「発達障害は脳波で測定できる」の問題点とは?「正しい情報」の普及に動いた臨床心理士の推進する「ニューロダイバーシティ」という考え方
現在の発達障害の診断基準
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「発達障害について学ぶたびに、みんないずれかの項目に当てはまるんじゃないかと思ってしまう」

「自閉症とADHDの区別がついていないような人多い」

 「個性」や「特性」といった表現もされる「発達障害」。“障害”という言葉がつきながらも、人によってその傾向の強さが違うため境界線はあいまいだ。

【映像】「脳波測定に科学的根拠はない」現在の発達障害の診断基準

 そんな発達障害を診断している現場の医師は、どのような基準で判断しているのだろうか。ハートクリニック横浜の柏淳院長は「発達障害は元々持っている特性で、精神障害とは明確に違う」と話す。

柏院長「我々は、精神科のクリニックなので精神障害の患者をみている中で発達障害の方をみているのですが、精神障害の方は病気になるその前と後で何かしらの変化があります。その“変化”を捉えていくのが精神障害の診断なのですが、発達障害の診断というのはそうではありません。発達障害は元々持っている特性ですよね。生まれたときからずっとあるものが、大人になってからの環境と何らかの不適合が起こってしまう。それで来院されるのです」

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 一概に発達障害といっても、相手の表情や態度などよりも、文字や図形、物の方に関心が強いなどとされるASD(=自閉スペクトラム症)、次々と周囲のものに関心を持ち、周囲のペースよりもエネルギッシュに様々なことに取り組むことが多い特性を持つADHDなど複雑で幅広い症状が含まれる。そのため、アメリカの精神医学会の診断基準である「DSM-5」を基本に、2~3か月程度患者とじっくり向き合い、診断するケースが多いという。

柏院長「例えばASDであれば子供のころから(症状が)ないといけない、ADHDであれば今は12歳以前から小学校のころから“不注意”や“多動衝動性”などの特性がないといけません。これはそれぞれ9項目とも基準があって、その中の6箇所以上を満たすかつ、それが12歳以前から2箇所以上ある。そういう人を(発達障害)と診断するということになっています」

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 一部では脳波検査や、磁気による治療法を前面に打ち出したクリニックも存在するが、発達障害への活用については「現時点では不可能だ」と柏院長は考えを明かす。

柏院長「(脳波検査など)で発達障害そのものを診断するというのは、今の精神医学のレベルでは難しいと思います。研究的にはいろいろやられており、様々なデータが出ていますが、いらっしゃった患者さんがそれらを検査して診断をつけるというのは現時点では不可能だと思います」

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 他の精神障害と重なる場合や、症状が似ていて判断が難しいケースも多いという発達障害。大切なことは診断や治療だけでなく、当事者、そして周りの理解だと柏院長は訴える。

柏院長「発達障害は、簡単に治療できるものではありません。時間をかけても生まれ持った特性そのものが変わる訳ではないのです。『治療』といっても空気が読めないのを読めるようにするという話ではなく、特性は特性としてありつつも“定型発達”といわれる人たちが多数派である世の中でも『仕事しやすくする』とか『夫婦関係を良くする』ための工夫をどうしていくかなどが1番大事なことです。診断ができてもその先が伴わないと意味がないのです」

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 発達障害だと診断できても周囲の理解など社会に適応するための工夫が伴わないと意味はない。そう訴える柏院長とともにTwitterのスペースを活用して「脳波で発達障害が診断できるか」について配信し、大きな反響を呼んだ1人で、ニューロダイバーシティ(=神経多様性)に詳しい臨床心理士・村中直人氏は、配信をした理由について「誤った情報が広がることに強い危機感を感じた」と考えを明かす。

村中先生「配信をした理由は、私自身が感じた“強い危機感”を、多くの人にも知っていただきたいと思ったからです。柏院長がおっしゃる通り『脳波を測ればすぐにADHDか診断できる』という科学的な根拠はありません。その中で『脳波を検査すれば発達障害か分かる』といった情報が広がることで『お前ちょっとミス多いから脳波調べてこいよ』みたいな誤解が広がってしまうリスクが非常にあると思い、正しい情報を知ってもらうために配信しました」

「診断というものは、それをすることで診断を受けた患者が生きやすくなったり、困っていたことが解決するようになるというところにまで繋がって初めて意味があるものだと思います。病院で検査しただけの科学的根拠も伴わないインスタントな診断だけでは、その人の今後への対応には繋がりにくいだろうと思うので、診断は“あくまで支援のための行為”であるというのは大事なポイントだと思います」

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 「診断は“あくまで支援のための行為”」という柏院長の意見に同意を示す村中先生。自身が推進する考えとして「ニューロダイバーシティ」を挙げ、それが社会で根付くためには「人間感のアップデートが必要だ」と述べた。

村中先生「事実、発達障害というマイノリティな人だけではなく、人間一人一人でもかなり違いがあると思います。それらの特性の違いを“多様性”と捉えてお互いに尊重していく社会が『ニューロダイバーシティ』という考え方です。ただ『発達障害の人だから助けてあげよう』という考えでは、“多数派の意見”という壁から抜け出せず、自分ごととして多様性を捉えることはできません」

「ニューロダイバーシティという観点は、本来全員が対象とされる考え方で『多数派には多数派の特性があり、少数派には少数派の特性がある』そのように捉えるための“人間感のアップデート”がまず必要なのです。限られた人たちのための特別な施策ではなく、一人一人の能力や個性を生かす社会を目指すと言ったときに“誰にとっても自分ごととして考えられるテーマ”ではないかなと思います」

(『ABEMAヒルズ』より)

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