去年11月、神奈川県川崎市の停留所から市営バスに乗ろうとした車いす利用者の男性が、運転手から「この後に空いているバスが来る」と言われ、乗車を拒否された。
【映像】川崎市交通局の「車いす利用客マニュアル」（画像あり）※9：33ごろ〜
男性は、その日のうちに営業所に苦情を入れたという。その後、国交省は川崎市交通局に対し「正当な理由なく、乗車を拒否してはならないとする道路運送法の違反にあたる」として、当該のバスを9月5日から30日間利用停止とする行政処分を実行。川崎市は運転手を訓戒処分とした。
市営バスの運転手は“乗車拒否”の理由として「車いすを固定する座席で他の客が寝ていて起こすのも悪いと思い気を使った」と釈明。Twitterでは運転手の対応を巡って「普通に混んでいて乗れなくて次のバスを待つこともある」「車いすユーザーはその場所でしか乗れないから寝ている客ぐらい起こせ」「運転手1人では限界ある」などの意見が殺到している。
2日放送のニュース番組「ABEMA Prime」では、車いす利用者の乗車拒否問題について議論を行った。
これまでバリアフリー運動などに従事し、政府の障害者政策委員会の委員でもあるDPI日本会議事務局長・佐藤聡氏は、川崎市で起こったこの問題に「少し驚いた」と話す。
佐藤氏が「20〜30年前はしょっちゅうあったが、バスの乗車拒否は最近すごく少ない。今もあるんだなと思った」というと、ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「これは乗車拒否なのか。『次のバスだと空いているから乗りやすいですよ』という提案なのか。けっこう難しくないか？」と質問。佐藤氏は「70人乗りのバスで、乗っていたのは15人くらいだったから、混んでいる状況ではないと思う。車椅子のスペースは、そこを空けてもらわないと、乗れなくなってしまう。乗車拒否だと私は感じた」と答えた。
ひろゆき氏が「本人が『乗りたい』と言って、それを運転手が拒絶したら拒否だ。ただ、車いすの人が今回『乗りたい』と言ったかどうか明確ではない」と指摘すると、佐藤氏は「後から苦情を言うくらいだから、本人は乗りたかったのではないか」と推察した。
ひろゆき氏は「運転手が跳ね上げしないと車いすの人がそのスペースに行けないのは、設計の問題だ」として「フランスのバスは、車いすやベビーカーを『ここに止めてくださいね』という空白のスペースがある。だから使いたい人が勝手に来て、勝手に使う。運転手が何かしないといけない構造にしてしまっているバス会社側や、バス設計の問題の方が大きい」と指摘。
その上で、ひろゆき氏は「『運転手が全部やらないといけない』と思い込むのは、僕は違うと思う。車いすの人が入っていって、寝ている人を起こせばいい。車いすの人が自分でフックとベルトで固定してもいいし、利用客同士のコミュニケーションで『車椅子の人に席をあけて』と言えば何とかなる。そもそも、バスの設計に条例や法律をつくるべきだ。スロープも自動で出てくるようにするなど、車高を下げるのも自動でできるようにする。車椅子の人が乗っていって、固定も勝手に自分でやる。『運転手の負担がないバスしか動かしてはいけません』とすれば、それはもうコストの問題ではなく、『これしかない』となる」との見方を示した。
ひろゆき氏の指摘に佐藤氏は「日本の多くのバスは、運転手が降りてきて設置してもらわないと、車いすの人が乗れない」と回答。その上で「たしかにバスの構造に問題はある。イギリスやヨーロッパのバスは車いすで入っていって、後ろ向きでパッと座って、そのまま固定もせずに乗れる。私たちもできるだけシンプルに、運転手の手をわずらわせずに乗れる仕組みが必要だと思う」と述べた。
■ 運転手は「数分後に来ると思った」問題のポイントは？ 佐々木俊尚氏「コストカットを社会がやりすぎている」
ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「優先席に座っていたのがお年寄りや障害者だった可能性もある。ケースバイケースだ。運転手さんに直接聞いてみないと分からない」とした上で、「最終的に、やっぱりユニバーサルサービスとして『車いすの人が来たら必ず乗せてあげてください』とすることが、僕は社会としての公正なルールだと思う。以前も、熱海で車いすの人が電車に乗れなくて問題になったことがあったが、あのときもすごい批判が巻き起こった。あの問題も状況的に駅員さんがたくさんいた。そして、駅員さんが『そんなにリソースを割けない』みたいな話だった。僕は、リソースを割いていいのではないかと思うが、結局コストカットをこの20〜30年の間で、社会がやりすぎている。そうすると、コストをかけることにすごく抵抗感がある」と話す。
「障害者のためにユニバーサルなサービスをするために人員を増やしたり、コストをかけたりといった話になると、健常者が『自分たちのコストが取られるんじゃないか』という、ある種ゼロサム的な意識になってしまうのでは。『なんでそんなことに金かけるんだ。俺たちに金をかけてくれ』という反論が巻き起こってしまうわけだ。だからそれができない。必要なコストはかけて、それによって逆に経済回すといった発想に持っていかないと、いつまでたっても社会のありようは変わらない」
佐々木氏の説明に、佐藤氏も「バリアフリーの整備をするとき『障害者のためになぜ自分たちが負担を強いられるんだ』という意見がある」と共感。実際にメリットを得るのは「障害者だけではない」と話す。
「たとえば、駅にエレベーターがついたり、ホームドアがついたり、これは障害者だけがメリットを得ているわけではない。健常者もたくさんメリットを得ている。実際にホームから転落する人は健常者の方がずっと多い。そういう人たちが転落せずに済んでいる。エレベーターも、障害者だけでなく、健常者でも大きい荷物があったり、疲れたときに乗っていただいて構わないものだ。みんなが恩恵を受けていくものであって、実際に障害者だけのものではない」
（「ABEMA Prime」より）
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