父の“性別変更前後”に生まれた姉妹、親子関係認知は“長女のみ” 異例の裁判を担当する弁護士「時期の違いだけでこんな不平等があっていいのか」
【映像】長女と次女に起きた“不平等”
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 女性に性別を変更した元男性の精子を使って生まれた2人の娘。親としての認知ができるかが争われた裁判で、東京高裁は「長女のみ認知できる」とする判決を言い渡した。両者を隔てたのは出生時の“性別”だった。

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「次女が認められなかったのは残念に思うし、最高裁に訴えていかなければいけない」(性別適合手術を受けた女性)

 訴状などによると、40代の女性は性別適合手術を受け、2018年11月、法的に「男性」から「女性」に性別を変更。その数カ月前には、この元男性の冷凍保存していた精子で、パートナーの女性が長女を出産。また、性別変更後の2020年にもパートナーが次女を出産していた。

 しかし、自治体は性別変更を行った女性と娘2人の親子の認知届を受理しなかった。そこで、パートナーがあえて娘2人を原告として、元男性の女性に対して“親子の認知”を求める裁判を起こした。しかし、1審の東京家庭裁判所は2月「現行法制度と整合しない」として訴えを退けた。

父の“性別変更前後”に生まれた姉妹、親子関係認知は“長女のみ” 異例の裁判を担当する弁護士「時期の違いだけでこんな不平等があっていいのか」
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 そして迎えた8月の控訴審。東京高裁は「長女の出生時、女性はまだ法律上の男性」だったとして、一審判決を破棄。法的に女性が、長女の父親と認める判決を言い渡した。その一方で、次女については「生まれた時に女性の法律上の性別が変わっていた」として、女性を父親と認めなかった。

「次女も認められるべきだと思っている。セクシャルマイノリティーだからといって、“子どもを持っていけない”ということはないのではないか」(性別適合手術を受けた女性)

■弁護士「時期の違いだけでこんな不平等があっていいのか」

父の“性別変更前後”に生まれた姉妹、親子関係認知は“長女のみ” 異例の裁判を担当する弁護士「時期の違いだけでこんな不平等があっていいのか」
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 なぜ、長女の親子関係が認められ、次女は認められなかったのか。原告代理人の仲岡しゅん弁護士に話を聞いた。

――次女との間には親子関係が認められないと判断した東京高裁の根拠について、受け止めは?

 そもそも一審で認められなかった理由は、Aさんは女性になっているので“女性は法的に父になれない”ということ。一方で生んでいないから母にもなれない。当事者たちが親子になりたいのに、それを認めないのはおかしいということで高裁に上げた。

 高裁はなぜ長女だけ認めたかというと、「認知請求権」を基準に判断したから。長女が生まれたとき、Aさんは法的にはまだ男性で、生まれた時点で認知請求権は発生していた。ところが、次女が生まれた時点では女性になっていたので認知請求権が発生しない。要するに“時期の違い”で判断が割れてしまったということだ。

――今回の裁判は家族間で原告と被告がいる異例の裁判。

 マスメディアでも誤解されているが、親が「認知を認めてくれ」と求めている裁判ではなく、子どもが「強制的に認知をしろ」という“認知の訴え”をしている裁判。原告も被告も私の依頼者で、裁判所だけがそれを認めていないというのが正しい構図。

 本来、原告と被告の両方が自分の依頼者というのは、「利益相判」になるからダメ。しかし、今回は特別に “利益相反解除の合意”を本人たちにしてもらって、依頼者同士が訴え合っている。

――今の形のままだと長女と次女の間にどのような差が生じると考えられる?

 長女は親がいる状態になるので、父母へ養育費請求ができるし、両親が亡くなった時の相続もできる。ところが次女は、親が亡くなっても相続できないし、扶養請求権も曖昧という、とても不安定な状況に置かれてしまう。同じ親から同じ方法で生まれているのに、時期の違いだけでこんな不平等があっていいのかということだ。

――今後、次女に関しては最高裁に上告する意向だが、どのように争う?

 残念ながら、最高裁判所も“自分で踏み込んだ判決”はしようとしない。それでも、戦い方はあると思っている。まず、憲法14条には「法の下には平等である」という規定がある。「同じ姉妹なのに不平等が生じてしまう。これは憲法違反じゃないか」というような主張をしようと思っている。

 もう1つは、憲法13条の「幸福追求権」による主張。人間誰しも「自分が自分らしく生きられる権利がある」と憲法上認められている。ところが次女の場合、自分の親がいるのに親として認めてくれない。「これは、幸福追求権の侵害ではないか」という主張をしていこうと思っている。

――最終的にどのような着地を目指している?

 この社会には様々な愛のあり方、家族のあり方があるが、それに法律が対応しきれていない。そういった人たちについては“解釈”によって救済していかなければならないが、法はそれをせずに、法に人間を当てはめるような考え方をする。そうではなく、人間のために法があるので、いろんな愛や家族のあり方を承認していかなければならないと思う。それが本来の「法の在り方」だ。

(『ABEMAヒルズ』より)

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