今年の夏、ヨーロッパを襲った記録的な熱波によって「ムール貝」に大きな被害が出ている。
【映像】「空いた殻を使って…」現地風の食べ方(動画あり)※5:45ごろ〜
週末、フランス北部の観光都市リールでは、3年ぶりにあるお祭りが開かれていた。現地を取材したANNパリ支局・金指光宏支局長はこう話す。
「日本人にとってムール貝はあまり馴染みがないかもしれませんが、日本でもスペイン料理店などのパエリアに入っていたりと、広島などでも養殖されています。フランスには、砂浜に杭を打ってそこに貝を巻き付けて養殖する『ムール・ドゥ・ブッショ』という、フランス独特の製法があります。私が取材した養殖場はパリから北東に車で4時間ほどの場所にあり、日本でも有名なモンサンミッシェルの近くにあります。モンサンミッシェルも潮が満ちると島になり、潮が引くと歩いて渡れることができます。そういった潮の満ち引きを利用したやり方で養殖されています」(以下、金指光宏支局長)
実際に、リールで行われたお祭りを取材した金指支局長は「2日間で各地から200万人〜300万人が訪れた」とその熱気を語る。
「アンティークから食器、粗大ごみに捨てられていそうな家具やキャラクターカードまで売られている、蚤の市のようなお祭りです。それとともに各レストランがムール貝を提供していて、リールは地図を見ると海に面していませんが、付近の海で獲れるため地域の名物となったのではないかと思われます。リールのすぐ北はベルギーで、ベルギーでもムール貝は名物料理です」
また、金指支局長によると、ある店ではお祭り中に10トンものムール貝を消費したという。
「どんぶりよりも大きいサイズのお椀にムール貝が入っていて、それとフライドポテトがついてきます。値段は15.9ユーロで、日本円だと2200円ほどですね。価格は日本からすると高いかもしれませんが、現地では平均的なランチ代です。玉ねぎやセロリも入っていて、口を一回さっぱりさせてから、またムール貝を食べるといった流れが一般的です。そこまで高級料理ではなく、庶民的な味でバターやにんにくなど、カレー風味もあります。イベント全体では、2日間で約500トンが消費される人気ぶりです」
しかし、この夏、ヨーロッパ各地が熱波によって、40℃を超える記録的な暑さになったことで、ムール貝の収穫量が減少。加えて養殖場近くの海岸で急速に増殖した「クモガニ」の存在が追い打ちをかけている。
「フランスでは今年7月が『この60年で一番雨が降らなかった7月』となりました。海の温暖化が進むと、海が酸性化します。そうすると貝殻が作りにくくなってしまうのです。さらに熱波とともに今年のフランスは雨が少なく、川からさまざまな成分が海に流れ込まなくなり、結果、エサとなる植物プランクトンも減り、全体として成長が遅れてしまったのです」
さらに、地元漁師の話では、ムール貝をクモガニが食べてしまう事態に陥っている。
「この数年、養殖業者はカニの捕食被害に頭を悩ませています。クモガニは本来冷たい水を好むのですが、温暖化によって水がどんどん温かくなり、冷たい水を求めて北上してきたのではないかとみられています。さらにこの海域の環境に順応し、年に1回、1カ月ほどだった産卵期が2回になり6ヵ月ほど滞在するようになったそうです。取材を受けてくれた人は養殖会社の3代目で『近年カニ被害が深刻になった』と語っていました。やはり海の温暖化が原因だと推測していて、それを世界に訴えたいと言っていました」
クモガニを捕獲して食べることはできないのだろうか。
「フランス人は、カニカマはよく食べますが、カニはあんまり食べないそうです。売れないから、獲らない。カニも駆除された後は、そのまま沖合に再びリリースされます。養殖業者は獲ったものを売ったり食べたりするのは、禁じられています」
海の熱波はヨーロッパだけの話ではない。何か国際的に対策を講じないのだろうか。
「この夏、山火事などで陸上の熱波は注目されましたが、海洋熱波はまだあまり注目されていませんね。環境問題に比較的敏感なヨーロッパでもこの状況です。環境問題について話し合う世界的な会議、COP27がエジプトでありますが、取材に応えてくれた養殖業者は『会議ですべての海域の30%を保護する』に同意してほしいと話していました。パリは、きょう(9月5日※現地時間)は30℃を超える予想ですが、週末は最高22℃ぐらいの予想です。また雨も降るようになっていて、止まっていた噴水も動き出しました。ただ7月8月の水不足で葉っぱは枯れてしまい、街ではすでにたくさんの葉っぱが落ちているような状況です」