いている。これはメッセージとしていいと思うが、同時に旭日旗を差別的な団体が使うことに対しては、“それはやめてほしい”とはっきり書くべきだ。結局シンボルではなくて、どう使われているか、誰が何のために使っているかが重要になる」と指摘した。
小泉内閣で経済財政政策担当大臣、郵政民営化担当大臣を務めた竹中平蔵氏は「相手の心に“騒ぐもの”が少しでもあれば、私たちは控えめな態度をとる必要があるし、同じことは逆に日本側も求めたいわけだ。日本には日本の卍があるわけで、それに対して反発する人がもしドイツにいるならば“それは許容してほしい”と。これはやはりグローバル化の大前提だと思う。もう1つ難しいのは、残念だが歴史は勝者が作るということ。戦争はやった両方に責任があるが、東京裁判ではそうではない結果になった。未だに国連ではドイツ語も日本語もイタリア語も認められず、そこは許容しないといけないと思うが、主張すべきは堂々と主張していくのも重要だと思う」との考えを述べた。(ABEMA Prime)
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