ONE Championshipの創設者兼CEOであるチャトリ・シットヨートン氏が3年ぶりの来日を果たした。10月17日の記者会見に出席するためだ。この会見で発表されたのは、11.19シンガポール大会の追加マッチメイク。青木真也vsザイード・イザガクマエフ、岡見勇信vsアウンラ・ンサン、若松佑弥vsウ・ソンフン、さらに平田樹vsハム・ソヒと興味深いカードが並んだ。メインイベントはキックボクシングのタイトルマッチ。バンタム級王者の秋元皓貴がペッタノン・ペットファーガスの挑戦を受ける。
この大会は日本ではPPV中継。日本のファンに向けてのマッチメイクという要素も強い。チャトリ氏によると来年は日本大会も予定。日本との関係はさらに強固なものになっていきそうだ。チャトリ氏の母親が日本人ということもあり、日本のファイターへの期待も大きい。ただ、日本人選手の試合ぶりに「まだ満足はしていません」とも。
「ONEという世界レベルの大会に出るだけではなく、世界トップクラスの選手にたくさん出てきてほしいんです」
ONEは格闘技の主流と言っていいラウンドごとの採点ではなく、試合全体を見てジャッジが勝ち負けをつける形式を取っている。重視されるのはフィニッシュに近づくこと、それにダメージ。「よりリアルなファイト」を志向するからだ。「フィニッシュレート(一本・KOで決まる率)は70%、世界のどの団体よりも高い」とチャトリ氏は胸を張る。そういうイベントだからこそ、日本人ファイターにもフィニッシュを狙う闘いを求めている。
「武士のように“倒す”、“仕留める”という気持ちでファイトしてほしい。昔、日本がMMAトップの国だった頃はそれができていましたよね。桜庭(和志)がそうだった。でも今は試合をゲームとしてやっている選手が多い。ポイントで勝てばいい? そうではないんです」
もう一つの日本の課題は、選手が置かれた状況だ。
「選手は二つの仕事をしている。一つは格闘技。もう一つはお金のための仕事。格闘技にフルタイムで専念できる選手が少ないんです。だから我々は有望な選手と契約して、サポートしていく。選手の未来への投資です」
今回の来日でも柔術アカデミー「カルペディエム」に練習に赴くなど、チャトリ氏は日本のジム事情もよく見ている。
「日本はまだまだ格闘技のジムが少ない。それに東京だからなのかスペースも小さいですね。アメリカや中国、シンガポールには巨大な“メガジム”がたくさんあります。中国は政府がスポーツ選手の育成を後押ししている。日本もそうあってほしい。世界で活躍するためには、数という面でも規模という面でも上げていかなくては」
(2021年、ONEのビデオ再生回数はあらゆる人気スポーツを抑え、NBAに次ぐ2位となった)
■目指すは世界最高の格闘技イベント 求めるのは「“倒す”、“仕留める”」ファイター
日本ではフロイド・メイウェザーvs朝倉未来のエキシビションが話題となった。ONEはそうした路線に興味はないのだろうか。
「いろんな路線があっていいですが、我々はエンタメではなく本物志向でやっていきたいですね。選手には日本で人気になるだけでなく、世界的にリスペクトされるアスリートになってほしい。たとえば大坂なおみ、イチロー、大谷翔平のようにね」
次の日本大会では、誰が主役になりそうか。やはり青木真也や秋山成勲といった実績のある選手だろうか。チャトリ氏は彼らのような「レジェンド」を大事にしながら、未来を見据えていきたいという。
「若い選手たちに注目が集まるようにしていきたいですね。たとえば秋元のような選手。彼は立ち技において本当の世界トップ。日本でもっともっと存在が知られていい」
(テレビ視聴率でもUEFAチャンピオンズリーグに次ぐ4位に)
ONEはアジア発の格闘技イベントであり、日本をはじめさまざまな国の格闘技文化、武道の精神を大事にしたいという。その上で、目指すのは世界最高の格闘技イベント。
「ニールセンの調査では、世界的に見てテレビでもネットでもONEの数字はUFCより上なんです。それだけじゃなく実際の強さも示したい。だからONEとUFCの対抗戦を実現させたいですね。各階級のチャンピオン同士が闘ったら、我々が勝ち越すでしょう。私はそう信じてます」
そこまで自信を持っている大会だからこそ、日本人選手が勝ち上がるのも簡単ではない。簡単ではないからこそ、闘いがいもある。チャトリ氏は言った。
「これからも日本人選手を増やしていくだけの枠はあります。でも契約するのは“倒す”、“仕留める”ファイターだけ。そういう選手こそ、世界トップに行けるんです」
文/橋本宗洋