「FIFAワールドカップ2022」まであと約1カ月。11月1日の代表選手発表を前に盛り上がりを見せるが、プロサッカー選手になれる確率は約1300人に1人。ほんの一握りの厳しい世界だ。
さらにネットでは、「海外に比べて給料安いのにモチベ上がらなくない?」「他のスポーツより選手寿命が短い…」「辞めた後はただの人なのに就職どうするの?」などの意見も。
選手になるまでも、なった後も大変なサッカー。それでもいろいろな立場からプロを目指す人たちがいる。現在27歳の森下仁道さんは、プロを目指して名門・筑波大学サッカー部に入部。しかし、150人の部員の中で、1つ下にはワールドカップでも活躍が期待される三笘薫選手がいるなどし、自身は5軍に。その後、2軍に昇格するも、プロからのオファーはなかった。それでも、「不思議と“プロにはなれない”という思いはなかった。Jリーグは確かに難しいが、自分が輝ける環境や舞台は絶対どこかにある」と思っていたという。
そうした中、アフリカのザンビアで開かれる学会の話を聞きつけ、関係ない立場ながら教授に同行を直談判。現地に赴くと、サッカー関係者にプレーを撮影したQRコード付きの名刺を配布。トライアウトを経て、ザンビアサッカー1部の「FC MUZA」とプロ契約に至った。
現在はさらにレベルの高いガーナ1部の「エブスア・ドワーフスFC」に移籍。ただ、その裏では苦労もある。「一番はやはり食事。日本に栄養士をつけていて、食べたものを撮って送ってフィードバックをもらうが、ザンビアは食虫文化。芋虫や羽蟻の写真を送ったら、泣きながら電話がきて『ごめん、わかんない。教科書に載ってない』と。そういう文化にアジャストするのは大変」。
さらに、ピッチに牛が乱入、洗濯機がないなどのほか、差別もあるという。「2種類あって、僕らは『オブロニ』や『ムズング』と呼ばれる。これは白人に対する差別的な表現だ。もう1つはアジア人に対してのもの。中国資本が入ってきていることもあって、反中感情の強い現地住民も中にはいる。ザンビアでのトライアウトで、最終的に契約書をもらったが、直前で“やはり中国人みたいな選手とは契約できない”と白紙に戻された経験はある」。
アフリカサッカーの金銭事情として、森下さんの場合はザンビアでは基本給1万円に勝利給3000円、ガーナでは基本給3万円に勝利給5000円。この他、住居や飛行機代、ビザ代、外国人ボーナスなどが支給されているが、「ザンビア、ガーナどちらもローカルな生活をしようとしたら大体月4、5万円くらい。外国人ボーナスをけっこう多めにいただいているが、それでも給料は3、4カ月未払いだ。こうしたことは日常茶飯事的に起こる」と明かす。
その要因としては、「サッカービジネス、スポーツビジネスとして破綻している部分がある。チケット代を払える人が少ない、チームもスポンサーを引っ張ってこられない、放映権も少ないし、グッズ販売もしていない。外国人を獲得することでスポンサーを引っ張ってこられないかということで、今回加入したところもある」とした。
そうした中でも、アフリカに渡って「よかった」と実感しているという。
「アフリカ文化の中で受容されていく過程を体感できたことがすごく嬉しい。街を歩いていたら、最初は『おい、チャイニーズ』と言われたが、いいプレーをしていたら『お前ジャパニーズの選手だったんだ』『仁道だ』、お店に行ったら『今日いいプレーしたからジュースご馳走してやるよ』と。異文化の僕の存在や価値を認めてくれる人たちがいる環境に身を置けたのは嬉しい。
サッカー選手と同時に指導もしている。また、サッカーを教えるだけではなくて、ドラッグやアルコールを乱用している子どもたちがどうすれば社会復帰できるか、というプログラムも提供している。そういう子どもたちが『仁道の試合があるから応援に行こうよ』と、お互いを支え合うような関係性ができているのは幸せなことだ」
森下さんの最大の目標は、2025年クラブワールドカップに日本人初のアフリカ代表として出場することだ。
「日本人が出た事例はまだないので、サッカー選手としてのステップアップ、パイオニアになっていきたい。そのためには、今置かれている環境で結果を出していくこと。アフリカは北の地域のレベルが高いので、ゆくゆくはモロッコやエジプトに移籍できたらと考えている。今はもうアフリカに振り切って、“ここで骨をうずめてやろう”という覚悟でやっている」
(『ABEMA Prime』より)
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