瀬川晶司六段「誰かの人生が直接的に変わるわけではない」合格“第1号”が語る重圧との戦い方/将棋・棋士編入試験
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 将棋の里見香奈女流五冠(30)が挑む棋士編入試験第2局が9月22日、東京渋谷区「将棋会館」で指される。第1局は徳田拳士四段(24)に敗れ黒星発進。残り4戦で3勝を目指し、第2局では岡部怜央四段(23)を試験官に戦う。史上初の女性棋士誕生なるか、大注目を集めている編入試験。期待と注目を一身に背負い戦う里見女流五冠の今後の展望と、プレッシャーとの戦い方を編入試験経験者で合格“第1号”となった瀬川晶司六段(52)に聞いた。

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 瀬川六段は、奨励会三段リーグを年齢制限で退会。その後、アマチュア時代に棋士に7割以上の好成績を挙げ、棋士編入の嘆願書を提出した結果、2005年5月に特例として実施されることになった編入試験に挑んだ。当時、会社員だった瀬川六段は「サラリーマンの挑戦」として、日本中がその一局一局に注目した。

 「対局相手が決まって、驚いたというのが大きかったです。今回の里見さんように若手の棋士が並ぶと思っていたので、実際は奨励会三段の(佐藤)天彦くんとか、女流棋士の中井(広恵)さんとか、A級の久保(利明)さんですとか、バラエティーに富んでいて。ただ、こちらとしては受けさせてもらう側なので、全然何でもというか、ありがたいなと思っていました」

 受験者にとって、当時のランダム方式と現在の棋士番号の若い順で定められた方式は、どちらが戦いやすいのだろうか。

 「今の方が考えやすいのかなと思います。受けて立つ側も大変ですよね。ランダムに選び出すのも大変なので、今のシステムに規定化されたんだと思います。ただ、今回のように注目を浴びるケースだと、バラエティーに富んでいるのも面白かったかもしれないですね」

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 迷った時の選択基準は「自分が楽しいか、どうか」と掲げる瀬川六段らしく、フフッと柔らかな笑顔を見せた。面白そう、と期待を寄せるのには理由がある。それは里見女流五冠の変化だという。

 「将棋が型にはまらなくなったというか、自由度が増したなというのはここ1、2年の印象ですね。以前は型に決まった振り飛車が多い印象だったんですけど、たまに居飛車的なことをやったりだとか、編入試験第1局の作戦もそうですが、定跡通りでない戦い方も増えましたよね。それで結果も出されているので、新しい境地というか、将棋を楽しむ心境で指せているのかなという気がしますね」

 しかし里見女流五冠は、第1局でデビュー以来12勝1敗(8月18日時点)で勝率0.923、堂々のランキング1位に立つ気鋭の徳田拳士四段(24)に敗れ、黒星発進となった。瀬川六段も、試験第1局では佐藤天彦奨励会三段(現九段)に手痛い敗戦。プレッシャーに押しつぶされそうな心境は想像に容易いが、同じ星取となった里見女流五冠を瀬川六段の目にはどう映ったのだろうか。

 「見た感じでは普段通りだと感じました。でも徳田さんが強かったですね。自分の時も、1局目は固くなっていましたね。勝ちたいという気持ちがすごく強かったです。

 自分が1局目負けた時は、すごい応援もしてもらっていて『全敗で終わったらどうしよう』とか、プレッシャーに感じていた時もありました。でも、ある時ちょっと振り返って、僕が受かっても負けても、応援してくれている誰かの人生が直接的に変わるわけでもないし、結局は自分の問題だなと思って。そんなに深く考えるのはやめようと思うようにしました。

 その時はサラリーマンの仕事も楽しかったですし、アマチュアとして将棋を指すのも嫌ではなかったんです。合格すればプロ棋士としてやってていいよと神様が言ったということで、落ちたら趣味として楽しんでいけばいいと神様が言ってくれたと思って。そう考えたら、気楽に伸び伸びできるようになりましたかね」

 大空をふわふわと自由に漂う雲のようでもあり、大樹のようなぶれない心の強さを持ち合わせる瀬川六段。直接里見女流五冠に語り掛けることは無くとも、同じ棋士として想いは共有しているのだろう。注目の第2局、注目ポイントはどんなところにあるのか。

 「里見さんご自身も、目の前の一局に集中するということを言われていましたよね。大勝負はたくさん経験されているでしょうし、普段通り実力を発揮すれば巻き返せると思いますね」

 近い未来、同じ道を歩くであろう“仲間”であり後輩へ。そっと背中を押すような瀬川六段の笑顔は、温かさと優しさにあふれる。注目の第2局は9月22日に東京・将棋会館で予定され、試験官は岡部怜央四段(23)が務める。

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