将棋の里見香奈女流五冠(30)が挑む棋士編入試験第2局が9月22日、東京渋谷区「将棋会館」で指される。第1局は徳田拳士四段(24)に敗れ黒星発進。残り4戦で3勝を目指し、第2局では岡部怜央四段(23)を試験官に戦う。史上初の女性棋士誕生なるか、大注目を集めている編入試験。夢の扉に挑む後輩へ、先輩女流棋士で日本将棋連盟常務理事を務める清水市代女流七段(53)がエールを送った。
里見女流五冠は2004年10月、女流2級としてプロ入り。当時から里見女流五冠を知る清水女流七段は「デビュー当時は制服姿だったんですよね」と懐かしそうに微笑む。すぐに頭角を現した里見女流五冠は、2008年度の倉敷藤花戦でタイトル初挑戦。タイトル保持者の清水倉敷藤花との3番勝負で連勝を飾り、16歳8か月で初タイトルを獲得した。
「タイトル戦で盤を挟んでいても、当時は若さと勢いとひたむきさと全力というのが全身からあふれていて、その初々しさがありましたね。今も、ひたむきさや将棋に対する純真な思いとか謙虚さは変わらないんですけど、さらに探求心、好奇心という思いが強くなっているのかなと思います。盤側で見ていてもそう感じますね」
以降、里見女流五冠は瞬く間にタイトル獲得数を伸ばし、奨励会編入から女性初の奨励会初段、さらには三段リーグ参戦と次々に歴史の扉を開いてきた。三段リーグは年齢制限による退会となったが、以降もその探求心と情熱を絶やさず懸命に将棋に向き合い続け、今年5月に棋士編入試験の受験資格を獲得した。
「感想戦を聞いていても『まだまだまだまだ!』という、自分が勝った将棋でも自分の課題が見つかったとか、弱さがここだというところとか、いつも自分に課題を突き付けていて、研究しているイメージがあるんですよね。そこまでしなくても、と思ってしまうくらいストイックと言いますか、それがより強くなっているように感じますね。自分自身への挑戦、という感じですね」
清水女流七段が感じる里見女流五段の変化。それは将棋に対する探求心や好奇心の向上だけでなく、外見の変貌にも表れているという。
「奇をてらったりというところがなくて、徐々に成長して進化しているというイメージがあります。いつも無理がなく自然体。それでいて強く逞しくなられたように見えます。
ただ、繊細な部分というのはずっと持っていらっしゃって、それは変わらないと思います。特に感じるのは、ファンの方々への思いとタイトルホルダーとしての自覚や責任。それをものすごく強く感じていらっしゃって、そういう変化も大きいのかなと思いますね」
女流棋界を飛び越え、開拓者として将棋界全体をもけん引する清水女流七段と里見女流五冠。対局はもちろん、言動や振る舞いなど一挙手一投足が大きな注目を集める日々だ。プレッシャーに押しつぶされそうになってしまうことはないのだろうか。
「私の初タイトルは19歳の時でした。無くすものがない、勢いある挑戦者ということで獲ってしまったんですけど、獲得してからものすごく重みを感じて。1年間、言動や行動も注目されますし、個人で言ったことが女流棋界全体のことと思われてしまうということがあって、翌年失冠してしまったんですね。
里見さんの場合は、若いうちから4冠、5冠となっても気負いがなく、自分が萎びてしまうことがないんです。もし押しつぶされそうになったら、それは自分が弱いせいだから鍛えればいい、みたいなところがあって。
逃げ出そうや投げ出そうではなく、受け入れて、消化していく。そこがすごく尊敬しているところのひとつです」
将棋界が、日本中が注目するエポックメイキングな挑戦。女性初の棋士が誕生となった場合、女流棋戦との調整や様々な制度の新設や変更などいくつもの事象が見込まれる。現職の常任理事職に就く清水女流七段にとっても“挑戦”となるが、腕の見せ所ともいえる。
「デリケートな部分で理事としての個人的な意見に留まらなくなってしまうので、どうしていきたいというのは言えないですが、里見さんは大きな決断をして挑戦をしてくれました。ファンの皆様が希望や未来を想像してくださる中で、里見さんにとって一番良い形、望まれている形や環境を整えられればそれが一番良いなと思っています。
それが里見さんのためだけではなくて、彼女を応援してくださる方や、将棋界を心配してくださる方が納得して快く応援してくださる形が望ましいと思っています。
それを今、みんなで日夜話し合いながら考えているところです。それが正解でどれがダメ、というのはないのかなと思っていて、何せ初めてのことなので」
そう語る清水女流七段の表情は、期待と喜びに満ち溢れている。前人未踏、夢の扉に手をかける者。輝く未来への設計図を描く者。その両者の視線の先へ、多くの声援が集まっている。注目の第2局は9月22日に東京・将棋会館で予定され、試験官は岡部怜央四段が務める。