神奈川県横浜市に住む女子中学生を誘拐したとして逮捕された28歳の会社員の男が17日、自殺ほう助の容疑で再逮捕された。女子中学生は川で遺体となって発見されたが、男は相模原市内の川の上流部まで車で連れて行き自殺の手助けをしたという。
2人が知り合ったきっかけは、女子中学生がSNSに自殺願望をほのめかす投稿をしたこと。徐々に明らかになった2人の関係に、Twitterでは「SNSで知り合って自殺ほう助する事件って多い」「自殺を悩む子が最後に助けを求めたのがSNS」「自殺したい人にとってネットはいいツールなのかも」などの声が見られる。
自殺を防ぐ支援や対策のあり方とは。17日の『ABEMA Prime』は考えた。
自殺とSNSの結びつきについて、NPO「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「僕もSNSの相談窓口を開いていて、1日約1500人から相談が来る。家族や学校の先生など周りの人たちには話せない、声も顔も出したくない、名前も明かしたくないという人たちにとって、SNSは唯一頼れる場所だ。出会う人全員が悪いわけでも、ツールが悪いわけでもなくて、使い方や活用のところに非常に大きな課題がある」との見解を示す。
さらに「SNSで、個人で相談窓口を開設されている方、個人で相談して下さいという方が非常に増えているが、近づかない。中には善意の方もいるが、客観的に安全を確認できないので、厚生労働省のHP等に掲載されている窓口を利用してほしい」と注意を促した。
2017年の座間9人殺害事件を取材、自殺志願者とSNSの関係などに詳しいジャーナリストで中央大学文学部講師の渋井哲也氏は「2000年の掲示板の頃は、SNSのようにみんなが同じサイトで頻繁にやり取りをしているわけではないので反応が遅かった。今はTwitterが多いと思うが、心の整理をする前に反応が来てしまうということで、衝動的な書き込みが以前より増えた印象はある。一方で、反応がないと独りぼっちの感覚になってしまう人も多く、そうすると孤立が高まる可能性もある」と指摘する。
誰にも相談できないという人がいる中で、プッシュ型で支援することはできるのか。大空氏は「これはまさに今、我々も含めて取り組んでいるところ。座間の事件を含めて、基本的に事件はTwitterで起きているケースが多い。おそらく『死にたい』という単語は毎秒つぶやかれていると思う。ただ、中には『テストで点数が悪かったから死にたい』というような使い方もされる。そこで、相談窓口に集まる『死にたい』というつぶやきの前後のデータを集めていき、どういう文脈で使われているかをAIが学んで、相談窓口が自動的に“いいね”を押していくような取り組みが始まっている」と説明。
「死にたい」というツイートに“いいね”を押すことは助長していると勘違いされないのか。「誰がするかによる。私たちのような、厚生労働省に掲載されていてTwitterの公式マークがついている登録窓口が“いいね”をしていく。いきなりリプライで『相談』と言うと重すぎるので、存在に気づいてもらうという意味合いだ。必ずしも相談に来いということではなくて、“そういう場所もある”と選択肢を提示することが大事。“こういうところもあるんだ。気軽に使ってみよう”ということで、比較的多くの方が利用されている」。
大空氏は一方で、「個人的な感覚だとTwitterが一番遅れている。例えばInstagramやTikTokは、『命を絶ちたい』『自殺』とか自傷行為をほのめかすような投稿がそもそもできなくて、ポップアップのような形で窓口を表示する。Twitterの場合はポップアップで電話相談窓口が表示されるが、子どもたちはほとんど電話を使わない。座間の事件があって、また今回も事件が起きているのに、プラットフォーマーとして何も対策を講じていないのは追及されるべきではないか」と疑問を呈する。
渋井氏は「事件後のつぶやきを見てみると、容疑者あるいは逮捕された人にシンパシーを感じて『私もそちら側に行きたかった』という書き込みも多くなる。そういう意味で、『死にたい』といったつぶやきに近づいてくる人を抑制するのは大事だと思う。日本の他のSNSは事業者の協会を作ってそういった投稿ができないようになっていて、確かにTwitterだけが規制から逃れている。一方で、Twitterで規制をすると、おそらく別の言葉を使って誘引するようになると思う。援助交際やパパ活なんかがそうだが、常にその言葉を追いかけていくのか。『死にたい』とつぶやく人はTwitterから離れていき、また別のSNSができていくのではないか」と懸念を示す。
これに大空氏は「いたちごっこになってもやるべきだ」とし、「別のところに逃れたり、垢バンされたアカウントにアットマークをつけて、表にタイムラインが出てこないような形で会話するというのは実際に行われている。ただ、“命を絶ちたい”と思う感情には波がある。頼れる人や誰かとつながることで一時的にでも自殺を防げるので、いたちごっこでも非常に大きな効果があると思う」と述べた。
テレビ朝日の田中萌アナウンサーは「小学生くらいの時にいじめられていて、ずっと死にたいなと思っていた」と告白。一方で、「今は幸せというか、“生きていれば絶対にいいことがある”と強く思っている。でも、それは私が今生きているからだ」という複雑な思いを明かす。
「当時は家族にも言えないし、友だちもそんなにいないし、学校の先生に言うのは自分のプライドが許さなかった。スクールカウンセラーの人もいたが、“そこに言ってバレたら、広がったらどうしよう”と。誰にも相談できずに生きていた期間が数年あった。今はSNSでつぶやくことができるし、ちゃんとした窓口もあって、それらを利用できるのはいい時代だなと思う。それでも、なかなか自分の思うような相談ができず、悩んでいる人もいるだろう」
大空氏は最後に、「『自殺がダメだ』という言葉は非常に乱暴で危険だ」というメッセージを発した。
「死ぬ怖さと生きる苦しさが本当にせめぎ合っている時に、『その悩みは持続しない。絶対に明るい未来がある』という言葉では救われないと思う。延長線で安楽死がよく議論されるが、自殺は死ぬ権利を行使しているわけではなくて、追い詰められた末の死。死ぬ権利の行使ではなくて、生きる権利を行使できなかった結果として起こっている。そうした時に『死んじゃダメだ』と言うと、最後の手段まで奪われている気持ちに、僕の苦しかった時を思うとなってしまうと思う。今SNSでは、個人で相談を受けている方がたくさんいるが、“この人はきちんと研修を受けたある程度信頼できる人だ”と認証するような仕組みを作ってはどうか。“SNSゲートキーパー”のようなかたちでもいい。具体的な制度に落とし込んで、どうすれば出口を確保したまま生きることを選択してもらえるかを考えていきたい」
(『ABEMA Prime』より)
厚生労働省は悩みを抱えている人に相談窓口の利用を呼び掛けています。1人で悩みなどを抱え込まず、「こころの健康相談統一ダイヤル」や「いのちの電話」などに相談してください。
・「こころの健康相談統一ダイヤル」0570-064-556
・「いのちの電話」0570-783-556、0120-783-556
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