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 SNSの「旦那デスノート」に妻が自分の悪口を吐き出していることを知ってしまったら…そんな恐ろしい事態に直面した夫婦のガチゲンカを描くコメディ映画『犬も食わねどチャーリーは笑う』が9月23日(金・祝)から公開される。主演を務めるのは香取慎吾。筋トレとうんちくが趣味のダメ夫・裕次郎を演じる。

 無神経な態度で岸井ゆきの演じる妻・日和をイライラさせる裕次郎に、香取も心の中で「しっかりしろよ!」とつっこみっぱなし。しかし、実はそのモデルは脚本も担当した市井昌秀監督。

 市井監督の前だと裕次郎の話をするのが気まずいという香取だが、ABEMATIMESは2人の対談を実施。徹底的に“カッコよく映ること”を拒否した撮影や、ダメ夫・裕次郎もとい市井監督からうつった口癖についてなど、和気藹々と語ってくれた。

出会いは14年前…市井昌秀監督が語る香取慎吾キャスティングの理由

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ーー香取さんを裕次郎役にキャスティングした理由を教えてください。

市井監督:14年前に、僕の自主制作映画(『無防備』)がグランプリを受賞した「ぴあフィルムフェスティバル」で慎吾さんが審査員をしていて、その縁でお話しさせていただきました。そのとき、自分の作品を推していただいて、すごく嬉しい気持ちになりまして。いつか一緒に、お金をいただいて作る映画でご一緒させていただきたいと思ってました。ただそのときは夢のまた夢という感じで、「こんなことできたらいいな」と妻と話していただけなんですけど。
その当時、慎吾さんは本人もおっしゃられていたように、キャラもの的な役柄を多くやっていたので、平凡な旦那さん役を「香取慎吾」が演じたら面白いのではないのかと思いまして。それで、慎吾さんを想像しながら書いていきました。

ーー香取さんありきで考えられたお話なんですね。香取さんは、オファーが来たときにその思いを知ったんですか?

香取:聞いてないです(笑)。でも、「ぴあフィルムフェスティバル」のときに、市井監督の作品が一番だと思ったら、グランプリをとっていたのを覚えています。そのときの作品の印象が強くて。そしたら、草なぎ剛主演作の『台風家族』の監督をしていて、「あの監督だ〜!」ってびっくりしました。僕じゃなく草なぎだったんですけど、あのときの監督が僕たちの近くに来てくれたことに「縁だな」と思って、自分のMVも監督にお願いしました。BiSHと一緒に歌った「FUTURE WORLD」て曲です。それで「ぜひ映画でご一緒したいですね」ってお話してたら、監督は考えてくれていたみたいです。

ーーこの話の構想はかなり前からあったのでしょうか?

市井監督:はい。「FUTURE WORLD」よりも前から考えていて、MV撮影後に執筆していきました。「旦那デスノート」というものの存在を知って、そこから徐々に膨らませていきました。ただコロナで撮影が2度延期になって大変でした。

平凡な旦那・裕次郎 香取慎吾が意識したのは「考えてるようで考えてない」こと

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ーー今回、香取さんは「平凡な旦那さん」役。「普通」を演じる難しさはありましたか?

香取:この夫婦はうまくいってなくて、裕次郎は奥さんのことがちゃんと見えていない。じゃあ自分のことだけ見てるのかというと、そうでもない。自分のことも見えてない。奥さんも、自分も、明日も見えてない(笑)。それなのにどこか前向きみたいなところに、僕の中では(裕次郎像が)行き着きました。
普段なら、撮影が始まる前に奥さん(岸井演じる妻・日和)のことを思ってしまう自分(裕次郎)のことを考えたりします。でも、それがこの役にはいらない。なので本番直前に全部なくしました。裕次郎は「俺はどうしたらいいんだろう…」て考えるようなシーンなのに、実際何も考えてないんです。「お腹すいたなー」とか考えてる(笑)。そうですよね?監督?(笑)

市井監督:裕次郎は「筋トレと雑学が趣味」っていうだけで、ぶっちゃけつまらないやつじゃないですか(笑)。そういう意味では、役としてキャラが立ってるとは思うんですけど…と言いますか、実は裕次郎のモデルは僕なんですけど(笑)。そういう奴にも僕は愛情を感じるので、そう描いています。深刻そうに見えて違うこと考えてるとか、本当にそういう奴だと思います。

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香取:監督との対談でいつもちょっと気まずいのが、(裕次郎は)結構監督のことなんですよ(笑)。僕は裕次郎をすごいダメな奴だと思ってるんですけど、今みたいに「(裕次郎は)何も考えてないんです」とか言うと、横で監督が「すみません」って言っちゃう(笑)。

市井監督:本当すみません(笑)。

香取:話していくうちに、あんまり言えなくなるんです(笑)。

市井監督:いないものだと思ってください(笑)。

ーー裕次郎は愛すべきキャラクターですよ!(笑)

香取:可もなく不可もない人ですよね(笑)。僕自身は結構いろんなことに挑戦して生きてきたので。可もなく不可もなくじゃ、「香取慎吾」はここまで生きてこれなかったので(笑)。裕次郎に対して、もっとしっかりしろよ!って思うんです。

市井監督:はい(苦笑)。

香取:「はい」って監督が!(笑)

市井監督:本当に自分が言われているようで(笑)。

香取:監督のことじゃないですよ!(笑)

香取慎吾、若い頃に芝居の現場でした“ずるい”行動

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ーー監督から香取さんに演技のリクエストはありましたか?

市井監督:努力をして様々な経験を積み重ねてきた香取慎吾さんのイメージが強いので、こんな中途半端な男を演じると言うのは、完全には想像できないんです。でも、「こんなことを言ったら面白いだろうな」とイメージして書いていったので、「ほんの僅かでも裕次郎に重なる部分があると思うので、そういう情けないところ、だらしないところを、虫眼鏡で大きくして、さらけ出してほしいです」というのを一点お伝えしました。
その後の人物像というのは、お芝居のセッションで慎吾さんがさらけ出していってくれて、僕はそれを嬉しく思いましたし、お任せしました。

ーー香取さんが見つけた裕次郎との共通点はどんなところですか?

香取:それこそ考えてるようで考えてないところ!実はこれ、すごい好きな言葉なんです。絵を描くときにテキストで入れていたり、SNSに時々書いていたりします。ボーっとしてて考えてるようで考えてないところがあるのは、自分にもある部分なのかなと思います。
あと、ずるいところはあるかもしれないです。お芝居中に監督に「もうちょっとこうしてください」とか言われて、「はい」って答えながら全然しなかったりします(笑)。それでOKってなったら「全然わかってないじゃん、監督!」って思ったりしてます(笑)。

市井監督:今回もありましたか?(笑)

香取:今回はないです(笑)。若い頃にありました。すごい怒られたから、「同じようにやってやろう」って。そしたら監督は「素晴らしい」ってすぐOK出て。「全然わかってないじゃん!」と思いながら「ありがとうございます!」って答えました(笑)。

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ーー「いい意味で」が裕次郎の口癖として出てきますが、お二人にも口癖がありますか?

市井監督:僕自身も「いい意味で」って言ってしまうんですよ。

ーー現場でも聞かれましたか?

香取:監督がゆきのちゃんと僕に「2人にこうしてほしいんですよ、いい意味で」って演出中に言ってきて、その瞬間に僕らは「監督、マジで言ってますか」となりました(笑)。でも本人は気づいてないんです。
この映画の中で裕次郎が「いい意味で」って言うのが、僕はすごく嫌で、監督も言ってて「え!?」ってなってるのに、最近、自分も「いい意味で」って言ってしまってるんです(笑)。映画の取材を受けてて気づきました。そしてこの間、別の雑誌で「新しい地図」の3人で対談してるときに、草なぎも「いい意味で」って言ってました(笑)。

ーー草なぎさんまで!(笑)裕次郎のうんちくのように語ってしまうことはありますか?

香取:僕はあまり語るのが好きじゃないんです。完璧にわかっていないと自分が嫌なんです。だからあまり語れないんですけど、あるとすればファッションについてですね。「あのブランドのデザイナーさんはどうで〜」とか。
だけど、草なぎや吾郎ちゃんは、自分の好きな分野を熱く語れる人なので、そこは羨ましいと思います。僕は完璧に事実を把握してないと、「〜みたいなんですよ」っていうのが入っちゃう。でも草なぎの場合は入らない(笑)。

ーー「アメトーーク!」のデニム回でも草なぎさんは語ってましたね!香取さんは「諸説あり」みたいなのが気になっちゃうんですね。

香取:そうです!すごく気になっちゃう。

ーー自分の「好き」と言い切るためのハードルが高いんですね。

香取:はい。だからいろんなことやってるんだと思います。YouTuberっぽいことをやってみたり、TikTokをやりながらも「遊んでるだけだから」って言っちゃう。本気でやるんだったら、本気で突き詰めてじゃないと言えない。

ーーストイックさを感じます。

香取:そうかもしれないです。「自由風」に見せといて(笑)。

『犬チャリ』ではよく映ろうとしない「シャツの襟元がよれていてもそのまま」

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ーー市井監督から見た、香取さんのお芝居の魅力は?

市井監督:俳優に望むものとして、「自分から離れない」というのが僕の中でキーワードとしてあって、着ぐるみになって演じるのではなく、自分の中で探して演じてほしいんです。これは岸井さんにも共通するんですけど、香取さんは一つの表情にキャラクターの過去であったり今の状況だったり、とにかく感情や状況が見えて、情報量が多いんです。沈黙の中に詰まっている。それは本当に役を掴んで、ちゃんとその役を生きている証拠。香取慎吾として裕次郎としてそこにいてくれている。そういうところが素晴らしいと僕は思っています。

香取:ありがとうございます。今のお話聞いて思い出したんですけど、今回の撮影中はカッコつけないようにしていました。『凪待ち』とかでも、多分カッコつけてたんですよ。役に入っていても、表情とか顔の角度とか、自然に人目を気にするところがあると思うんですけど、今回はそういうのを全く無くそうとしていました。

市井監督:言われてみれば『凪待ち』では甘美というかセクシーさ、落ちていく美学みたいなのがありましたよね。

香取:どちらかというと『凪待ち』の役は2枚目な人ではありましたしね。
役の気持ちとは別で、「見られてる」ということで俳優は自然にかっこつけてると思うんです。でも今回は、全く気にしないように。逆に自然に噛んでしまえばいいのに、つまずいてしまえばいいのにって思ってました。本番直前にシャツの襟元がよれていたら、普段なら直すけど、今回は直さない。気にせずそのままでいく。顎のたるみとかも、普段なら自然にシュッと映ろうという意識が働くんですけど、今回はそうしないように。リハーサルで意識してる自分に気づいて、「なに今の自分。(かっこよく映ろうとすることは)いらないな」と。

「言わなくてもわかる」というのは成立しない 『犬チャリ』で伝えたいこと

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ーー最後に本作で伝えたいことを教えてください。

香取:前から「言わなくてもわかる」というのは成立しないんじゃないかと思ってたんですけど、この映画でさらにその思いが強まりました。夫婦は言葉がなくても繋がってるとかあるけど、やっぱりここぞというときや、そうじゃなくても思いを声に出して言葉にするというのは大事だと、改めてこの映画で感じました。
夫婦だけではなく仕事でも、僕は言葉にする方です。みんなで会議をしてても、「これで行こう」ってなったら、参加してる人に端から端まで意見聞いて、「あぁ〜いいです」って言われたら「あぁ〜」ってなに?って気になるタイプ。そこに込められた思いが気になる。そこで話すといい方向に進んでいくから。裕次郎は声に出さなかったから、大変なことになりましたね(笑)。

市井監督:「夫婦」って絶妙なバランスで保たれているんだなということです。血が繋がってない男女が、紙切れ一つの契約で生涯生活を共にするって、よくよく考えたら気が狂った行為だなと思うんです。そこには、どちらもバランスを取ることが大事になってくる。それをラストシーンにこめています。
観客の皆さんがいろんな夫婦像を感じ取ってくれたら、それが答えだと思います。

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取材・文:堤茜子
写真:You Ishii

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