“強い絆感じる人にだけ性的欲求”デミセクシュアルと出会い「安心した」人と苦悩する人 多様性の時代に“カテゴライズ”する功罪は
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 30代のかなさん(仮名)。学生時代から周囲とのある違いに悩んできたという。「恋愛の話に共感というか、一緒に盛り上がることがなかなかなくて。ちょっと周りから浮いていたかなと感じていた。“不思議ちゃん”というか」。

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 多くの友人が好きな人や恋人をつくる中、他者に性的欲求や恋愛感情を抱くことがなかったという。「恋人になって付き合ってすぐキスしたとか、仲間内で夜遅くまで一緒にいて関係を持ってしまったとか、そういった性的な欲求の共感がまったく自分には湧かなくて。数学でどうしてそうなるのかわからない式を見ているみたい」。

 かなさんは自らを、他者に対して性的欲求を抱かない「アセクシュアル」だと思ったそうだ。しかし、「実は1回だけ恋人ができたことがあって。今までわからなかった、いわゆる大人の関係を持つことに対する違和感や不自然な感覚がなかった。『自分は何なんだろう?』と思っていたところ、インターネットで『デミセクシュアル』というカテゴリーを見つけて、これだなと」。

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 「デミセクシュアル」とは、基本的に他者に対して性的欲求を抱かないが、精神的な深い繋がりや絆を持った相手にのみ抱くことがある性的指向のこと。約2年の友人関係を経て交際に至ったというかなさんにとって、精神的な深いつながりとはどのようなものだったのか。「遊びに行ったり旅行に行ったりする中で、ちょっとした出来事を一緒に突破する、乗り越えていくようなことを積み重ねていって、ようやく信頼感というか絆みたいなものが作れていったのかな」。

 一方で、「『奥手すぎて恋愛感情もわからなくなってるんじゃないの?』みたいなことをけっこう言われる。そもそも人間関係に、恋愛的な感情や(性的な)行為を前提にした関わりがない状態だと思う。“恋愛しようとしていない”とかではない」。

 周りから見たらただの真面目な人、理解されにくいというデミセクシュアル。かなさん自身は数年前にこの言葉を知り、長年抱えてきた違和感が一気に解消されたそうだ。「他にも自分みたいな人がいるんだと思って安心したというのと、無理しなくていいんだと」。

■定義に安心も「“こうじゃないといけない”空気を感じるように」

 デミセクシュアルを自認するみくさん(仮名・24歳)は、強い絆を重視する一方で、自身の性的指向には今も揺らぎがあるという。「小学生の時に仲が良かった異性の友達に告白されて付き合ったが、その子をすごく好きなのに性的欲求を全然抱かなかった。高校生になって別れて、今度は同級生の女の子を好きになったが、その時は“相手に触れたい”という気持ちを持ったので、周囲と自分の性自認や愛情表現の仕方がなんか違うなというのが最初の違和感。その後、SNSで性自認を表すいろいろな言葉を知り、『ノンセクシュアル』がしっくりくると思ったが、性的欲求をまったく抱かないわけではないこともあって、もやもやしている。最終的にデミセクシュアルが曖昧さを一番よく表してくれていると思った」。

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 デミセクシュアルという言葉に出会い「ちょっとした輪郭ができた気がして安心した」と感じた一方、カテゴリーを定義することでその言葉に縛られてしまう感覚もあるという。「“同じデミセクシュアルなんだからデミセクシュアルらしくないといけない”と、似た人同士が求めるようになる感じがある。ノンセクシュアルのコミュニティの中には性的なものに嫌悪感を持っている人たちもいて、性的なものがタブー視されているような空気を感じたこともあった。“こうじゃないといけない”みたいなものが大変さに変わった」。

 「私個人として見てくれたらいいなと感じている。デミセクシュアルであることにそこまでこだわりはなくて、カミングアウトもしっくりきていない。自分のセクシュアリティや恋愛的なことをわざわざ言わないのと同じで、“自分はこう感じている”という部分だけを共有し合えたら。そこにデミセクシュアルだからなどという枠は必要ない」。

■「“普通の人じゃなかったんだな”と、自分が異物になった感覚」

 かえって生きづらくなったと語るのが、デミセクシュアルを自認するたろうさん(仮名・20代)。「デミセクシュアルという言葉に出会っていなければ曖昧なままでいられた。単語に出会うことで他人との線引きがされてしまったというか、“普通の人じゃなかったんだな”という、自分が異物になった感覚が強い」。

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 大学時代に自認した時から、他者との間に大きな壁ができてしまったという。「恋愛に比重をおいている人がいっぱいいる中で、他の人がいったい何を考えて生きているのかがわからなくなってしまった」。

 多様性の時代、細かくカテゴライズすることが最適解なのか。CailFrame認定講師でLGBTQ理解促進の企業研修などを行っている、自身もデミセクシュアル当事者のジョセフ氏は「今ちょうどその過渡期にあるんだなと。いろいろな言葉が出てきて、いろいろな自認をして細分化されていく。なぜそういうことが起きるかというと、“自分は何者なんだ”“自分と似た人と繋がりたい”という思いからなので、今は必要な段階だ」との見方を示す。

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 また、性的マイノリティが生きづらさを感じる点として、「他者から決めつけられてしまうところ。『なぜカミングアウトするのか』という質問をよくいただくが、何も言わなければ戸籍の性別と性自認が一致していて、私なら女性だと思われて“異性を好きになるんでしょ”という前提で『彼氏はいるの?』と質問される。“私はそうじゃないのにな”と思っていても勝手に決めつけられて、(性自認を)表明しづらいのがすごくつらいところだ。マジョリティでもマイノリティでも、恋愛する方にとっての“実らない”苦しさはある」と説明。

 枠に当てはめることの功罪については、「LGBT・性的マイノリティの割合は10%と言われ、これは左利きの方やAB型の方と同じくらい。誰かに会った時に、“あなたA型でしょう”と決めつけたりするだろうか。道具を渡す時に、左利きの人に右利き用のものを渡してしまうことはあるかもしれないが、左利き用のものがあれば“こっちがよかった”とすぐならないだろうか。それぞれの人が“決めつけてしまっているかもしれない”と認識することが大事だ」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)

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