プロ麻雀リーグ「Mリーグ」には、全8チームにそれぞれスポンサーとなる企業がついている。EX風林火山であればテレビ朝日。1年目はマネージャーとして、その後は監督としてチームを支えることになったのが藤沢晴信監督だ。テレビ朝日ではイベントプロデューサーとして働いていたところ、Mリーグ発足のタイミングでチームを任されると「優勝しないと赤字だよ」と伝えられたという。「当然、優勝を狙えるチームを作らないといけないんですが、レジェンドと言われる強い人を指名して、テレビ局というエンタメ企業が、それでいいのかなと」と考えた末に、1年目のチーム構成を考え抜き、その後も斬新な企画をいくつも展開した。注目されるポイントを作ることに長けた藤沢監督の仕掛けは、5年目を迎えるシーズンでどんなものが飛び出すか。
各チームの監督がプロ雀士であったり、大の麻雀ファンであったりした中、藤沢監督はそれほど麻雀業界に精通していたわけでもない。むしろチームを任されると聞かされた後に、いろいろと情報収集し、勉強をしていったタイプだ。「(1年目の)当時、あまり麻雀業界に詳しくなくて、誰が強いんだという感じでした」。1年目のシーズン前に行われたドラフト会議のために、プロ雀士の要素を細分化した資料を作った。評判、協調性、ビジュアルなど、項目は多岐に渡る。今でもその資料は「捨てられなかったですね」と大事に残してある。
多くの資料に目を通し、1位指名を決めたのが、長年麻雀業界を引っ張ってきた女流プロの第一人者、二階堂亜樹(連盟)。「雀荘で生まれ育って、麻雀でずっと生きていた人ですからね。亜樹さんには(ドラフト前に)実際に会いに行ったんです」と、指名をする前から律儀に挨拶にも出向いた。2位には、ドラフト時には調子を落としていた人気雀士・滝沢和典(連盟)の名を書き、周囲を驚かせた。また3位には勝又健志(連盟)を指名したが、実は競合すると見込んでいた。「ドラフト会議で競合がないのも盛り上がらないじゃないですか」とひらめいたが、結果は単独指名。それでも、この3人組は1年目から高い守備力を特徴に安定した戦いぶりで、レギュラーシーズンを1位で通過。ファイナルシリーズでは赤坂ドリブンズの猛攻の前に準優勝に終わったが、手探りでの1年目での好結果に「気づいたらトップということがあって、こんなもんなんだなと」と、あまり実感もなかった。
続いて2年目。またしても順調にポイントを伸ばし、12月上旬まではレギュラーシーズン首位を快走していたが、ここからバランスを崩すと、一気に転がり落ちた。「また今年そんなものかと思ったら、一気に下がった。麻雀は確率じゃないですか。バランスがあって負けたから次は勝つと思ったら、ずっと負けた。そこで負けているチームの気持ちを知りましたね。選手に控室で声がかけられなかったですから」。1年目から順調すぎたチームに訪れた大不振の時期で、藤沢監督も初めて麻雀の怖さを痛感したかもしれない。結果、チームはレギュラーシーズン最下位で、2年目を終えた。
3年目を前に、決意表明した。ファイナルで3位以内に入らなければ、選手の入れ替えを自ら実施するという内容だった。「(前年)最下位だったのに、何もテコ入れしないのかとか、こういうことをしないとファンに怒られると思ったんです。1人ずつ面談もしましたし、全員が一発OKでした。でも思いのほか、ファンの方からお叱りの声も多かったですね。ファン心理は、好きな選手が好きなチームにいてほしいんだということなんでしょう」。ファンの思いを読み取っての決意表明に対して、反発の声が出ることは予想外だったが、KADOKAWAサクラナイツ・内川幸太郎(連盟)に言われた言葉が忘れられない。「これはいいですね、と言われたんです。麻雀プロはそういう気持ちでやっているんだと思いました」と、実施したことが間違っていないと思えた。
この決意表明が功を奏したのかは定かではないが、チームは苦しい中でもレギュラーシーズンを4位で通過すると、セミファイナルもぎりぎりの4位通過。そしてここから、勝又の大活躍もあり、チームは初優勝を成し遂げることになる。セミファイナルで敗退の危機に陥った時には「ファンに向けてのお詫びというか、シーズン終了のツイートの挨拶を考えていたくらいです」と笑った。
大逆転優勝の後、また斬新な企画を走らせた。オーディションだ。各団体から169人が参加したオーディションで勝ち抜いたのは松ヶ瀬隆弥(RMU)。優勝メンバー3人に松ヶ瀬を加えた4人で戦うものと思われたが、ここで滝沢がまさかの退団。「完全に想定外だった」と振り返る事態が起きた中、オーディションで松ヶ瀬に次ぐ2位の選手を指名することもできたが「人気の柱を持ってこないといけない」と考えた結果、3人の候補者から亜樹の姉である二階堂瑠美(連盟)を指名した。結果はセミファイナル5位で、連覇はもちろんファイナル進出すら逃す形になり「どれだけ盛り上げようと、結果は5位で『負けてしまった』という感じでした」と悔やんだ。
常にチーム、さらにはリーグ全体を盛り上げることを意識し、他のチームにはない企画なども考える藤沢監督。新シーズンに向けて考えた2つのスローガンは、王道だった。「原点回帰と乾坤一擲です。原点回帰については、卓上では誰も助けてくれないということ。プロが一人一人、自分だけの戦いをして、自分のポイントを守ること」と、チーム戦であることを意識しすぎることなく、個人として戦いに集中し、結果を積み上げることが大事だと語った。また乾坤一擲については「ここという時に勝つ。ここで勝ち切る力です」と、短期決戦になるセミファイナル、ファイナルでの勝負強さを求めた。
今期、ファイナル行きを逃せば、強制的にチーム構成は変更になり、1人以上のメンバーを入れ替えなくてはいけない。もちろん、過去に自発的に“縛り”を設けたこともあるEX風林火山からすれば、さほど驚きも重圧にも感じることはないだろう。自分たちがやれることを集め合って、その結果として目指すのが2度目の優勝。果たされた時には、イベンター藤沢監督の血が騒ぎ、きっとファンも一緒に歓喜する企画が一斉に走り出す。
(ABEMA/麻雀チャンネルより)